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冥界送人  作者: てんまる99


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13/16

異界突入

翌日、俺と彩希は地下の転送門の前に居た。

と言ってもシャッターが閉まっていて今はその姿は見えない。

ここは周囲をコンクリートに囲まれた空間だ。

概略、巨大な地下トンネルだと思って相違ない。

後方には完全装備の陸上自衛隊一個中隊、10式戦車やアパッチも控えている。


それに対して俺達の方はというと、俺はジャケットにジーンズ、肩にヴェルデッド人形。

彩希は黒装束に鎖帷子、手甲に脛当て、鉢金という忍者装束。

それらはゆかりさんの”紙”製で、通常の鉄製よりはるかに軽く、強靭だ。

その、およそ異世界へ殴り込みに行くとは思えない格好の俺達が先陣を切るわけだ。

本音を言えば、彩希を連れてゆきたくは無かった。

だが色々事情がありそうもいかない。


「髪の毛、元に戻って良かった。某天才外科医みたいな明も良かったけど」

彩希はそう言って俺の髪を撫でた。

ヴェルデッドの魔力を使うことで髪は白髪化し、手足に麻痺も出ていたのだが、彩希にキスをされると数分で回復してしまった。

さすがに驚いた俺達は、昨晩にゆかりさんに診てもらったのだ。


暫く彩希の額に手を当てていたゆかりさんは、驚きの表情を見せた。

「さ、彩希さん、あなたはいつ頃からこんなに??」

「? どうかしましたか?」

彩希は意味がわからずきょとんとする。

「あ、ごめんなさい、意味がわからないわよね‥」

ゆかりさんは少し思案した後に話しだした。


「簡単に言うと、彩希さんは凄まじいレベルの生命力を持っているの」

「生命?」

「そう。それを他人に分け与えることで傷や病を治すことすらできる。いわゆる聖人の奇跡、と言うやつね」

「俺が回復したのもそのおかげか。もしかして彩希の身体能力が高いのも?」

「そうね。元々、生命力には個人差があるものだけど、彩希さんの場合はそんなレベルじゃない」

ゆかりさんは静かに頷く。

「具体的には‥?」

「恐らく‥歴史上の聖人若しくは神の御使いクラス」

「そ、そんなに??」

「触れるだけで傷が治るなんて、奇跡の類でしか聞いたことがない」

「でも、ゆかりさんも俺を回復してくれたよな」

「私のはあくまで術による一時しのぎに過ぎないわ。彩希さんは完全に回復してしまっている」

「度々で申し訳ないが、それって具体的にはどの程度なんだ」

「私が傷口を塞ぐ程度だとすると、彩希さんは腕を一本丸ごと再生するほどね」

「そ、それはすごい」

「こうなると、ぜひ彩希さんにも向こうに行ってもらわないと」

「なぜそうなる? 俺は反対だぞ」

「彩希さんの力があれば、負傷した隊員を治療することで被害を最小限にできる。しかも‥」

「しかも?」

「ヴェルデッドの力を使ってダメージを受けた貴方を回復できるでしょう?」

「う、ま、まぁ‥そうだな」

実はその事は気になってはいた。

だが、目的を果たせばその後のことはどうでもいい、とも考えていた。

優香の仇だけはどうやってでも取るつもりだ。


脇を見ると彩希が目をキラキラさせている。

「行く! 絶対に行く! 明の力になれるんだよね! それに‥」

ちら、と俺を見て顔を赤くする彩希。

俺は何となく察してしまった。

「別にキスでなくても回復できると思うぞ」

「そ、そんな事‥言わなくても‥いいじゃん」

段々語尾が小さくなる彩希。


俺達のやり取りを見ていたゆかりさんは、ここで遂に吹き出してしまった。

「あははっ、ごめん! 彩希ちゃん乙女だね。それに明さん、女子の好意は素直に受けなさい。手遅れになる前に、ね」

「うぐっ」

言い返せない。

「だとすれば、私の作ったプレゼントが役に立つんじゃないかな」

と言って取り出したのが先の鎖帷子だった。

「信用して。彩希ちゃんに優香の二の舞いはさせないよ、絶対に」

ゆかりさんは俺にだけ聞こえるように、ささやいた。



時間になった。

目前の金属シャッターが重々しく開き、転送門が姿を表す。

それは巨大な数珠を何重にもトンネルの周囲に巻き付けたような形をしていた。

これに何本ものケーブルがまとわりつく様に繋がっている。

いかにも応急で仕立てた感じだ。

「嫌な感じよの。狂気が渦巻いておる」

何かを嗅ぎつけたのか、ヴェルデッドがごちる。

「巨大な転送門だから術者が沢山居るのかと思ったんだが‥」

俺は傍らの女性技官に問う。


昨日も彼女に様々な質問をした。

結果として分かったのは、こちらの対魔法技術はあくまで鹵獲したものの応用に留まる、ということだ。

ゼロから魔法の剣は作れないが、倒した敵から入手した魔法の剣を作り変えてナイフや銃弾にすることは出来る。

理論はわからないが使うことは出来る、ということだ。


「残念ながら我々には転送門を開くほどの数の術者は居ません」

技官は答えた。

「ではこの門はどうやって?」

「術者は居ませんが、転送の能力を持つ物を作る事は出来る、とだけ」

「持つ物を作る?」

俺の知る限り“門”を作れるのは向こうの世界でも非常に限られた能力の人間だけだ。

魔物や動物にはその能力は無い。

それは次元や平行世界と言う概念をイメージする必要があるからだ。

その人間と同じ物を作る‥?

それは、まさか‥?

「おい、それは‥」

「誤解を招かれない様に申し上げますが、法に反するような事ではありません」

「つまり、生きた人間を使ったわけではない、ということか?」

「ご想像にお任せします」

ゆかりさんが優香の亡骸を消したのはそういう理由わけか。



遂に転送門が始動する時刻になり、カウントダウンが始まった。


“ゲート始動、マイナス10・9・8‥”

何とも言えない威圧感が漂う。

ピリピリと肌が泡立つ。

これが、次元が歪むと言うことなんだろうか。

“2・1・スタート”

開始の合図とともに門の中の空間が真っ白に霞む。

まるでそこだけ濃霧が立ち込めているようだ。


「明さん、彩希さん、突入が完了したらすぐ連絡を下さい。我々も続きます」

生島陸佐が声をかける。

ちなみに連絡方法は普通の軍用無線機だ。

昔のものと違って少しゴツいスマホ程度の大きさ。

今から72時間、二つの世界が繋がっているからこそ、こんな事が出来る訳だ。


「では、行ってくるでござる、ニンニン」

「いや、本当の忍者はニンニン、なんて言わないから」

「ええっ、嘘ぉ!?」

他愛ない会話をしながら、手を繋いで門に進む。

まるで緊張感の無いノリだが、これが彩希と呼吸を合わせるのなら一番の方法だ。


「行ってくる!」

俺達はそのまま一気に門に入った。

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