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ナンバリング  作者: 桜音 寿
コロニー編
13/26

緊急会議

 第1コロニーは、中立国の政治に学問、研究などを担うコロニーである。

 各国の情報が集まる重要なコロニーにアストロ・エクスプレスの社長であるブライヤ・ソーンは、政府機関の会議室に呼び出されていた。

 落ち着いたベージュのフロアマットが敷き詰められ、四方の壁の1つは窓になっている部屋には、重苦しい空気が漂っている。

 中央には円卓があり、ブライヤの他に男女4人が集まっていた。

 各コロニーの代表達である。

 中立国の政府は非能力者とナンバリングが2人ずつ選ばれ、中立国をまとめているのだ。


「本当にハメルのキューブは存在したのか。ハメルはとんでもない物を残したな」


 第2コロニー代表は太い首をさすりながら、しみじみと言った。

 ゆったりとした深い青色のつなぎを着ていてもわかるほど、筋骨隆々な姿。

 堀が深い顔に気難しい表情をした坊主の若い男性は、工業を担う第2コロニーそのものを表すかのようだ。


「うむ。キューブを巡り、争いが起こるのも見えだした。中立国が巻き込まれるのは避けられない状況かもしれん」


 普段はおばぁと呼ばれ、未来視のナンバリングであるシズが頷いた。

 コウガを呼び出した後、新たな未来を見たのだ。

 シズは第3コロニーの代表である。代表歴が長く、中立国の生きた歴史だ。

 そして、未来視は重宝されている。幾度も中立国に訪れる危機を見て、回避させてきた。


「そのキューブに、我が社の社員が関わることも見たようなんです」


 自社の社員が関わっている。それがブライヤを呼び出だされた理由だ。


「マイケル・サマナー。歴史家ですか。新世界から亡命してくるナンバリングを支援していると。第4コロニーにも亡命した者が何人かいます。話を聞いてみたのですが、よくわからない人物とのことです」


 コウガから伝えられたネッドが持つ情報。

 タブレットに表示されたマイケル・サマナーの情報を、困ったような表情で見る女性は第4コロニーの代表。

 落ち着いた声に、どこにでもいる母親のような顔つき、ふくよかな体型に薄い緑のスーツを着ている。

 穏やか雰囲気を纏っているが、一癖ある新世界と統一国の外交員を相手取る凄腕の女性。

 さすがは相手の思考を読み取る01のナンバリングであると、ブライヤは尊敬している。


「時の詳細はわからないが、必ず少女は現れる。その時までになせることするしかない」


 シズの言葉に第4コロニーの代表は、憂いを含んだ声で同調する。


「そうですね。第4コロニーでは不審な死亡事故が起こってますし、難民の数も増えている。世界は不穏な方向に向かっているのかもしれません。中立国民の不安の声が聞こえてきます。国民の安全が第一かと」


 初老の第1コロニーの代表は、年相応の皺を深くし厳しい表情で、代表達とブライヤの顔を見渡す。


「人類統一国では1年ほど前から、きな臭いことになっているとの報告も上がってきている。新世界も変わらず静かだが、所在のわからないハメルのキューブの存在を知れば、動いてくる可能性もある。そうなれば、シズさんの未来視のように中立国も巻き込まれるだろう。世界のどこかにあるのなら、中立国の領地も含まれる」


 第1コロニーの代表の苦悶の表情に、会議室はただならぬ緊張感が漂う。

 中立国は戦闘に特化した国ではないと、ここにいる全員がわかっている。

 ただただ、共存と平和な暮らしのために発展してきた国だ。

 沈黙が部屋を包む。もともと重苦しい雰囲気だったのに、また一段と重苦しくなった。

 空調が動いている音だけが響き、皆の目線はつやつやに磨かれた円卓の天板に落ちている。


「では、軍の強化を優先。各コロニーとの連絡も強化しよう。足りないと思われるところを強化すればいい」


 第2コロニーの代表が口を開いた。不安を吹き飛ばすような力強い声を皮切りに、各代表が次々と口を開く。


「そうですわね。どこから狙われるかわかりません。地上との連携も。第4コロニーは備蓄の量を増やします。それと避難場所の確保を」


 と、言った第4コロニーの代表だが、困惑気味だ。

 外交交渉をしている代表だけに、敵対する可能性に気分がよくないのだろう。


「では、アストロ・エクスプレスも協力をします」


 ブライヤが続く。

 普段は日本の本社に居ることが多いブライヤに、シズは驚いた。


「ブライヤは第3コロニーに留まると?」

「えぇ、シズさん。本社での仕事を終わらせた後になりますが。アストロ・エクスプレスは独自の通信システムで地上からコロニーまで繋げています。秘匿性の高い我が社の通信システムなら、気づかれずにシズさんの未来視で見た情報を伝えられますし」


 暗い表情をほどいた第4コロニーの代表は、ブライヤに微笑みかけた。


「それは、ありがたいですね。他の民間企業にも協力を呼び掛けてみましょう」


 と言い、それに第2コロニーの代表が勢いよく席を立つ。


「よし。第2コロニーは武器の製造を進めよう。ネイルから面白い提案があった。技術者を各コロニーに派遣する」

「では、今はその方向で。第1コロニーからは各コロニー防衛のため部隊を派遣する。皆、国民の為、中立国の平和のために動こう」


 第1コロニーの代表の言葉で、会議は終了した。

 代表達が急ぐように会議室を後にしたが、ブライヤと第1コロニー代表はまだ残っていた。

 2人が立っているのは壁一面の大きな窓の前。窓の向こうには第1コロニーの内部。

 中立国の中心都市を象徴するような立派なタワーや高層ビル群、歴史ある装飾を模した美術館のような建物が建ち並び、華やかな街が広がっている。

 そこは危機が迫りつつあることを知らない平和な光景であった。


「とんでもないことになった。長い平和が崩れるかもしれない。此度のことはお前と従業員には苦労を掛けるな」

「お父様。大丈夫です。中立国の平和を守るために動くことも、政府公認の企業の務めです。それに大事な従業員が巻き込まれる可能性がある。従業員達を守るのも社長の仕事です」


 動揺もないブライヤの微笑みに、第1コロニーの代表こと父親であるデミオナスは誇り高くなった。


「そうか。もしもの時はよろしく頼む」


 デミオナスのすべてを見通すような鋭い目には、申し訳なさが浮かんでいる。

 中立国の代表として、厳しい判断も辞さない人が珍しい。


(お父様は、昔から変わらない。国民の幸せを願っている)

「それに彼との約束もありますから」


 薄いピンクのスーツを着るブライヤは、ポケットからロケットペンダントを取り出した。

 ペンダントを開くと若い男性の写真。

 灰色の長髪を1つくくりにした色白の中性的な顔つきの彼は、今にも消えてしまいそうな雰囲気だ。

 だが薄い緑の瞳は力強く、未来に希望をもつ好青年だった。

 アストロ・エクスプレスの創立者。

 03のナンバリングの彼は、断絶した世界を繋ぎたいと言っていた。

 小さかった会社を大きくしていったが、道半ばで亡くなった。

 その意思を彼と恋仲であったブライヤは引き継いだのだ。


(守って見せる。見ていて。ナオキ)


 デミオナスは、愛おしそうに写真を見つめるブライヤに微笑ましくなった。

 お転婆だった娘が恋人を亡くし、見ていられないほどの悲しみから立ち上がり、今では立派に従業員をまとめている。

 デミオナスは窓の外を見た。

 このビルを一歩出ると、働く人々と元気に走り回る子供達。

 勤勉な学生達が日々を過ごしている。

 日々増える難民の問題が課題だが、穏やかな中立国迫る危機。


(守り通す。必ず)


 各コロニーの代表達が中立国の未来を守るために動き出したのだった。

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