第三話 お嫁に行きたいだけなのに
魔王を倒した日に野宿をするのは、暗黙の了解と言うヤツだった。
ルルリカのイメージを守るためだ。
ルルリカは、初代勇者の血を引く貴族の娘だ。
それもあって、ルルリカは初代勇者の再来とまで言われていた。
民衆からは、姫勇者様と呼ばれ、親しまれ尊ばれている。
ルルリカは民衆にとって、いや、全人類にとって、まさしく希望の星だった。
そして、今のところ、ルルリカに代わる星の存在は確認されていない。
それが、問題だった。
その問題さえ解消すれば、ルルリカは――――。
「どうして! どうしてなんだ! 私はただ! お嫁に行きたいだけなのに!」
パチパチとはぜる焚き火にあたりながら、ルルリカは吠えた。
ルルリカの夢は、お嫁さんになることだった。
その夢は叶うはずだった。
ルルリカには兄が二人いるので、他家に嫁ぐにあたって何の問題もない。
婚約者だっていた。
家同士のあれそれで決まった相手だが、ルルリカ的には何の問題もなかった。
貴族の娘とはそうしたものだし、ルルリカは恋愛ではなく、結婚そのものに憧れていたからだ。
けれど、夢は叶わなかった。
どころか、婚期ごと遠のいた。
すべては、魔王のせいだ。
「せめて、後一年……いや! 後半年! 半年遅く魔王が現れていれば! 夢は叶ったのに!」
ティトは程よく炙った干し肉を無言で差し出した。
ルルリカはむせび泣きながら渡された炙り干し肉に豪快にかぶりついた。
とても人様にはお見せ出来ない姿だ。
貴族の娘としても、乙女としても完全にアウトだ。
最初の魔王が現れたのは、今から三千年ほど前のことだ。
人類を征服するために魔界からやって来たのだそうだ。
人類は大ピンチに陥ったが、紆余曲折の末、一人の若者が魔王を打倒した。
若者は一介の冒険者だったが、栄誉の証として、勇者の称号と爵位を賜った。
ルルリカのご先祖様である。
それから、数百年おきに魔王は魔王城と共にフラッと現れて蹂躙を尽くした挙句、あるいはつくす前に、勇者の子孫や新たなる勇者の手によって倒されてきた。
前回の魔王が倒されてから、はや数百年。
そろそろ、新たな魔王が現れる頃合いだった。
とはいえ、今回も。
なんだかんだで、魔王は勇者に倒されるのだろうと誰もが思っていた。
実際、そうなった。
しかし――――。




