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ナンバリング  作者: 桜音 寿
コロニー編
5/17

小さなナンバリング

 コロニーの天気設定は晴天。

 人工太陽の光が燦燦(さんさん)と降り注ぐ中、コウガは無の表情になっていた。

 5、6歳の子供達が自分に群がり、キャッキャッと笑う甲高い声に騒がしいと、コウガは眉間に皺を寄せた。

 棒立ちしているコウガのそばでは、孤児院で働く妙齢の職員がくすくすと笑っている。


(なぜ、俺がこんなことに……)


 コウガは子供が苦手だ。うるさい、うざい、容赦ないが揃っているからだ。

 なのに、今日の配達ルートに孤児院が入っていた。

 なるべく近寄りたくない施設だが、孤児院からの指名で配達ルートに入れられてしまったのだ。

 コウガと違って、バディのネッドは楽しそうに子供と戯れている。

 ブランコやすべり台で遊ぶ姿は、チビどもと変わらないくらい幼く見える。

 呆れを通り越して、尊敬を抱くほどだ。


「ねぇ、念動力で僕を浮かせて。お兄ちゃん、念動力が上手だって有名なんでしょ」


 1人の男児がそう言い始めると、他の子どもたちも「私も」「僕も」とせがみ、我先にとお願いの大合唱を始めた。

 コウガは手やズボンを引っ張られ、なすがままだ。

 申し訳なさそうな職員と、微笑ましそうに見てくるネッドに、恨みがましい目を送ってしまう。

 もうどうにでもなれと、カルガモの親子のように子供を引き連れ、コウガは園庭に向かった。


 3つの三角屋根が連なる北欧風の孤児院の母屋。その前にある庭はブランコやすべり台、砂場などがあり公園のようになっている。

 花壇にはパンジーやマーガレットが植えられ、女児2人が水やりをしている姿を横目に、ぎゃぁぎゃぁと騒ぐ子供たちを念動力で浮かせてやる。

 なにが楽しいのかと思いながら、ゲラゲラと笑う小さな生き物を見ていると、先ほどの職員が近づいてきた。


「本日はありがとうございます。ご無理をさせてしまって」

「いや。俺を指名したということは、何かあったのだろう」


 コウガを指名する。それは、困り事があるということだ。

 助けを求められた場合、決められた配達ルートに組み込まれる。

 ナンバリングは能力によっては重宝される。

 困っている人がいれば、職種の垣根を越えて助けること。

 中立国の掲げる共存の理念の1つだ。

 神妙な表情をした職員は、砂場で遊んでいる子供達に視線を向けた。


「子供たちのことで……」


 職員の話では、超能力を発現する子供が出てきたという。

 実際に花壇で水やりをしている二人の女児の内1人は、わずかながら体を浮かしている。

 砂場で遊んでいる男児は水を発生させ、砂場に泥を生産している。


「孤児院の職員は非能力者ばかりで……子供たちに能力の使い方を教えられません。アストロ・エクスプレスのコウガさんならとお話を伺い……」

「俺に能力の制御を教えろと」


 言いたいことがわかったコウガに、職員は頷いた。

 確かに能力の制御は重要だ。このまま何もしなければ、誤って非能力者を傷つけ、これからの生活に支障がでる恐れもある。

 最悪、もめ事が起こる可能性もある。

 今、まさに起こっていた。能力を制御できなかったのだろう。

 水を発生させた男児に、ずぶ濡れになった男児が真っ赤な顔をして激怒している。

 別の職員が宥めているが、怒りが収まらない様子だ。


「なぜ、俺なんだ?」

「コロニーの代表から、能力の扱いがお上手だと伺いました。無理も承知でお願いしています」

「……」


 職員は心配な表情に切羽詰まった声だ。


「わかった。ただし、俺の休日に合わせてもらう」


 ため息をつきながら了承したコウガに、職員は


「ありがとうございます」


 と丁寧に頭を下げた。


 ※※※

 休日の朝。

 昼まで寝ていることが多いコウガは、寮から自分が所有する自動車で出発した。

 休日が被ったネッドとリーは、出かけて行くコウガを不思議そうに見ていた。


「珍しい。朝の弱いコウガがこんな時間に出かけるなんて」

「どこへ行くんでしょうね?」

「……まさか。デートとか!」

「コウガさん、彼女いたんですね」

「そんなわけないでしょ! 女の影なんて感じたことない!」


 バシッっと、リーの軽いパンチがネッドのわき腹に入った。

 のほほんとしているネッドに、ショックが隠せないリーの八つ当たりが直撃した。

 最速運送の事件以来、ギスギスした関係は改善しているが、力関係はリーの方が上である。


「ついて行くわよ」

「えっ、本当にデートだったらどうするんですか?」

「その時は……邪魔する!」


 ここでもリーのコウガ好きが炸裂した。

 ネッドは古い言葉を思い出した。「人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られる」と誰かが言っていたことを。

 気乗りしないネッドをリーが引きずり、強制的な尾行が始まった。


 コウガの行先は孤児院だった。

 孤児院の塀からネッドが覗くと、コウガは5、6人の子供たちと居た。

 男女の子供達は、真剣にコウガの話を聞いている。


(珍しい。コウガさん、子供が苦手そうだったのに)


 先日の配達では常に不機嫌な顔を通り越し、無の境地まで達していそうな顔だったのを思い出す。


「良かった。デートじゃなかったんだ」


 ほっとしたため息をついたリーは、透視で塀越しにコウガの様子を見ている。


「でもなんで孤児院なんでしょう?」

「んー。多分、能力の制御教室? 見た感じ集まっているのは能力を発現させた子みたいだし。ほら、あの子見て」


 ネッドは子供たちの1人に目を向けた。そこでは男児が大量の水を手から噴射していた。

 コントロールもされていない水が、周りの子供たちを襲う寸前でコウガが念動力を使い、空中で止めた。

 驚き、泣いている男児に、コウガが話しかけているが泣き止まないようだ。


「レアですね。あんなに慌てているコウガさん見たことない」


 泣き止まない男児に、コウガがタジタジになっている。


「まぁ、発現し始めたころのコントロールは皆無。泣いたってしゃーない。でもコウガに習うのは正解だよ」


 懐かしむようなリーに、そうなのかとネッドは目配せする。

 リーは胸を張り、自慢するように説明し始めた。


「コウガの念動力のコントロールの精度は天下一品。物を1つ動かそうとしたら、目的の物の周りにある物まで動くのが念動力では普通なんだけど。コウガの場合、ピンポイントで目的の物を動かすんだよね。どうやっているんだろ?」

「それは制御と違うんじゃ」

「同じだよ。意識して動かすもの、動かさないものを選別しているんだよ。私も見える範囲で、見るものを選別する訓練はしたよ。そりゃもう大変だった。制御ができなきゃ、好き勝手に見えるんだから、生活や人間関係に支障がでるよ」

「なるほど」


 訓練の記憶を思い出したのだろうリーは、苦渋を飲んだ表情をしている。

 ナンバリングも苦労しているんだな、とリーの顔を眺めていると、低く少しの怒りを含んだ声が背中から声した。


「お前ら、何をしている?」


 リーの視線があらぬ方向へ向いている。ネッドの顔に冷や汗が噴き出た。

 コウガだ。コウガが後ろに居る。

 ネッドが振り向くと、逆光で表情が見えないが、ギラギラとした目が問い詰めているようだ。

 大昔から「目は語る」と言われているが、本当だった。


「いえ。何も……。ナゼ、ワカッタンデスカ」

「嘘つけ。お前らの気配なんぞ。まるわかりだったぞ。お前ら、尾行が下手くそすぎる」

『すみません』


 腕を組んでいるコウガの威圧感に、2人して謝罪の言葉しかでない。

 この人は背中に目があるんじゃないかと思ってしまったネッドは、リーと共にコウガに首根っこを捕まれた。


「ちょうどいい。お前らも手伝え」


 ずるずると引きずられて着いた先は、子供たち目の前。

 子供たちの不思議そうな視線が、ネッドとリーに刺さる。


「おい。泣いているあいつをどうにかしろ」


 声を潜めたコウガがネッドに視線で指した先には、まだ泣いている男児。結局、コウガでは泣き止まなかったようだ。

 コウガはお手上げだと語る表情だが、言わないところを見ると不器用で優しい人だ。

 ネッドが男児の前にしゃがむと、顔を真っ赤にし、大粒の涙を流している。

 自分も昔はこうして泣き虫だったなと、父が笑いながら慰めてくれたことをネッドは思い出す。


「びっくりしたね。思ってたより、いっぱい水が出たね」


 ネッドが話しかけると、男児はしゃくりをしながら頷いた。


「僕、ちゃんとできないと。遊ばないって言われたから……」

「うん?」


 ネッドは背筋がひゃっとした。

 すでにリーが言っていた支障がでている。

 どうすべきか、考えあぐねる。能力を持たないネッドは、どう慰め、どう話すべきかわからない。


「制御できるようになるしかない」


 苦慮しているネッドの背後から、コウガが正論を突き付けた。


「俺たちナンバリングは自分の力を知り、自分で制御の仕方を学んでいくしかない」


 男児の泣き声が一段と大きくなった。


「そんな言い方……」


 突き放すように言ったコウガに、ネッドは憤慨(ふんがい)し振り向いた。

 コウガの背後で不安げな子供たちに囲まれたリーが、困った表情をしながらも頷くのが見えた。


「ネッド、しゃーないんだよ。能力が強大になるほど、ナンバリングは恐怖される。いくら共存ができている中立国でも、きちんと制御できなくちゃ生きていけない」


 リーの言葉を引き継ぐように、コウガが言葉を続けた。


「能力は良くも悪くも非能力者に影響を与える。中立国の生活を豊かにするが、破壊もする。将来、新世界へ移住したとしても能力が制御できなければ、生きていけない」


 コウガは無表情ながらも、握りしめている拳が見えた。

 ナンバリングにとって、この世界は生きにくいのかもしれない。

 制御ができなければ、居場所をなくす。

 ネッドはナンバリングの厳しい現実に、怒りは引いていった。

 できない者は行き場を失う。

 卒業式前にサンタクロース教授の授業に、集まった生徒たちを思い出す。彼らは、統一国の教育から落第を押された者たちだ。

 もちろんネッドもそうだ。

 ――人間を能力と成果で判断する。


(果たして、それでいいのだろうか? このまま落第点を押された者の末路は……)


 ネッドの脳裏に、先日の強盗犯の姿を思い出す。

 嫌な記憶を振り切るように、左右に頭を振ったネッドに、孤児院の窓から不安そうに覗く子供たちが目に入った。

 ――そうだ!

 ネッドはコウガに耳打ちした。


 しばらく子供たちと遊んで過ごしていると、自動車で出かけたコウガが帰って来た。

 コウガは自動車からいくつかの箱を念動力で出してきた。


「買ってきたぞ」


 不満そうなコウガは、ブルーシートと箱をドサッと置いた。

 興味津々で見ている子供たちにブルーシートを広げてもらい。

 ネッドは説明書を読みながら、箱の中にあったパーツをコウガの念動力で組み立てる。

 長方形のビニールを広げ、金属のポールを通していく。

 リーの透視で、ポールの接続を間違えてないか確信してもらいながら、黙々と作業を進めた。

 いつのまにか孤児院の中から、職員と非能力者の子供たちも様子を見にでてきていた。

 苦労して完成させたのは、金属ポールで支えた長方形の大きなフレームプールだ。

 深さも子供サイズで良い感じだった。

 プールを見たこともないのだろう職員と子供たちは、驚きと珍しさに歓呼している。


「さぁ、この中に水を出してみて、この中なら、いっぱい水が出ても大丈夫だよ」


 ネッドは泣いていた男児をプールに促すが、不安そうにコウガとネッドの顔を見た。


「大丈夫だ。傍に居る」


 男児に寄り添ったコウガは、


「ゆっくりでいい。手に中から水が少しずつ溢れてくる想像するんだ」


 と言い、頷いた男児は手をプールに向けた。手の中から水が少しずつ溢れだし、そのまま水量を増やしていく。

 勢いよく水が出たときにはコウガが「水を自分の中に戻すように想像をする」と教えていた。

 その姿を見たネッドは、コウガは先生に向いているかもしれないと思った。

 困ったらコウガかやっさんに聞いてみろと、会社内でも言われているほどだ。教えるのが上手い。

 プールの高さ半分ほど溜まった頃には、男児はコントロールのコツを掴んだようだ。

 失敗しても前を向け、失敗は自分の糧になると言っていた父の言葉を思い出す。

 能力者であろうとなかろうと、年齢関係なく失敗は付き物だ。

 案外、非能力者とナンバリングは変わらないのかもしれない。

 汗をかき、眩しいほどの笑顔になった男児をネッドは誇らしく思えた。

 早速、プールで遊ぶ子供たちを眺めながら、感慨深くなっているネッドにコウガが、


「助かった。よく思いついたな」


 と感心するように言ってきた。


「こちらこそありがとうございます。この時代に存在するかわからない物を探しだしてもらって」

「あぁ、大変だったが、事情を話したら商業施設の店員総出で探し出してくれた」

「えっ」


 プールを探すだけで大事(おおごと)になっていた。このコロニーの住人は、親切すぎないかとネッドは驚いてしまう。

 基本的にこのコロニーの住民は優しい。

 お互いに助け合って生きていると言ってもいいぐらいだ。

 ネッドの考えていることが分かったのか、コウガはニヤリと小さく笑った。


「ちなみにあのプールは寄付だ」

「えっ……」

「中立国の国民は、助け合いの精神が強いからな。コロニーのアカデミーや孤児院によく寄付しているぞ。能力制御のことを話したら快く寄付してくれた」


 住民の善意に口が開いたままのネッドは、呆然とプールを見る事しかできなかった。

 呆気にとられたネッドをよそに、コウガはプールを使い、制御教室を続けた。

 キラキラと光に反射した水の上を、歩くように浮遊の練習をする女児。

 プール越しに沈んだ物を透視で見る男児の講師しているリー。

 他にも、プール内で水流を作っている子、水を瞬間移動させている子もいる。

 泣いていた男児は、非能力者の子と仲直りし、仲良く遊んでいる。


(驚くこともあったけど……まぁ、いっか)


 子供の笑顔は偉大である。なにもかも、どうでもよくなる。

 ネッドにとっても、いい経験になったような気がした。


 いつの間にか、コロニーの天井がオレンジ色に染まっていた。

 孤児院に別れを告げたネッドは、コウガの自動車に乗り込んだ。

 コウガの隣の助手席を陣取ったリーに、


「ネッドは発想の天才だね。水の能力の子に自信を与えたよ」


 と言われ、ネッドにとって忘れられない日になった。

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