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捨てられた後輩を拾ったら、同棲することになりました  作者: 天音伽
第一章 捨てられ後輩と同棲生活
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第一話

柚木ゆずき店長、お疲れ様です。今日は残業ですか?」


 女子更衣室から出てきた派遣スタッフに声を掛けられて、俺はうん、と背伸びをする。


「ですね。少し報告事項が溜まってて」


「お疲れさまです。根を詰めないようにしてくださいね」


 ひらひらと手を振る派遣さんに手を振り返して、俺はまたパソコンとにらめっこ。


 俺の名前は柚木凛ゆずきりん。28歳男性、独身。

 パソコンショップのチェーン店『パソコンライブラリー』のとある地方店、その店長である。

 高校大学時代はゲーマーで、パソコンゲームをよく嗜んでいた。その流れでこのパソコンショップに就職して、現在6年目。

 いつの間にか店長に祀り上げられていたが、なんのことはない、課長やさらに上層部からの注文を聞いてただこなすだけの傀儡店長だ。


 今日も、昼間の課長との面談内容を踏まえ、業務改善報告書を作成しているところ。


「……外部訴求の強化、広告物の駅周辺への掲示は……うわ、こんなに掛かるのか」


 売上の低下を指摘された以上、まずやることは外部への広告訴求か。そんなことを考えながら報告書を書いていれば、だんだん自分の顔がこわばっていくのを感じる。


「しけた顔、か」


 デスクの真上には窓。窓に映った自分の顔は死人のように目が死んでいて、獅子堂に昼間言われた内容を思い出す。

 そういえば、獅子堂は結局何を言おうとしていたのだろう。

 彼女の言葉を思い出した瞬間に、休憩スペースでの会話の内容が蘇ってくる。彼女はなんともないと言っていたが、なんか気になるんだよな。

 獅子堂は早番だったので、もう数時間前に帰ってしまっている。俺の記憶する限り、さっきの派遣さんが最後の従業員だった。

 まあ、明日聞いてみるか。

 俺は一息入れるために、通用口から外に出る。自販機でコーヒーを買おうと思えば、昼間から降り続いている雨は一向に止む気配を見せていなかった。



 結局作業が終わったのは、夜の十時。

 店舗は駅近くの繁華街にあるのだが、こんな時間になれば空いているのは飲み屋と怪しい店くらい。

 とっとと帰るか。なにか飯でも食うか。

 そんなことを考えながら、店を出てしばらく歩いた時だった。


「お姉ちゃん、一杯どう? 奢るよ?」


 そんな軽薄な声が聞こえてきて、俺はちらり、と横を向く。

 そこは裏路地だった。赤に紫、黄色。目に悪い看板が並ぶ中で、薄明かりが身長の高い男性と、小柄な女性を照らしている。そこは雨が降りこまないのか、どちらも傘は差していなかった。

 絡まれるとめんどくさいな。

 そう思って足早に立ち去ろうとした俺は、小柄な女性の表情がちらりと覗くのを見て、思わず声が出た。


「……獅子堂?」


 小柄な体がぴくり、と揺れる。

 こちらを見た彼女は、普段の快活な表情とまるで違う、濡れぼそったような表情。


「店長……」


 その表情を見て、俺は。


「あっ! ちょっと困るよ、今うちが――」


 男の困惑の声を他所に、思わず獅子堂の右手首を掴んでいた。

 どうして自分でそうしたのかは、わからない。ただ、そうするべきだと咄嗟に思ったから。

 獅子堂も獅子堂で、何も言わずに俺に付いてくる。心なしか速足で裏路地を抜けて、ふう、と息を吐いた俺に。


「……獅子堂?」


 獅子堂が、ゆっくりと俺の胸に顔を寄せてくる。獅子堂は俺の腰をぐっ、と掴むと。


「うあああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!」


 信じられないくらいの声量で、俺に体を押し付け、泣き始めたのだった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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楽しい時間を過ごしていただけていれば幸いです。ありがとうございました!

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