それは本当か?
俺達は銀髪の女と共に、近くの公園へと来た。
そこそこの広さの公園。
日が落ちかけ、薄暗がりに街灯の下だけが明るい。
植え込みやベンチも有るが、この時間は人影もない。
女は篠崎優香、と名乗った。
本名かどうかは分からない。
ちなみに弘樹は俺を訪ねてきた彼女のことを雑誌の編集だと思い込んでいた。
どう見てもそんな格好では無いのだが。
「簡単な認識変異術です」と、優香はいった。
「で、篠崎さん、話というのは?」
俺は優香に訊ねた。
彩希も隣に居るが、こういう交渉事は昔から俺の担当だ。
「単刀直入に言って、ヴェルデッドをもう一度、封印して欲しいのです」
「なぜ?」
「その魔杖は必ず災厄を起こすからです」
「災厄を起こしたのは、さっきの奴らじゃないのか?」
「そうです。そして、今後も同じ事をする者は必ず現れます」
「なぜ言い切れる?」
「その魔杖の力があまりに強大だからです。手段を選ばず手に入れようとする者は必ず現れます。いえ、既に存在します」
「それは、あんた自身の事じゃないのか?」
優香の表情がピクリと動く。
図星、か?
「いいえ、違います」
「口では何とでも言えるからな」
この魔杖のおかげで助かったのも確か。
コイツは命綱でもある。
「では、こうしましょう。互いに盟約の術をかける。貴方は魔杖の封印を。私は絶対服従をかける」
「盟約の術なんて俺は出来ないし、あんたが使う術とか言う物を信用する事も出来ないぜ」
「先に私に術をかけてくれて構いません。貴方も本当はこの状況を何とかしたいと思っている。違いますか?」
痛い所を突かれた。
確かに再びあんな奴らとやり合うのは避けたい。
それにしても、絶対服従?
俺が命じたらどんな非人道的な事でもすると言うのか‥?
もし本当なら、今の状況を打開するのには充分だが‥。
「‥‥あんたが先でも良いなら」
「明、だめだよ!?」
彩希が止めようとする。
俺は手でそれを制した。
優香が俺達に害意を持っていない事は、部屋に来た時に分かった。
その気なら、いくらでも攻撃する隙はあったからだ。
「分かりました」
優香は懐から小さな本を取り出し、ページを開くと呪文を呟く。
そして片手を俺の胸に、その後自分の胸に。
「‥‥盟約を‥我が服従をこの者の手に」
一瞬ふわっとした光が本を包んだが、すぐ消えた。
「これで盟約? 何も変わらないみたいだが‥」
「私はあなたの命令には逆らえません。例え、死の命令でも」
平然と言う優香。
だが、流石に言葉だけで信じる事は出来ない。
「じゃあ、ここで服を脱いで裸になれ」
「ちょ、明?」
再び止めようとする彩希を制して、様子を見る。
暗くなったとはいえ、たまに人も通る。
見つかれば騒ぎになるだろう。
優香はためらいもなく服のボタンを外し始める。
白い胸元が露わになってゆく。
4つ目のボタンに手をかけた所で声をかける。
「ストップ。もういい」
本当に服従の術とやらがかかっているようだ。
いままでの会話からして、優香はこんな所で躊躇いなく服を脱げる様な人間では無い。
だが、むしろ不信感も湧く。
こんな無茶な条件を提示するなんて。
むろん、優香の意思は残っているのだから、仲間に連絡するとか対応策はあるのだろうが。
「信じて頂けましたか?」
「すまない、こっちも命が掛かってる」
「分かっています。盟約を受けて頂けますが?」
「良いだろう。ただし、封印するのは俺達の安全が確認されてからだ。それで良いか?」
「もちろんです。それまでは私があなた達を守ります」
優香は頷いて言った。
先と同じ事を再び行う。
ただ今度は俺が優香の胸に手を当て、誓いの言葉を言った。
「何にも変わらないな‥」
「今はまだ、あなた達は安全とは言えませんから」
優香は遠くを見つめて言った。
少なくとも今は、優香は俺に嘘はつけなくなった訳だ。もちろん、それを理解したうえで優香は術を提案したのだろう。
改めて質問をぶつける。
「今日現れた奴らの事、教えてくれ」
「恐らく、ニューリンの領主、メディアの部下でしょう」
「ニューリンとは?」
「こことは別の世界にある国の名前です」
「異世界ということか」
「そうです」
優香は嘘をつけない。
となると、本当にアイツらは異世界人?
にわかには信じられない。
優香自身が騙されている可能性もある。ちょっとこれは気合いを入れて話を聞く必要がありそうだった。
優香の話をまとめるとこうなる。
ヴェルデッドやアイツらは俺達の住んでいるのとは別の文明進化を遂げたいわゆる平行世界から来たらしい。
その世界はこちらと違い、科学文明の代わりに魔法文明が発達している。
魔法が発達したため、社会構造は中世で止まっており、国王を頂点とした王政が今も続いている。
そして、その世界とこちらは特定の呪術を使うことで多少は行き来できる。
優香達の組織も過去にそうやって、こちらの世界に来た、いわゆる魔術師が作り上げたものとのこと。
そして、奴らがわざわざこちらの世界に来た目的は、ヴェルデッドを入手して、向こうの国同士の戦争に利用するため。
奴らがこちらの世界を攻めてくるのでは、と言う事が不安だったが、恐らくその心配は無いとのこと。
第一にこちらの世界へ来れる人数が、圧倒的に少ない事。
第二に、本格的に戦争になれば、恐らく向こうの世界には勝ち目が無いこと。
先の状況の様に個人戦ならば魔法が使える向こうの戦士こそ有力だが、例えば大砲やミサイル、化学兵器などは対抗策すら無い。
従って数で押されれば、向こうの軍ではまず勝負に成らないらしい。
そして、それこそが優香の組織の行動目的であり、両方の世界の接触を阻止し、争いの発生を防ぐために行動している、という事だ。
‥俺はいつの間にか、随分と厄介な状況に巻き込まれている訳だ。
予想外の展開に溜息をつき、星が瞬き始めた空を見上げた。
とりあえず考えた所まで書きました。この先がどうなるか‥それは作者にも分かりません(汗)




