再会の時
俺はゆかりさんの運転する車で、夜中に高速を東京に向かっていた。
既に電車は運休していて、再開の見込みが立たない。
車中でニュースを確認すると、十体近い怪物が都内各所で暴れまわり、多数の被害が出ている事を報じていた。
ニュースの映像にちらりと映ったその怪物の姿は、先ほど戦った奴とそっくりだった。
「禁呪を使ったのか‥愚かな」
ゆかりさんが苦々しげに吐き捨てた。
「あの化け物の事か?」
「ええ、複数の人間を合成して魔物を生み出す呪法。話で聞いたことはあったけど‥」
つまり、使うだけでそれだけの犠牲を必要とする、という事だ。
「敵さんも本気ということか」
「しかも相当に強大な敵ね」
ニュースでは自衛隊が対応に出動するという報道もあった。
「自衛隊が動くとなれば、これはもう戦争だな」
「このような事をすれば、国家も黙ってはいまい。なぜこの様な暴挙を‥」
ここまでの道すがらで、俺は優香の半生とゆかりさんの活動に関してを聞いた。
まさにこの様な事態を防ぐために戦ってきたのだろう。
その努力が水泡と帰そうとしている。
歯がゆい思いをしているのだろう、声が震えていた。
「優香は本気で戦えばこちらの世界が勝つと言っていたが?」
「それは彼らにも分かっているはず。だから今まで本格的な争いは起きなかった」
「事情が変わった、ということだな」
「おそらくね‥」
高速は東京に入るところで渋滞して進めなくなった。
まだ都心まで十キロ以上あるが、渋滞の解消を待っている時間はなかった。
車を路肩に止めてもらい、俺は走ってゆくことにする。
「ゆかりさん、後は走ってゆくよ」
「この先にどんな事態が起こっているのかわからないから、注意して」
「また連絡するよ」
そう言って車を降りた。
先の戦いの後、ヴィルデッドの魔力を解放した対価に、俺の右半身は麻痺してしまっていた。
ゆかりさんの治癒術で何とか動かせる程度には回復したものの、どれだけ使い物になるかは未知数だった。
それでも、力を使えば、普通の人間よりははるかに早く走れそうだ。
「いくぞ、ヴェルデッド」
そのまま魔力を足に集中して路肩を走り始める。
どんどんと加速してゆき、時速は100Kmを超えただろう。
時おり障害物を飛び越えながら、俺は東京に向った。
途中で数匹の化け物を倒しながら”ぷらなりあ”を目指す。
一刻も早く二人の無事な姿が見たかった。
都心部を抜けるところで、さらに二匹の化け物を倒す。
ヴェルデッドの魔力を使えば、戦いは一瞬で片がつく。
だが、数十分に渡る魔力の全開使用に俺の体が限界を迎えつつあった。
全身の痛みと麻痺で上手く走ることができなくなってきた。
それでも、ふらつく足を引きずるように歩き、何とか店の近くまで来る。
近隣の人達は既に避難したのだろう。人影はない。
何台か車がハザードを点滅させたまま路肩にとまっている。
彩希達も既に避難しているかも知れない。
もしそうなら、事態が沈静化するまで再会は難しいだろう。
だが、やはりそこに2人が居る気がして、店へと向った。
その目前にまたも化け物が遮るように現れた。
術が効かないこいつには、肉弾戦しかない。
痺れる右腕に魔力を集める。
「く、くそ邪魔するな‥」
その一発を確実に命中させるため、化け物の攻撃は無視する。
振り下ろしてきた剣をガードもせずに肩で受けた。
そのままカウンターで繰り出した左の拳は、化け物の右肩を吹き飛ばす。
「くっ、外した」
胴体中央を狙ったが、足がふらついた。
と、店の出入り口を開けて誰かが現れた。
「あ、あきら?」
出てきたのは彩希だった。
やはりここに居たのだ。
驚いた様子だったが、こちらに向かって走ってくる。
「ば、ばか、逃げろ!」
彩希に気づいた化け物は向きを変え、襲い掛かる。
「黒‥」
彩希と化け物の間に防壁を展開しようとした。
だが、彩希の回し蹴りの方がはるかに速かった。
「だぁっ!」
『ズドーーン』
目にも止まらない速度の蹴りが化け物の胴体をへし折り、化け物はくの字に曲がった。
「ヤァッ!」
反撃の暇も与えず、しゃがんだ着地の体制から突き上げるように繰り出したアッパーカットが化け物の下顎を捉える。
化け物は上半身を吹き飛ばされ、灰となって消えた。
「大丈夫、あきらっ!」
駆け寄ってきた彩希の胸元には先日渡したチャームが光っていた。
そのまま俺に飛びつく。
「お帰り、あきらっ。きっと帰ってくるって信じてた!」
ようやく帰ってきた実感がわいた。
しかし彩希、防御魔法を無効に出来ると、無双に強い。
魔法使わないでこれなら、史上最強の女子高生かも知れない。
「彩希、避難して無かったんだな」
「うん、お兄ちゃんと、“明は絶対帰ってくるから、ここに居よう”って」
「そか」
くしゃくしゃと彩希の髪を撫でた。
「あ、そうだ‥」
何かを思い出した様に、一瞬ためらう彩希。
そのまま、ふわっとキスをしてきた。
「お帰りの、キス」
照れながらそう言った。
「髪の毛、どうしたの?」
改めて俺の顔を見た彩希が訊ねる。
俺の頭髪右半分は、ヴェルデッドを使った際に白髪になっていた。
「い、いろいろあって‥」
隠すつもりは無かったが、どう話せばよいのか迷った。
「えと、優香さんは?」
彩希は純粋に心配して聞いたのだろう。
俺は無言で首を振る事しかできなかった。
「うそ、本当に?」
驚きの表情を浮かべる。
先日までの彩希なら、ショックで塞ぎ込んだだろう。
けれど、彩希は祈りを捧げるように胸元のチャームを握り、
「優香さん、これ、大切にするね」
と言った。
立ち直ったんだな、と実感した。
「祐樹は?」
「無事だよ。ちょっと足、擦りむいたけど」
「そうか、良かった」
頷き、店に向かおうとする俺たちの後ろに、自衛隊の装甲車が止まった。
ドアを開け、厳つい迷彩服の男が降りてくる。
俺に敬礼をすると、
「私は陸上自衛隊、第八方面軍二等陸佐、生島誠であります。東雲明様にご同行をお願いしたくっ」
「自衛隊?」
俺を名指しして来ると言うことは、ヴェルデッドの事も知っているのだろう。
厄介なことになりそうだ。
「生島中佐、そんな言い方では東雲さんに警戒されますよ」
そう言って続いて装甲車から降りてきたのは、ゆかりさんだった。
「ゆかりさん?」
なぜ、ゆかりさんが自衛隊と?
「ようやく追いつきました。ご友人達はご無事でしたか?」
「ま、まぁ」
「それは良かった。ご友人達は自衛隊で保護してくれるみたいですので、ご同行して頂けませんか?」
「人質‥と言うことか?」
ゆかりさんの事を疑っているわけでは無いが、自衛隊は別だ。
組織は組織の都合で動くものだ。
「まさか! そんなつもりは全然有りません。このままここに残るのは危険だと思ったからです。それでは明さんも同行しにくいでしょう?」
「‥用件は?」
「この事態を収めるため、明さんの力を借りたいのです」
「‥分かった、信用するよ」
俺が答えて装甲車に向かおうとすると、
「すみません!」
突然、彩希が手を上げた。
「貴方は‥彩希さん?」
「はい! 私も明と同行させて下さい!」
「お、おい、彩希?」
「あの時、明と一緒に行かなかった事、凄く後悔したんだ。だから今度は絶対一緒に行く」
こうなったら彩希は梃子でも動かない。
それに、彩希を守るなら一緒にいた方がいい。
「すみません、俺からもお願いします」
「構いませんよ。でもこれから聞くことは他言無用でお願いします」
「はい、約束しますっ!」
彩希は何故か敬礼をして答えた。




