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冥界送人  作者: てんまる99


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16/16

始まりの季節

俺は城下町を外門に向かって歩いていた。

あちらこちらに昏倒した兵士達が倒れているが、動く人影はない。


脇腹の傷が痛む。

致命傷ではないが、血が止まらない。

魔杖の使用で生命力が減っているからか、足が鉛のように重く、ふらつく。

肩に乗ったヴェルデッドも魔力を使い切ってダウン状態。

有り体に言って、二人ともボロボロだ。



なぜこんなにふらふらに成りながら、城を出ようとしているのか、自分でもよく分からない。

ただ、倒れるならここではない‥そんな気がした。


壁に寄りかかりながら歩き続きけた。

滴った血の跡が点々と続いている。

1時間ほどかかって、破壊した外門の所までたどり着いた。

失血で視界が暗くなってくる。

手足の感覚がほとんどない。

どうも俺の命運もここまでの様だ。

外壁にもたて座り込む。

まさか、自分が異世界で最期を迎えるとは思わなかった‥よ。

‥。



「明? あきらっ!!」

懐かしい声が聞こえた。

同時に唇に柔らかい感触。

ふわりと温かく包まれる。

そうか、俺はこの声が聞きたくて、ここまで来たのか。


じわじわと体に感覚が戻って来る。

身体がポカポカと温かくなり、急速に体力が回復して来る。

目を開くと眼前に彩希の泣き笑い顔。


「彩希‥?」

「うん、うん!」

確かに彩希だ。生島陸佐たちと撤収した筈だが。

「何で‥ここに?」

「あきらを探してた」

「馬鹿な。もし俺がどこかでくたばってたら、どうすつもり‥」

と、ここで気がつく。

慌てて懐の軍用無線機を使ってみるが、ノイズが流れるばかりだ。

元の世界と繋ぐ転送門が閉じてしまったのだ。

もう元の世界へ戻れない。

この、右も左もわからない異世界に、2人で取り残された事になる。


「生島さんたちは先に帰ったよ」

「なんで一緒に‥」

言いかけた言葉は再びのキスで遮られた。

同じ口づけでも、今度は意味が違う。

「一人で帰れる訳‥無いでしょ」

彩希は言いながら、まるで味を確認する様にチロリと舌先で唇を舐める。

何か、こう言う時の表情はちょっと蠱惑的だ。

「そうか‥そうだよな」

立場が逆でも、きっと俺も同じ事をした。

「それに、明と二人で異世界生活とかも良いかな。あ、ヴェルちゃんも居るしね」

「誰がヴェルちゃんか」

ヴェルデッドも魔力が回復したようだ。

周囲をふわふわ飛び回っている。


「だって大きさが半分なら、名前も半分が良いかなって」

「なんじゃそりゃ」

呆れながらも満更でも無いらしい。

最近、この魔杖の気持ちも分かるようになってきた。


「そのうち、ゆかりさんが迎えに来るだろう」

「うん。じゃあ、とりあえず、明の服を何とかしないとね」

確かに俺の服は破れてボロ布状態だ。

「っても、この世界で一体どうすりゃ‥」

「まぁ、何とかなるんじゃない?」

「それもそうか」

ここにも人々が生きて、暮らし、日常がある。それで充分なのかも知れない。


「む、我は知っておるぞ。この後二人は夜な夜な子‥」

「「言うなっ!」」

他愛ない会話をしながら俺達は城を後にした。




「女神様、どうかお助け下さい。腕が‥」

村人が傷付いた腕を差し出す。

「やだな、単なる回復術師ですってば」

言いながらも彩希は差し出された腕を優しく数度撫でる。

明らかに骨折していた傷がみるみる回復してゆく。

この光景を見れば、神様と言われてもおかしくはない。

「おお、腕が! ありがとうございます!」

村人はコイン数枚を置いて去っていった。


ここは王都から遠く離れた村。

病院もなく、怪我をすればはるか離れた街まで行かなければ成らない。

俺達はあの戦い以降、こうやって各地をめぐり、人助けのような事をやっている。

彩希の力でこうやって傷を治したり、ヴェルデッドの力で崩れた崖を切り開いたり。

微々たる力だが、国王を倒して国を混乱させた事への、せめてもの罪滅ぼしだ。


もちろん、タダと言う訳ではなく、多少の寄付は貰っている。

だが、どうもそれが悪かったらしい。

人間とは不思議なもので、タダで傷を治します、なんて言っても、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。

だが、多少のお布施が必要ですと言うと、お金を取るのだから本物だろう、なんて思うのだ。


元々、当面の生活費の為に彩希が回復術師の真似事をしたのが最初だった。

ただ、彩希の回復能力はこの世界の常識を遥かに超えていたらしい。

いつの間にか、どんな傷でも癒してくれる女神様、みたいな噂が立ってしまった。

4日目には回復の希望者が殺到して、俺達は逗留していた村を逃げ出す羽目になった。


そんな事をここ数ヶ月、繰り返している。

しかし、それにも不満はない。

異界の景色は初めて見るものが多かったし、助けた人が喜ぶのは素直に嬉しかった。


「め、女神様、お助けを‥」

1人の男がやってきた。

見ると肩から背中に大きな裂傷を負っている。

これは‥。

彩希は頷くと男の背に手を触れた。

ニヤリ、と男がほくそ笑む。


「傷は治します。が、治った身体で人に危害を加える事は許されません」

言いながら、男の傷跡が消えてゆく。


男はぱっと身体を翻した。

「くははっ、許さないってどう言う風に許さないんだよっ!」

高笑いする男。

懐からナイフを取り出し、俺達に向ける。

やはりこの男は野盗の類なのだろう。

先程の傷は悪さをして負った刀傷に違いない。


「まだ気が付きませんか?邪な心を持てば貴方の身体は、たちまち‥」

「へっ‥うわあああ!」

体へ目をやった男は、自分の身体が腐り、崩れて行くのを見た。

何とか抑えようと手を出すが、その手もまた、ぶくぶくと腐敗を始める。

「た、助けて‥」

「駄目です。人を騙した報いです。貴方はそのまま汚泥となるのです」

冷たく言い放つ彩希。


「ゆ、許してくれ‥許して下さいっ!」

「‥手遅れです」

「もうしません、決して悪いことはっ‥」

「本当に誓えますか?」

「誓いますっ!誓いますっ。絶対に、絶対に!」

「では、今回だけですよ」

見ると、先程までの男の体に起きた事が嘘のように収まっている。もちろん、傷跡も無い。

「わあぁぁ〜」

男は悲鳴を上げて逃げていった。


「ありゃあトラウマだな」

「我に任せれば本当に屍にしてやるものを」

ヴェルデッド改めヴェルがニヤニヤと冷やかす。

「それは‥流石に‥ね」

彩希が溜息を漏らす。


もちろん、今起きた事は単なる幻覚だ。

だが彩希の強力な生命力で魂に刻み込まれれば、それは現実と区別がつかない。


「だんだん女神様が板に付いてきたな」

「ちょっ、止めてよぉ」

「そのうち“女神様降臨の地”なんて石碑が立つかもな」

「いやぁん」

俺は話していて、優香から聞いた彼女の生まれ故郷の村の事を思い出した。

確か北の方の村だと言っていた。

このまま皆で墓参りに訪れるのも良いかも知れない。


日が傾いて初冬の風が吹き、これからの厳しい季節を思わせた。

「寒くなってきたな。宿に戻ろう」

「そだね。お風呂入りたい」

「なるほど、二人は今夜は風呂で子‥」

「「言うなっ!」」


これからも二人と一体の旅は続くだろう。

だが今の所は望郷の念よりも、新しい世界に踏み出す期待が勝っている。

隣を歩く彩希を見る。

一緒に暮らしているせいか、今までより彩希をずっと近くに感じる。

その笑顔が有れば、どこまででも行ける気がした。

冥界送人、とりあえずの完結です。

まだボス敵が出てきたばかりじゃないか!

と文句が来そうですが、その最期まで書くとあと数年は掛かりそうなので、一旦ここで締めました。

後はご要望と作者のやる気次第です。

えれくとろんあーく、の続編も書きたくなってきたんです。

今後をお楽しみに〜

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