第五話
獅子堂はそれでいいかもしれなかったが、俺の寝る場所がない。
まあ、床で寝るか。そう思って結局スペアの布団を引っ張り出した俺は、枕に顔を埋めたまま沈黙する獅子堂に言う。
「風呂とか、入んなくていいのか」
「今日は風呂キャン界隈です。……入っても着替える服、無いですし」
確かにな。
「気が向いたら入ればいい。俺の服で良ければ脱衣所に畳んであるから」
「え。店長の服、ちょっと気になるかも」
なんでだよ。
布団を床に敷き終える。時間はもう23時を回っていた。残業のせいで遅くなったのもあるが、獅子堂がいるせいか時間が経つのが早く感じる。
「俺はシャワー浴びてくる。獅子堂は好きにくつろいでくれ」
「了解っす。ベッドの下とか見ときますね」
「……やめろ」
くひひ、と獅子堂は悪戯っぽく笑う。
鴉の行水レベルの早さでシャワーを浴び終えたのは、決して獅子堂の言葉が気になった……からではない。
シャワーを浴び終えた俺が部屋に戻れば、獅子堂は枕に顔を埋めたまま、シャワーに行く前と寸分違わぬ体勢で寝転がっていた。
「息苦しくないのか」
「適度に息はしてるから大丈夫です。それに」
「それに?」
獅子堂は少しだけ黙って、それから呟く。
「……窒息死したら、それはそれで」
「やめろ。冗談じゃない」
「店長?」
なんとなく言ったつもりだったが、自分の中でも思いもよらぬくらい低い声が出ていたことに気づいていた。
獅子堂を怖がらせてしまったな。そんなことを思いながら、俺はゆっくり首を振る。
「やめろ。死ぬとか、言うな」
獅子堂が枕から顔を上げ、こちらを見る。伺うような視線でじっと俺を見た後、彼女は小さく「ごめんなさい」と言った。
「……こっちもすまん。強く言いすぎたな」
これ以上何かを言うのも憚られた。黙って俺は部屋の電気を消すと、布団の中に潜り込む。
「獅子堂。明日、お前休みだったよな」
「はい。お休みいただいてます」
「……家、居ていいからな」
そんな言葉が衝いて出たのは、もしかしたらこのまま放っておけば獅子堂がどこかに消えてしまうんじゃないか。そんな不安を少し感じたから。
獅子堂はもぞり、と体を動かすと、言った。
「はい。ありがとうございます。店長」
それから、言葉を交わすことはなく。
俺はいつの間にか、深い眠りの中に落ちていた。
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