第十一話
買い物の金は俺が出した。
「それじゃ恩義にならないですよ!」
なんて獅子堂は不満そうだったけれど、なんとなく女の子に金を出させるのは気が引ける。そも、獅子堂は俺の部下だ。
部下に金を出させるのは、なんとなく忍びない。
それから他愛のない話をしながら、家まで歩く。
今日あった仕事のこと。明日は俺が休みだから、やってほしいこと。
そんなことを話していると、獅子堂がにっ、と笑う。なにか笑うようなことがあっただろうか、と思っていると、獅子堂は言った。
「店長。仕事の話ばっかり」
「……んっ」
突っ込まれて、思わず小さくのけぞってしまう。
「店長、あんまりプライベートで女の子とお話したことないです?」
「……悪かったな」
「いや、別に謝って欲しいわけじゃなくて。私、思うんです。話すって大事だなって」
「……?」
獅子堂はぼんやりと空を見つめる。
星も見えない夜空に、彼女は何を見ているのか。
「ねえ、店長」
「なんだ」
「今日は、私のお話に付き合ってもらってもいいですか?」
「……もちろん。獅子堂がそれでいいなら」
「くひひ。嫌なんて言うわけじゃないですか。ありがとうございます。昨日は、結局何も話していないも同然でしたから……」
「まあ、ナイーブな話題だしな。俺も聞き出そうとしなかったのはあるし」
「そういう優しさはあるんですよね、店長。……お、そろそろアパートですね」
獅子堂の言う通り、そんな話をしていたらもう俺のアパートだった。
「続きは、飯を食った後で、だな」
「ですね。腕に寄りをかけて、ごはん、作っちゃいますよ!」
獅子堂はそう笑って見せるけれど。
その笑顔は、暗闇のせいだろうか……どこか、陰って見えたのだった。
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