我慢できない
「弘樹、すまん」
「いいよ、空いてる部屋だから」
弘樹は柔らかな笑顔を浮かべた。
「いつも、迷惑掛けてる気がする」
「そんな事無いって」
幼馴染で親友。
子供の頃から俺がイタズラに弘樹を巻き込み、結局2人一緒に叱られるのがパターンだった。
「助かる」
「下に居るから、何か有ったら‥まぁ彩希も居るからね」
そう言うと弘樹は部屋を出て行った。
ここは弘樹の喫茶店“ぷらなりあ”の2階。
普通だったら従業員控室として使われる場所だ。
弘樹と彩希は一階で生活しているので、ほぼ物置として使われていた。
あの事件の後、意識不明の俺は、彩希にこの部屋に担ぎ込まれた。
俺のアパートは壁が吹き飛び、とても休める状態では無かったからだ。
部屋の隅にはしょぼくれた猫、もとい彩希が座っている。
あの時、全く歯が立たなかったのがよっぽど堪えたらしい。
俺の方はと言えば、何故か怪我はほぼ快癒していた。
体を動かすとアチコチ痛いが、さっきの状態に比べれば大分ましだ。
その代わり、無性に喉が渇く。
水を何杯飲んでも、一向に収まらない。
恐らく、生理的な物では無いのだろう。
諦め、ベッドで回復に専念することにした。
落ち込む彩希に声をかける。
「彩希、大丈夫か?」
「うん‥」
「さっきのは気にするなよ。あれは普通じゃなかった」
「どんな相手でも‥明を守れなかった‥悔しい」
「俺は全然大丈夫だから‥いつつっ」
安心させるために軽く体を動かして見せようとして、痛みに声を上げてしまった。
くそ!これじゃ、逆効果‥。
「だ、大丈夫?!」
慌てて駆け寄る彩希。
「大丈夫‥喉が凄く渇くけど」
「水、飲む?」
そう言ってテーブルからコップを持ってくる彩希。
だが、水を飲むのは無駄なことは分かっている。
「何か別の物を取らないと駄目かな‥」
「別の物?」
そう言って彩希は覗き込んできた。
息が届く程の距離で見つめ合う。
“びくり”
身体の奥で何かが反応した。
目前の彩希が、滅茶苦茶に魅力的に見える。
それは性格とかではなく、もちろん女性としてでもない。
もっと根本の‥生命力、というべきものが特別だった。
「彩希が‥欲しいな」
え、何言ってる、俺?
俺は自分の言葉に愕然とした。
それは俺の言葉では無い‥はずだ。
全く考えてもいない言葉が紡がれた。
何かがおかしい。
俺自身に、何か得体の知れない事が起こっていた。
彩希は驚いた顔をした。
きっと部屋を出て行ってしまうだろう。
それで良い。
今の俺は異常過ぎる。
早く、ここから離れてくれ。
「いいよ」
と、彩希は言った。
そのまま俺を優しく抱きしめる。
「彩希‥待て‥」
「私なら、全部あげる」
優しく微笑みながら彩希は言った。
違う、逃げて欲しかった‥。
これが最後の抵抗だった。
「私は最初から明の、だから」
その言葉を聞いた俺は、もう自分が止められなくなっていた。
そのまま彩希をベッドに押し倒す。
うっとりとした表情の彩希。
桜色の唇にキスをする。
‥甘い?
そう感じながら、もう一度唇を重ねた。
比喩的表現ではなく、本当に甘味を感じる。
砂糖や蜂蜜の甘みとは違う。
もっと、命が惹かれる、甘さ。
「甘い‥」
彩希も同じ事を感じたのか、恍惚の表情でチロリと舌を出し、唇を舐める。
その姿はあまりに蠱惑的だった。
取り憑かれた様に、俺は再び唇を重ねる。
身体がふわふわと温かかった。
「あきら、ね、もう一度‥」
今度は彩希から求める。
言われるがまま、何度も唇を重ねた。
そうして、どれだけ時間が経ったのだろう。
とても長い時間の様に感じたが、時計を見てみれば10分程に過ぎなかった。
俺と彩希は気怠い倦怠感に包まれてベッドに倒れ込んでいた。
「明‥すごかった」
「彩希も‥」
言葉だけを聞くと、まるで睦言の様に聞こえるが、ただキスをしただけだ。
それだけで、感覚中枢がオーバーフローしてしまい、何も出来なくなってしまった。
何だったのだろう‥。
どう考えても、二人とも普通の状態じゃなかった。
それに、あれだけの渇きが見事に収まっている。
ともかく少し休んで、それから‥。
隣の彩希の手に指を絡ませ、目を閉じた。
「お楽しみの所、失礼します」
突然、ドア口から声をかけられた。
見ると、銀髪長髪で長身の女性が立っていた。
白い、制服の様な物を身に纏っている。
女性はコホン、と咳払いをし、
「それほどお時間を取らせませんので」
と、言った。
当初想定だと18禁的な内容に成っちゃうところでしたが、キスだけに抑えました。
これくらいならレーティング、大丈夫だよね(汗)




