俺で良いのか
「彩希さんとは、当面距離を取ったほうが良いかもしれません」
部屋の隅に立った優香は言った。
ここは喫茶店“ぷらなりあ”の2階。
一時的に間借りして、俺の部屋になっている。
事件から数日が経ち、世間はだいぶ落ち着いてきた。
俺はちょこまかとアパートから私物を持ってきたので、当面の生活と仕事には困らない状況。
「なぜそう思うんだ?」
優香に尋ねる。
あれから毎日、綾香は部屋に来て善後策を相談している。
この数日で、優香が初見の印象より優しく家庭的な性格だと気がついた。
表情に出すのが苦手なのと、硬い話し方で冷たい印象を受けがちなのだ。
今日の服装はといえば、ほぼ黒に近い濃紺のセーラー服。
銀髪で色素の薄い肌との対比が鮮やかだった。
てっきりコスプレかなにかと思ったら、某有名女子校の3年生と聞き、仰天した。
大人びているので、てっきり社会人だと思っていた‥。
「また先日の様な事が起こるかもしれません。彩希さんには耐えられないのではないかと、心配です」
あれから数日、彩希は部屋で塞ぎ込む事が多い。
やはりショックが大きかったのだろう。
「しかし、それでは彩希を守れない」
優香は金のアクセサリーの様な物を取り出した。
細い紋様が表面に描かれている。
「これは?」
「破魔のチャームです。身につけて接触すれば彼らの使う結界を無効に出来ます」
「奴らが妙に硬いのはその結界のせいか」
優香は頷く。
「これを彩希さんが身につけて居れば‥」
「奴らを直接殴れるって訳だな?」
「はい、よほどのことがない限り安全かと」
確かに結界を無くせば、彩希の体力ならある程度身は守れるだろう。
「それに、次に何者かが来ても、無関係な彩希さんを狙うとは思えません」
「そのために、距離を置け、と?」
「はい、この部屋を出て、早瀬さんたちとは離れるべきです」
「そうは言っても次の部屋を探すにも‥」
先日の事件で家やアパートに被害を受けた人も多い。
その人達が代わりの部屋を求めたので、近辺は今、空き部屋が乏しい。
「こちらで、ホテルでしたら用意できます。そこで私と潜伏するのはどうでしょうか」
「ホテルか‥て、君と一緒に?」
「はい。ホテルは不特定の人物が出入りします。護衛のためには最善だと思います」
「まてまて、君も未成年だろう? それはまずい」
「年齢的には18です。必要でしたら退学します。そうすれば1人の女、です」
「いや、そういう問題でも‥」
躊躇する俺を見て優香は嘆息し、
「やはり彩希さんと離れるのは厳しいですか?」
と言った。
「そういう訳でも‥」
俺は言葉を濁した。
確かにここ数年はほぼ身近に彩希達がいる生活だった。
他に身内が居ない俺は、彼らと離れると天涯孤独になってしまう。
その事実は予想外に重かった。
「私がそばにいるのでは駄目ですか? 私は信頼出来ませんか?」
更に訊ねる優香。
「それは‥」
確かに先日の時点では服従の術が有効だった。
だが一旦別行動した以上、解除されている可能性はある。
優香は俺の沈黙を肯定と感じたのか、
「‥脱ぎます」
言うか、スカートのホックを外し、脱ごうとする。
「ま、待て。どこでも脱げば信用できるというわけじゃない」
それを聞いて、一瞬思案する様子を見せる優香。
「‥確かにここでは人目も無いですし‥では失礼します‥」
そう言うと、ベッドに横になる。
「? 何のつもりだ?」
「私を抱けば、信用できるのでは?」
「馬鹿なことを言うな。そういう話じゃない」
「彩希さんの代わりには成らないかも知れませんが‥」
優香は身を起こし俺の手を取った。
「会えない間の寂しさを紛らわす位にはなります」
そう言って俺の手を自分の胸に触れさせた。温かく、ふわりとした感触が手のひらから伝わる。
「お、おい」
手を引こうとしたが、縋りつく様に掴まれ、出来なかった。
逆に押し付ける様に手を引かれてしまう。
最初はハニートラップなのかと思った。
これも作戦で、俺を手懐けるつもりなのかと。
まだ会って数日しか経ってない。
お互いに知らない事ばかりだ。
そんな俺に好意を持つとは、到底思えない。
だが、見ると優香は微かに震えていた。
目尻に少し涙が滲んでいる。
「‥緊張で震えてるじゃないか」
「は、初めてですから」
「初めて、俺なんかじゃ駄目だろ」
黙って首を振る優香。
「明さんの側に居たいん‥です」
涙を溜めた目で俺を見つめた。
もしこれが演技なら、俺には見破る自信がない。
「分かった分かった、一緒で良いから!」
そう言って手を振り払う。
それを聞いた優香は、ぱっと微笑んで今度は抱きついて来る。
豊かな胸の膨らみが押し付けられた。
「明さんっ!」
「落ち着けって。どうして俺の事そんな‥」
最期まで言葉が言えなかった。
優香が口づけで遮ったからだ。
優香は何度もついばむ様に求めてくる。
そうして、最期にこう言った。
「好きになるのに時間なんて要らない」
滅茶苦茶難航しながら書いてます。
楽しんで頂ければ幸い




