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第五話 お嫁に行きたいだけなのに~パート2~

 今となっては。

 世界の平和と民の平穏のため、運命と家柄に強制されている感も無きにしも非ずな勇者業であるが、そもそもは。


 魔王討伐は、ルルリカ自身が言い出したことだった。


 あの時――――。

 ルルリカの婚儀のみならず、世界もまた、かつてないピンチに陥っていた。

 ルルリカの婚約者と兄どものみならず、魔王討伐を掲げて旅立った次代の勇者候補たちは軒並み返り討ちに会い撃沈した。

 魔王討伐どころか、魔王まで到達できたものは一人もいなかった。

 魔王城到達がせいぜいで、それも入り口の辺りでボコされて全滅したり、辛うじて退却したりと散々な結果だった。


 次なる縁談相手を探すどころの話ではなかった。

 人類の存亡がかかった大ピンチだった。

 そこで、ルルリカは閃いた。


「そうだわ! 私だって初代勇者の血を引いているんですもの。私が魔王を倒せばいいのですわ!」


 そうすれば、問題なく嫁ぐことが出来るはずだ!…………という。

 少々……いや、大分、かなりお花畑な思い付きであった。

 今やルルリカも誰もが認める立派な勇者であるが、この時のルルリカはまだ。

 愛くるしい顔立ちも相まって、どこにお嫁に出しても恥ずかしくない貴族のご令嬢だった。

 花嫁修業は嗜んでいても、勇者の修業なんて齧ってもいなかった。

 当然、母親は監禁も辞さない勢いで猛反対した。

 しかし、父親は――――。


 しばし逡巡した後、ルルリカのお花畑な思い付きにゴーを言い渡した。


 ルルリカは、見た目よりも実用重視な魔法の加護付き軽装備に身を包み、騎士と魔法使いの少数精鋭部隊と共に旅立った。

 後で聞いた話だが、この時父親はルルリカの隠れた勇者としての素質に気づいたからこそ『ゴー』を許したわけではなく、帰らぬ婚約者と絶賛負け犬生活満喫中の兄どもに代わって務めを果たそうと健気な決断をした未亡人にすらなれなかった可愛そうな妹姫をダシにして、不甲斐なくも心折れて引きこもりになった兄どもの尻を叩くための苦渋の決断だったという。

 ルルリカについては、早々に音を上げて「帰りたい」と言い出すだろうと思っていたらしい。


 ――――が、方々の思惑を外れて、ルルリカは偉業を成し遂げた。


 スルッと魔王城へ辿り着き、ツイッと最奥の間へ侵入し、サクッと魔王を倒してしまったのだ。

 当時のルルリカ曰く――――


「窓から見ていた兄さまたちの修業風景を参考にして、剣に魔法の力をのせて、『えいっ!』ってしたら、魔王が勝手に消えてしまったんですの」


 ということのようだった。

 民衆は大歓喜したが、お供の騎士と魔法使いたちの目は虚ろだったという。

 しかし、何はともあれ、魔王は倒され世界には平和が戻った。

 か弱くも可憐だったはずの妹の決意に心乱され、葛藤し、何とか恐怖を抑えて奮い立ったさなかの慶事(ある意味訃報)に、取り残された兄どもとの間に確執は生まれたが、ルルリカは気にしなかった。


 次なる縁談がまとまりそうだったからだ。


 けれど、決まりかけた縁談は保留になり、いつの間にか立ち消えた。

 一度倒したら、その後数百年は大人しくしているはずの魔王が、新しい魔王城と共に再びポコッと生えてきたからだ。


 ルルリカは再び、勇者として旅立った。

 お供の騎士と魔法使いは、半分に減らされていた。

 辞退者が相次いだためだ。


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