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冥界送人  作者: てんまる99


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15/16

虚無の城

破壊した城門から市街に足を踏み入れる。

城の構造はまさに中世欧州の城郭都市。

外壁の内側に市街や広場、聖堂があり、更に内壁の内側に王城がある。


辺りには兵士や法術士が昏倒しているが、市民の姿は見えない。

非戦闘民は予め避難させていたようだ。


俺の中に疑問が膨らむ。

無謀な戦を仕掛ける狂王かと思えば、その後の戦術や市民の避難など、非常に的確だ。

その行動はまるで負けることを前提に戦っている様にも見える。

‥もう一つ、張本人に会わなくてはいけない理由ができたようだ。


入り組んだ市街を駆け抜ける。

角を曲がった所で例の化け物と出くわした。

普通人なら瞬時に昏倒するガスも、こいつらには不十分だったようだ。

「黒槍よ敵を貫け!」

俺の周りに出現した数本の漆黒の槍が怪物を貫く。

怪物は黒い灰となって崩れた。

この先の戦いのため、できるだけ生命力の消費は抑えて戦う。


「あと2つ門を抜ければ王城ぞ」

幸い、ヴェルデッドが市街の構造を把握しているので迷わずに済む。

「はいよ」

何となくこの魔杖とも馬が合ってきたような気がする。


幾度か角を曲がった所で王城に出た。

正門を黒槍で破壊して侵入し、静まり返った回廊を進む。

何らかの制限がかかっているのか、ここまでは怪物も入ってこない様だ。


突然、軍用無線のコールが鳴った。生島陸佐からだ。

『東雲さん、今どちらに?』

「いまは王城の中だ」

『急いで戻って下さい、我々は既に撤収を始めました』

「撤収は72時間後じゃないのか?」

『転送門の動作が不安定になったようです』

「できるだけ急ぐが‥遅れたら俺を待たずに撤収してくれ」

『必ず帰ってきて下さい。でないと私が上に叱られます』

コールは切れた。

‥ゆっくりしている余裕は無くなったようだ。


中央の大階段を登り、正面の巨大な扉を押し開く。

扉の向こうには大広間が広がっていた。

豪華なシャンデリア、緻密な内装。


その正面に白い鎧の盾を持った偉丈夫が立っていた。

鎧には緻密な金飾り。圧倒的な威圧感。

恐らく何らかの加護でガスの影響を除けたのだろう。

こいつが‥。

ヴェルデッドが囁く。

「あの鎧は特別製だな‥気をつけろ」


「アンタが国王か?」

俺は問うた。

「いかにも」

「なんであんな事をした? あんたせいで罪もない人が大勢、犠牲になったんだぞ」

「その問いには‥」

国王の周りに光の槍が出現する。

「私を倒したら答えよう!」


『ガキギギン』


唸りを上げて飛来する光の槍。

目前で俺の張った黒壁に阻まれる。

だが同時に国王は槍に劣らぬ速度で間合いを詰めて来た!

「ふんっ!」

国王の振るった太刀は黒壁を真っ二つに切断し、迫ってきた。

「くそつ!」

すんでの所で身をかわしたが、僅かに胸元を切り裂かれる。

「大丈夫か?」

「かすり傷だ。それよりあの剣、黒壁をあっさりと斬ったぞ?」

「恐らく、結界破りの権能が付加されているな」

ヴェルデッドは冷静に分析する。


防壁が役に立たない以上、打つ手は一つだ。

「こっちからもっ!」

無詠唱で黒槍を次々と打ち込む。

威力より数で勝負の飽和攻撃だ。

凄まじい数の攻撃に、大理石の床が砕け、破片が舞う。立ち込める砂煙。


だが、相手は身動ぎ一つしない。

あれだけの数の攻撃を盾で防いだ。

「傷一つ無いぞ」

「どうやらあの盾には防御の力があるようだな。これだけの力、天使の権能とみた」

「くそ、万全かっ!」


その間にも相手は再び間合いを詰め、斬りかかる。

すんでの所で近くの柱の陰へ回避し、もう一度黒槍を打ち込む。

攻撃の瞬間なら、盾で防げないはずだ。

だが、国王は無傷だった。


「あの鎧でもある程度は防げる様だな」

「んじゃ、何のために盾持ってるんだ」

「強力な攻撃には盾が必要なのだろう」

ヴェルデッドの判断は正しいのだろう。

だが、強力な攻撃をするだけの詠唱時間を相手は与えてはくれない。

このままでは八方塞がりだ。


「逃げるだけでは‥なっ!」

再び剣を振り下ろす国王。

慌てて別の柱の影に回避するが、今度は盾にしている柱ごと真っ二つに切られた!

「うぐっ!」

まさかの状況に回避が一瞬遅れ、脇腹を切り裂かれる。

「油断するでない、たわけ!」

ヴェルデッドが叫んだ。


どうする‥今までの敵とは格が違う相手だ。

一瞬、別れ際の彩希の姿が脳裏を横切った‥。


次々と柱に回り込みながら黒槍を打ち込む。

だが、それらは明らかに威力を欠き、国王に詰め入る余地を与える事となった。

もはや国王は目前に迫っている。


「この程度だったか‥残念!」

国王は最期の一撃とばかりに渾身の斬撃で目前の柱ごと両断する。

激しい衝撃と共に破片が吹き飛び、柱が崩壊した。


「なにっ?」

勝利を確信した国王の顔が、戸惑いへと変わる。

切り崩した柱の陰に居たのはヴェルデッド人形だけだ。

「外れだ、まぬけ」

ヴェルデッドはニヤリと笑いを浮かべた。

同時に背後からの長剣が国王の胴を貫く。


「ぐはっ?!」

信じられない物を見るように国王が振り向く。

鉄壁の防御結界を破り、国王を貫いた長剣には“あの”護符チャームが巻き付けてあった。


「結界破りならこっちにも有るんだよ」


優香が彩希に渡し、彩希が別れ際に俺に託した、結界破りの護符チャームだ。


そう、柱に隠れながら黒槍をうち続けたのはヴェルデッド。俺は物陰に隠れながら、千載一遇のチャンスを狙ったわけだ。


力一杯、剣を引き抜く。


国王はそのまま倒れ、床にはじわじわと血溜まりが広がってゆく。

「み、見事‥」

「約束だ、理由を話せ」

脇に立って問う。

国王ももう長くは持たないだろう。

その前に理由が知りたい。


「国と民を守るため‥だ‥」

「こんな破滅的な戦いでか?」

「力が‥必要‥だったのだ」

「ヴェルデッドの力で何をするつもりだった?」

「‥違う‥」

「そなた達の異世界の力‥だ」

「それで俺達を侵略するのか?負けるとは思わなかったのか?」

「負けても‥良い」

「何?」

「愚かな王の頼みだ‥わが民を‥」


『キュイン!』


広間にまるで楽器の弦を擦った様な音が響いた。

同時に国王の首が切断され、頭がコロリと鞠のように転がった。


「あ~あ、お年寄りを虐めたら可哀想でしょう」

まるで闇から滲み出る様に1人の男が目前に現れる。

長髪、青白い顔、細身にスーツ。

まるで戦の場にそぐわない格好だ。

だが、その男が放つ波動だけで、遥かに剣呑な相手だと判る。


「魔族‥だな」

ヴェルデッドが呟いた。

「お察しの通りです。先輩」

「なぜ現れた」

「いやいや、苦しそうな国王様を見かねて、ね。後は僕が話そうかと」

「お前が裏で糸を引いていたのか?」

「とんでもないです。僕は何もしてませんよ!」

大げさにかぶりをふる。


「ではなぜ今、現れた」

「辺境で暮らしていたら、皆が戦を始めたので、ちょっと観戦をしてたんですよ」

「観戦、だと?」

この悲惨な戦いを観戦だと?


「決着も着いたみたいだし、勝利者の栄誉でも称えようかと‥」

相変わらず芝居じみたポーズで語る魔族。


「お前はなぜ、この王がこんな事をしたのか知っているのか?」

「もちろんですとも!この人は僕たち魔族を、異世界あなたたちの力で退治するつもりだったんですよ」

「なんだと?」

「酷いと思いません?僕たち何も悪い事して無いのに‥」

わざとらしく涙を拭くふり。

だんだん分かってきた。

こいつはこうやって、俺達の反応を楽しんでいるのだ。


「だったら、なぜ攻めてきたんだ?素直に協力を求めれば‥」

「そんなの無理でしょ」

「なに?」

「この人たちは怖かったんですよ。僕たちと同じくらい、あなた達が」

「どう言う意味だ」


「どうって‥あなた達とんでもない武器沢山持ってるじゃないですか。核兵器‥でしたっけ?国を一つ消してしまって、その後100年も毒で住めなくなる様な恐ろしいやつ」

「貴様、核を知っているのか?」

「ちょっと聞いたことあるだけ、ですけどね」


「そんな人たちに助けを求めても、全滅させられるかもしれない。だからこの人は、わざと負けて、国を占領してもらうのが最善だと思ったのですよ」

「わざと負ける?」

「人って不思議ですよね。無条件に貰うとほったらかすくせに、戦って手に入れた物は‥大事にしますよね」

魔族はニヤニヤと微笑みながら語る。

まるで仕掛けた罠に獲物がかかってもがくのを眺める様な。


「そう、お前がそそのかしたのか‥」

「やだな、ちょっとアドバイスしただけですよ、アドバイス!」

「話はおおかた分かった。で、次はお前が相手してくれるのか?」

そう言って身構える。

もちろん俺もボロボロで勝ち目は無いだろう。だが、せめて一矢報いたい。

でなけりゃ、今まで死んでいった人達が報われない。


「とんでもない、僕なんか本当に弱くて‥勝利者を称えに来たって言ったじゃないですか〜」

男はじわじわと後ずさりながら姿が消えてゆく。

「ご勝利おめでとうございます。また、そのうちお会いしましょう。楽しみにしていますよ」


ふっと気配が消える。

今までの重圧が無くなり、ようやく深呼吸した。

「アイツの言ってたこと‥」

「全部真実だろう。魔族は嘘をつかない。と言うか嘘という概念を持たんのだ。必要無いからな」

嘘はつかない。だが状況がより悪くなる様に振る舞う事はできる。

そうやってじわじわと人の心を歪めたのだ、アイツは。


ここには覇道を狙った王は居なかった。

ただ弱い心をそそのかされ、自滅した哀れな男がいただけだった。

「くそっ!」

晴れない気持ちを足元の石にぶつけて蹴った。

虚しく石が転がる反響音が主の居ない城に響くだけだった。


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