第2章第1話:噂の拡散と最初の亀裂
翌朝、エリザベートは重い頭を抱えながら起き上がった。昨夜はほとんど眠れず、体調はさらに悪化している。鏡に映る自分の顔は青白く、目の下のクマも濃くなっていた。
「お嬢様、おはようございます」
マリアが部屋に入ってきたが、エリザベートの様子を見て表情を曇らせた。
「お顔の色が...やはりお医者様を」
「大丈夫です」
エリザベートは首を振った。医者に診てもらっても、この症状の本当の原因はわからないだろう。これは単なる病気ではない気がする。
「それより、宮廷の様子はいかがですか?」
マリアは明らかに躊躇している。彼女の表情から、状況がさらに悪化していることがわかった。
「それが...昨夜の噂が、より具体的な内容に変わっているようで」
胸が重くなる。予想していたことだが、実際に聞くのは辛い。
「どのような内容が?」
「お嬢様が聖女様の活動を快く思わず、密かに妨害を企んでいるという話が...それも、かなり詳しい内容で語られているようです」
「詳しい内容とは?」
「慈善活動への批判的な発言をしているとか、王子殿下の心を取り戻すために策略を練っているとか...」
すべて事実無根だった。しかし、具体性を帯びることで、噂はより説得力を持つようになる。
「誰が、そのような話を...」
「それが...複数の場所で、同じような内容が話されているようです。まるで誰かが意図的に広めているかのように」
組織的な動きを感じさせる。エリザベートは、これが単なる自然発生的な噂ではないことを悟った。
「お嬢様」
マリアが心配そうに続けた。
「街でも、お嬢様の噂が話題になり始めているようです」
ついに宮廷の外にまで影響が及んでいる。エリザベートは、事態の深刻さを改めて実感した。
「どのような反応でしょうか?」
「様々ですが...聖女様を慕う民衆の間では、あまり良い反応ではないようで」
予想通りの展開だった。リリアーナの人気が高いほど、彼女に敵対的とされる人物への風当たりは強くなる。
支度を整えて宮廷に向かう馬車の中で、エリザベートは街の人々の視線の変化を感じ取っていた。以前のような親しみやすい視線ではなく、どこか警戒心を含んだ目で見られている。
御者でさえ、いつもより距離を置いているような気がする。噂の影響は、想像以上に広範囲に及んでいるようだった。
宮廷に到着すると、その変化は一目瞭然だった。廊下ですれ違う人々の挨拶が、以前よりもぎこちない。表面的には丁寧だが、その後に続く会話はない。
「おはようございます、エリザベート様」
年配の侯爵夫人が声をかけてきたが、その表情には明らかに好奇心が宿っている。
「おはようございます」
「最近、お疲れのご様子ですが、何かお悩み事でも?」
表面的には心配しているようだが、実際には情報収集が目的なのがわかる。
「特に変わったことはございません」
「そうですか。でも、宮廷では様々なお話が...」
侯爵夫人は意味深に言葉を濁した。
「もちろん、私は噂話などには興味がございませんが、心配する声もあるようで」
同情を装いながら、実際には噂の存在を確認している。エリザベートは、このような会話が今後増えることを予感した。
王妃への定期報告に向かう途中、エリザベートは図書館で宮廷魔法師セラスと遭遇した。
「おや、エリザベート様」
セラスが古代魔法の研究書を数冊抱えて振り返った。その瞬間、エリザベートは彼の内面に渦巻く何かを鋭く感じ取った。それは知識への飽くなき欲求と、現在の状況を研究対象として見る冷淡な興味だった。
「セラス様」
「最近、図書館でお見かけすることが多いようですが、何か特別な研究でもされているのですか?」
セラスの質問には、表面的な関心の下に強烈な好奇心が隠れている。まるで新しい現象を発見した研究者のような、貪欲な輝きが目に宿っていた。
「いえ、特に変わったことはしておりません」
「そうですか」
セラスは満足していない様子だった。
「しかし、魔法研究者として申し上げれば、精神的なストレスが魔法に与える影響は無視できません」
その言葉に、研究者特有の執着が滲んでいる。
「最近の体調不良も、もしかすると魔法的な要因があるかもしれませんね」
「魔法的な要因、と申しますと?」
「感情の乱れが魔法の流れを不安定にすることがあります。特に、強い負の感情は...」
セラスは意味深に言葉を濁した。しかし、その目には明らかに「もっと知りたい」という欲求が燃えている。
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ」
セラスは研究書を抱え直した。
「もし何か変わったことがあれば、いつでもご相談ください。魔法の専門家として、お役に立てるかもしれません」
その申し出は一見親切だが、エリザベートには研究対象として自分を見ている彼の視線が痛いほど感じられた。セラスの強欲さが、知識欲と現在の状況への異常な関心として現れているのを、彼女は確実に感じ取っていた。
午前中の最後に、エリザベートは訓練場で騎士団長バルドールと遭遇した。汗を拭いながら近づいてくる彼の表情には、明らかな怒りが宿っていた。
「エリザベート様」
バルドールの声は抑制されているが、その奥に激しい感情が渦巻いているのがわかる。エリザベートは、彼の内面で正義への情熱が燃え上がっているのを感じた。しかし、その炎が時として危険な方向に向かう可能性も同時に感じ取っていた。
「バルドール様」
「少しお時間をいただけますか」
二人は人目のない中庭に移った。バルドールは剣を腰に差したまま、厳格な表情でエリザベートを見つめている。
「最近の噂について、お聞きしたいことがあります」
その直截的な口調に、バルドールの性格が表れている。彼は曖昧な表現を好まない。
「どのような噂でしょうか?」
「聖女リリアーナ様への感情についてです」
バルドールの目に、正義感から生まれる怒りが宿っている。
「王室に仕える者として、また騎士として、不正や悪意を見過ごすわけにはいきません」
彼の正義感は本物だった。しかし、エリザベートには、その正義が時として盲目的になる危険性を感じさせた。
「そのような噂に事実はございません」
「では、なぜこれほど多くの人が同じことを言うのでしょうか?」
バルドールの怒りがさらに強くなった。
「噂には必ず何らかの根拠があります。完全に無根拠な話が、これほど広がることはありません」
彼の単純な正義感が、複雑な現実を理解することを妨げている。バルドールは善悪を明確に区別したがるが、現実はそう単純ではない。
「それは、私にもわかりません」
「エリザベート様」
バルドールは一歩近づいた。その動きに、抑えきれない激情が込められている。
「もし、これらの噂に一片でも真実があるなら、私は騎士として適切な行動を取らざるを得ません」
バルドールの手が、無意識に剣の柄に触れた。脅しではない。彼の正義感から生まれる、純粋な警告だった。だからこそ、エリザベートには恐ろしく感じられる。
「ご忠告、ありがとうございます」
エリザベートは冷静に答えた。
「私は常に正しく行動するよう心がけております」
「そうであることを祈ります」
バルドールの表情は厳しいままだった。彼の正義への執着が、この状況をさらに複雑にしていることを、エリザベートは痛感していた。
午後の茶会では、状況の変化がより鮮明に現れていた。エリザベートが会場に入ると、夫人たちの会話が不自然に止まった。
「まあ、エリザベート様」
子爵夫人が表面的な笑みを浮かべて声をかけてきた。
「今日もお美しいですこと。お疲れは見えませんわ」
その言葉には、明らかに皮肉が込められている。周囲の夫人たちも、好奇心に満ちた目でエリザベートを見つめていた。
「ありがとうございます」
「ところで」
別の夫人が口を開いた。
「最近、聖女様のお働きが素晴らしいと、街でも評判ですわね」
「ええ、本当に立派な方です」
「でも」
子爵夫人が意味深に続けた。
「全ての方が、聖女様のお働きを理解していらっしゃるわけではないとか」
明らかにエリザベートを当てこすった発言だった。他の夫人たちも、興味深そうにその続きを待っている。
「理解していない、と申しますと?」
「いえ、具体的なことは存じませんが...複雑なお立場の方もいらっしゃるのではないかと」
このような遠回しな攻撃が、最も対処しにくい。直接的な非難なら反論できるが、曖昧な示唆は否定しにくい。
「聖女様のお働きは、誰もが認めるところです」
エリザベートは毅然として答えた。
「私も心から尊敬しております」
「もちろん、そうでしょうとも」
夫人たちは表面的には同意したが、その目には明らかに疑いの色が浮かんでいた。
そのとき、会場の空気が一変した。
「皆様、こんにちは」
リリアーナが茶会に到着したのだ。夫人たちの表情が一斉に明るくなる。
「聖女様」
「お忙しい中、ありがとうございます」
「先日の孤児院でのお働き、本当に素晴らしゅうございました」
リリアーナは謙虚に微笑んで、一人一人に丁寧に応対している。その自然な優しさは、確かに聖女と呼ぶにふさわしかった。
「あら、エリザベート様も」
リリアーナがエリザベートに気づいて、優雅に近づいてきた。
「お元気そうで何よりです」
その笑顔に曇りはない。まだリリアーナは、噂の深刻さを完全には理解していないようだった。
「リリアーナ様こそ、お忙しい毎日をお過ごしのようで」
「ええ、でも充実しています」
リリアーナの目が輝いている。
「困っている人々のお役に立てることは、本当に幸せなことです」
その純粋な喜びが、エリザベートの胸に複雑な感情を呼び起こした。嫉妬ではない。むしろ、彼女の純粋さを守りたいという、不思議な保護欲のようなものだった。
「素晴らしいお心がけです」
「ありがとうございます」
リリアーナは嬉しそうに微笑んだ。
「エリザベート様も、いつかご一緒していただけると嬉しいのですが」
その申し出は心からのもののようだった。しかし、周囲の夫人たちの視線が、その可能性を否定している。
「機会があれば、ぜひ」
エリザベートは表面的な同意を示したが、その機会が訪れることはないだろうと感じていた。
茶会の後半で、夫人たちの会話はより具体的になった。
「聖女様の慈善活動を、全ての方が支持しているわけではないという話も...」
「まあ、そのようなことが」
「詳しくは存じませんが、何か複雑な事情がおありのようで」
リリアーナの表情に、わずかな困惑が浮かんだ。
「複雑な事情、と申しますと?」
「いえ、私どもには理解しかねることですが...」
夫人たちは意図的に曖昧な表現を使い、リリアーナの好奇心を刺激している。エリザベートは、この状況が意図的に作られていることを確信した。
「もしかして、私の活動に何か問題があるのでしょうか?」
リリアーナの声に、不安の色が滲んだ。
「いえいえ、聖女様のお働きは完璧です」
「ただ、全ての方が同じようにお考えではないということのようで...」
リリアーナの目に、初めて疑いの影が宿った。彼女は無意識にエリザベートの方を見た。その視線に、エリザベートは微かな変化を感じ取った。
まだ明確な疑いではない。しかし、何かがおかしいという感覚が、リリアーナの中に芽生え始めているのがわかる。
「エリザベート様」
リリアーナが直接声をかけてきた。その声音に、これまでにない微妙な距離感が込められている。
「はい」
「最近、体調がすぐれないご様子ですが...何かお困りのことがおありでしたら、いつでもお話しください」
表面的には気遣いの言葉だったが、エリザベートには探るような響きが感じられた。リリアーナ自身も、自分の言葉に込められた疑いに戸惑っているようだった。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ただの疲労だと思います」
「そうですか...」
リリアーナは納得していない様子だった。彼女の純粋な心が、周囲からの情報と自分の感覚の間で揺れ動いているのが手に取るようにわかる。
茶会が終わり、人々が帰り支度を始める中、エリザベートは早めにその場を離れた。リリアーナの視線が背中に刺さるのを感じながら。
---
**【リリアーナの視点】**
茶会が終わり、客人たちを見送った後、リリアーナは一人で自室に戻った。いつもなら充実感に満たされる時間のはずなのに、今日は胸の奥に重いものが沈んでいる。
窓辺の椅子に座り、庭園を眺めながら、リリアーナは今日の会話を思い返していた。
「エリザベート様のことを、そんな風に言うなんて...」
口に出してみても、その言葉は空虚に響いた。夫人たちの話は確かに曖昧で、具体的な事実は何も示されていない。しかし、なぜこれほど多くの人が同じような懸念を抱いているのだろう。
リリアーナは自分の胸に手を当てた。純粋な心の持ち主である彼女には、人を疑うことが苦痛だった。
「私は、エリザベート様を信じたい」
でも、今日のエリザベートの様子には、確かに以前とは違う何かがあった。体調不良だけでは説明のつかない、深い疲労感。そして、時折見せる遠い目の表情。
「もしかして、本当に何か悩みを抱えていらっしゃるのかしら」
リリアーナの心に、新たな可能性が浮かんだ。もしエリザベートが何かに苦しんでいるなら、それを助けるのが自分の使命ではないだろうか。
しかし、同時に別の声が心の奥で囁いていた。
『でも、もし噂が本当だったら?』
その考えを振り払おうとしたが、完全に消し去ることはできなかった。
「神様、どうか私に正しい道をお示しください」
リリアーナは祈るように手を組んだ。しかし、神からの答えはすぐには降りてこない。
ドアをノックする音が聞こえた。
「聖女様、お疲れ様でした」
侍女のアンナが入ってきた。リリアーナの表情を見て、心配そうな顔をする。
「どうなさいました?お疲れですか?」
「少し...考え事をしていて」
「茶会でのことですか?」
アンナは察しが良い。リリアーナの日常を支える彼女には、主人の心境の変化がよくわかるのだろう。
「アンナ、あなたはエリザベート様についてどう思う?」
突然の質問に、アンナは戸惑った表情を見せた。
「それは...どういう意味でしょうか?」
「最近、様々な噂を耳にするの。でも、私には信じられない」
「噂、と申しますと?」
「私の活動を快く思っていないとか、何か企んでいるとか...」
アンナの表情が複雑になった。明らかに何かを知っているが、言いにくそうにしている。
「アンナ、正直に教えて」
「あの...確かに、最近そのような話を耳にすることが増えております」
リリアーナの心に、重い石が落ちたような感覚があった。
「でも」
アンナは慌てて付け加えた。
「それが真実かどうかは分かりません。噂というものは、しばしば事実とは異なりますから」
「そうね...」
リリアーナは窓の外に目を向けた。夕日が美しく沈んでいく。いつもなら神の恵みを感じる光景なのに、今日は何か寂しげに見える。
「でも、これほど多くの人が同じことを言うということは...」
「聖女様」
アンナが心配そうに近づいてきた。
「あまりお悩みになりませんよう。真実は必ず明らかになります」
「ええ、そうね」
リリアーナは微笑もうとしたが、その笑顔は以前ほど自然ではなかった。
アンナが部屋を出た後、リリアーナは再び一人になった。
「エリザベート様...」
その名前を呟くと、胸の奥で何かが痛んだ。友人になりたいと思っていた人を疑わなければならないかもしれないという現実が、彼女の純粋な心を苦しめている。
「もし本当に何か問題があるなら、私は何をすべきなのでしょう」
リリアーナの心に、これまで感じたことのない重い責任感が圧し掛かってきた。聖女として、民衆の期待に応えなければならない。しかし、一人の人間として、エリザベートを見捨てることもできない。
「明日、直接お話ししてみましょう」
リリアーナは決心した。曖昧な噂に惑わされるのではなく、自分の目で真実を確かめよう。
しかし、その決心とは裏腹に、心の奥では既に疑いの種が根を張り始めていた。一度芽生えた疑念は、どんなに純粋な心の持ち主でも、完全に消し去ることは難しい。
「神様、私をお許しください」
リリアーナは祈った。疑うことへの罪悪感と、それでも湧き上がってくる不安に、彼女の心は引き裂かれそうになっていた。
夜が深くなっても、リリアーナの心に平安は訪れなかった。これまで信じてきた善意だけでは解決できない、複雑な現実に直面していることを、彼女は痛いほど感じていた。
---
**【エリザベートの視点に戻る】**
茶会を終えて宮廷を後にする際、エリザベートは街の様子をより注意深く観察した。人々の視線が、確実に変化している。
「あれがヴァルハイム公爵令嬢か」
「聖女様を妬んでいるという...」
「まさか、そのようなことは」
「でも、噂は複数の場所から聞こえてきますから」
断片的に聞こえてくる会話から、噂が着実に浸透していることがわかる。しかし、まだ決定的な中傷には至っていない。
屋敷に戻ったエリザベートを、マリアが心配そうに迎えた。
「お疲れ様でした。いかがでしたか?」
「予想通り、状況は悪化しています」
エリザベートは正直に答えた。そして、茶会でのリリアーナの変化についても触れた。
「リリアーナ様の心にも、疑いの種が蒔かれました」
「まあ...」
マリアの表情が暗くなった。
「あれほど優しい方でも?」
「彼女も人間です。多くの人から同じことを聞けば、疑問を抱くのも自然でしょう」
エリザベートは窓の外を眺めながら続けた。
「むしろ、これまで疑わずにいてくれたことに感謝すべきかもしれません」
「何か、新しい動きはありましたか?」
「はい...午後に、情報収集をしている方々がいらしたようです」
「どのような方が?」
「詳しくは分かりませんが、お嬢様の日常について質問していたとか」
組織的な調査が始まっているようだった。エリザベートは、この状況がさらに悪化することを覚悟した。
「それと...」
マリアの声が小さくなった。
「近所の方々からも、お嬢様について尋ねられることが増えているようです」
「どのような内容で?」
「最近のご様子や、宮廷でのお話など...皆様、心配していらっしゃるようですが」
心配という名の好奇心。エリザベートは、自分を取り巻く状況が確実に悪化していることを実感した。
部屋に戻って、エリザベートは今日一日を振り返った。セラスの知識欲、バルドールの正義感、そしてリリアーナの心に芽生えた疑い。
不思議なことに、エリザベートには彼らの心の動きが手に取るように感じられた。まるで自分の使命が、彼らの内面の何かを炙り出すことであるかのように。
「なぜ私は、皆の心の変化を感じ取ることができるのでしょう」
その疑問に答えてくれる者はいない。しかし、エリザベートには確信があった。これらすべてには、何か深い意味があるということを。
体調の悪化も続いている。頭痛、めまい、そして説明のつかない違和感。まるで何かの限界が近づいているような感覚。
「このままでは...」
またしても、「破滅」という言葉が頭をよぎった。なぜそんな言葉が浮かぶのか、自分でもわからない。
鏡の前に座って、エリザベートは自分の顔を見つめた。確かに疲労の色が濃い。しかし、それ以上に、自分の目に宿る不思議な光に気づいた。
まるで、何か別の存在が自分を通して世界を見ているような...
そんな不可解な感覚を振り払って、エリザベートはベッドに横になった。
明日はさらに厳しい一日になるだろう。リリアーナとの関係も、今日を境に変わってしまうかもしれない。
しかし、不思議と恐怖はなかった。むしろ、ようやく何かが始まったという感覚さえあった。
すべてが謎に包まれている。しかし、その謎が解ける日は近づいているような気がしてならない。
そして、自分がその答えを見つけるための、重要な役割を担っているということも。
エリザベートは眠りにつきながら、明日という日に向けて心を準備していた。嵐はまだ始まったばかりなのだから。
今夜、宮廷の別の場所では、リリアーナもまた眠れない夜を過ごしていることを、エリザベートは知る由もなかった。二人の運命が、確実に新たな段階に入ろうとしていることを感じながら。




