表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第3章第2話:調査の開始と期待の高まり

翌朝、エリザベートは久しぶりに希望を胸に目覚めた。体調は相変わらず優れないが、昨日の成果が心を軽やかにしていた。三人の協力者たち、それぞれが異なる角度から真相に迫ってくれるはずだ。


窓辺に立ち、朝の光を浴びながら、エリザベートは昨夜考えた計画を再確認していた。セラスの学術的アプローチ、バルドールの正義に基づく調査、ロイドの情報収集力。三つの異なる手法が組み合わさることで、必ず真実に辿り着けるだろう。


「お嬢様、今朝はお顔の色が良いようですね」


マリアが安堵の表情で声をかけた。確かに、主人の表情には久しぶりに活力が宿っている。


「はい。ようやく光明が見えてきました」


エリザベートは鏡の前で身支度を整えながら答えた。頭痛は続いているが、それでも心は軽やかだった。


「セラス様は学者として客観的に調査してくださるでしょうし、バルドール様は正義感から真実を追求してくださる。そしてロイドは利益のために必死に情報を集めてくれるはず」


「三人それぞれの特性を活かした見事な戦略でした」


マリアの言葉に、エリザベートは微かな誇らしさを感じた。これまでの直情的なアプローチとは違う、計算された作戦が功を奏したのだ。


朝食を摂りながら、エリザベートは今後のスケジュールを整理していた。三人からの連絡を待ちつつ、可能な限り体調管理に努める必要がある。調査が本格化すれば、彼らとの打ち合わせも増えるだろう。


「マリア、今日は屋敷で静かに過ごします」


「そうですね。無理は禁物です」


午前中、エリザベートの元に最初の訪問者があった。宮廷魔法師セラスだった。彼の足音が廊下に響いた時、エリザベートの心は期待で躍った。


「おはようございます、エリザベート様」


セラスの目には、昨日にも増して興奮が宿っている。その輝きを見て、エリザベートは彼の研究者としての情熱を感じ取った。


「セラス様、おはようございます」


「早速ですが、研究の準備が整いました」


「もうですか?」


エリザベートは驚いた。まだ一日しか経っていない。


「はい。昨夜、関連文献を徹底的に調べ上げました」


セラスは厚い本を数冊抱えている。その重さからして、相当な量の資料を集めたようだった。


「睡眠時間を削って研究に没頭したのですが、その甲斐がありました」


セラスの目に浮かんだ興奮は、純粋な学術的好奇心から生まれたものだった。しかし、それは同時に、研究対象としてのエリザベートへの強い関心でもある。


「あなたの症状に類似した事例を古文書から発見したのです」


「類似した事例が?」


エリザベートは興味深そうに身を乗り出した。


「詳しく教えていただけますか?」


「まず基本的な検査から始めましょう」


セラスは魔法道具の入った鞄を取り出した。中には見慣れない器具が複数入っている。


「より精密な魔法的スキャンを行い、異常の詳細な性質を解明します」


「宮廷での検査とは違うのですか?」


「ええ。あれは大まかな検出に過ぎません」


セラスの目に、研究者特有の熱意が燃えている。


「私の個人的な研究機器を使用すれば、はるかに詳細なデータが得られます」


セラスは器具を丁寧に並べながら説明を続けた。


「これは古代魔法の検出器です。通常の魔法とは異なる波動を感知できます」


「こちらは魔力の流れを可視化する装置。あなたの体内でどのような異常が起きているか、目で確認できます」


「そして、これが魔法的な記憶を読み取る装置。もし外部からの魔法的影響があれば、その痕跡を見つけられるでしょう」


エリザベートは、セラスの知識の深さと準備の周到さに感動していた。これほど本格的な調査をしてくれるとは思わなかった。


「本当にありがとうございます。ここまでしていただけるとは」


「いえいえ」


セラスは謙遜したが、その表情には明らかな満足感があった。


「研究者として、このような稀有な現象を見逃すわけにはいきません」


「それに」


セラスの声が少し興奮気味になった。


「もしこの研究が成功すれば、魔法学の新たな地平が開けるかもしれません」


彼の内面で、学術的野心が膨らんでいるのを、エリザベートは感じ取った。しかし、それは彼女を助けるための純粋な研究心だと受け取っていた。


「準備ができ次第、私の研究室でお会いしましょう。今日の夕方はいかがですか?」


「もちろんです」


「それでは、詳細な分析を楽しみにしていてください」


セラスが帰った後、エリザベートは期待に胸を膨らませていた。


「マリア、セラス様の研究で、きっと真相が明らかになりますね」


「そうですね。あのような博識な方が調査してくださるなら」


「古文書にまで当たって研究してくださるとは...本当に頼もしい限りです」


エリザベートは窓の外を眺めながら、セラスの研究への期待を膨らませていた。彼の学術的アプローチなら、感情に左右されない客観的な結果が得られるはずだ。


午後、今度は騎士団長バルドールが屋敷を訪れた。彼の足音は重く、威厳に満ちていた。


「エリザベート様」


バルドールの表情は昨日よりも真剣だった。騎士としての使命感に燃えているのが見て取れる。


「調査を開始いたします」


「ありがとうございます」


バルドールは大きな書類鞄を持参していた。中には調査用の資料や道具が整然と収められている。


「まず、あなたの日常について詳しくお聞かせください」


バルドールは羊皮紙を広げ、ペンを手に取った。その動作は軍人らしく無駄がない。


「最近の行動、接触した人物、訪れた場所...すべて記録いたします」


「どのようなことでも?」


「はい。真実を明らかにするためには、些細なことでも見逃せません」


バルドールの目に、正義への強い決意が宿っている。


「正義は細部に宿ります。あらゆる可能性を検証し、客観的な事実を積み重ねることが重要です」


バルドールの言葉には、騎士としての誇りと責任感が込められていた。エリザベートは、彼の誠実な態度に深く感動していた。


「それでは、一週間前から順を追って説明いたします」


エリザベートは記憶を辿りながら、詳細に行動を説明し始めた。宮廷での出来事、屋敷での日常、街での活動...すべてを包み隠さず話した。


バルドールは一言一句を丁寧に記録していく。時折、詳細を確認したり、補足説明を求めたりした。


「その時の周囲の反応はいかがでしたか?」


「その人物との会話の詳細を教えてください」


「その場にいた他の人々は誰でしたか?」


二時間にわたる詳細な聞き取りの後、バルドールは満足そうに頷いた。


「非常に有用な情報です。これらを基に、関係者への聞き込みを行います」


「関係者への聞き込み?」


「はい。あなたの証言だけでは不十分です」


バルドールは立ち上がった。


「複数の証言を照合し、矛盾点を洗い出すことで、真実に近づけるでしょう」


「具体的にはどのような方々に?」


「宮廷の関係者、街で接触した人々、そして噂の発生源に関わる可能性のある人物たち」


バルドールの調査計画は系統的で、騎士らしい規律正しいアプローチだった。


「事実関係を正確に把握することが、正義への第一歩です」


「頼もしい限りです」


「明日から本格的な調査を開始いたします。必ず結果をお持ちします」


バルドールの力強い言葉に、エリザベートは深い安心感を覚えた。正義感に燃える騎士が味方についてくれているという事実が、どれほど心強いか。


「バルドール様のような方が調査してくださるなら、必ず真実が明らかになるでしょう」


「それが騎士の務めです」


バルドールが帰った後、エリザベートは彼の真摯な姿勢に感銘を受けていた。


「マリア、バルドール様の調査方法は本当に系統的ですね」


「さすが騎士団長です。きっと客観的な証拠を集めてくださるでしょう」


夕方、情報屋ロイドが現れた。彼の到着は他の二人とは対照的で、音もなく現れた。


「エリザベート様、お疲れ様です」


ロイドの表情には、仕事への意欲が満ちている。職業的な鋭さが目に宿っていた。


「早速、興味深い情報を入手いたしました」


「もうですか?」


エリザベートは驚いた。まだ一日しか経っていないのに。


「さすが情報収集のプロですね」


「お褒めいただき光栄です」


ロイドは満足そうに微笑んだ。その表情には職業的なプライドが現れている。


「情報屋として20年のキャリアがありますからね」


「まず、噂の発生源について調査いたしました」


「発生源が特定できたのですか?」


「完全にとは言えませんが、いくつかの有力な情報筋から、興味深い証言を得ています」


ロイドは小さなノートを取り出した。そのページには、細かな文字で情報が整理されている。


「噂の最初の発生地点を三箇所まで絞り込みました」


「三箇所?」


「はい。宮廷内の特定の派閥、街の商人組合の一部、そして...」


ロイドは一瞬言葉を濁した。


「教会関係者の間です」


「教会?」


エリザベートは意外に思った。


「どういうことでしょうか?」


「詳細は継続調査中ですが、確実に組織的な動きが存在します」


ロイドの目に、探偵としての鋭い洞察力が宿っている。


「単発的な噂ではなく、計画的に広められた可能性が高い」


「それは...陰謀ということでしょうか?」


「その可能性が高いです」


ロイドは声を潜めた。


「ただし、黒幕の特定まではもう少し時間が必要です」


「どれくらいでしょうか?」


「一週間もあれば、決定的な証拠を掴めるでしょう」


ロイドは自信に満ちた表情を見せた。


「報酬に見合う成果をお約束いたします」


「本当にありがとうございます」


ロイドの情報収集能力の高さに、エリザベートは驚いていた。たった一日でここまでの成果を上げるとは。


「情報屋の仕事は、スピードが命です。依頼を受けたら、即座に行動に移します」


「それが信頼に繋がるのですね」


「その通りです。今回の件も、必ず期待に応えてみせます」


三人の協力者それぞれから心強い報告を受けたエリザベートは、これまでにない希望に包まれていた。


書斎に戻ったエリザベートは、今日得られた情報を整理した。セラスの学術的研究、バルドールの系統的調査、ロイドの情報収集。三つのアプローチが順調に進んでいる。


「マリア、今度こそ真実が明らかになりそうです」


「本当に良かったです。お嬢様の戦略が功を奏しましたね」


「それぞれの専門性を活かした調査...きっと多角的な検証で真相に辿り着けるでしょう」


エリザベートは窓の外を眺めながら続けた。


「セラス様の学術的分析で魔法的異常の真の性質が判明し、バルドール様の聞き込み調査で客観的事実が明らかになり、ロイドの情報網で黒幕が特定される」


「完璧な役割分担ですね」


「三人がそれぞれ異なる角度から調査することで、見落としも防げるはずです」


エリザベートの期待は日に日に高まっていた。これまでの孤立感とは打って変わって、頼れる協力者たちがいるという安心感が心を満たしている。


その夜、エリザベートは久しぶりに平穏な気持ちで眠りについた。体調の悪化は続いているが、心の重荷が軽くなったような感覚があった。


翌日から、三人の調査が本格的に開始された。


セラスは研究室に籠もり、古文書と魔法理論書を片っ端から調べ上げている。彼の研究への情熱は凄まじく、食事も忘れて没頭している様子だった。


時折、エリザベートを呼んで追加の検査を行い、データを蓄積していた。


「興味深い発見が続いています」


セラスは興奮気味に報告した。


「あなたの魔法的異常は、既知の分類に当てはまらない全く新しい現象のようです」


「新しい現象?」


「はい。これまでの魔法学の常識を覆す可能性があります」


セラスの目に、学者としての野心的な輝きが宿っている。


「もしこの研究が成功すれば、魔法学会に大きな衝撃を与えるでしょう」


「私の名前も、魔法史に刻まれることになるかもしれません」


セラスの興奮は、純粋な学術的関心を超え始めているようだった。しかし、エリザベートにはそれが見えていない。


バルドールの調査も着実に進展していた。


「関係者への聞き込みを進めています」


バルドールは定期的に報告に訪れた。彼の調査は methodical で、騎士らしい規律正しさがあった。


「いくつかの矛盾点が明らかになってきました」


「矛盾点、と申しますと?」


「あなたに関する証言に、不自然な一致が見られるのです」


バルドールの表情が真剣になった。


「まるで誰かが証言内容を調整しているかのような...」


「それは、陰謀の証拠ということでしょうか?」


「可能性があります。複数の証言者が、同じような表現で同じような内容を証言している」


バルドールは調査ノートを見ながら説明した。


「これは偶然ではないでしょう。意図的に組織された可能性が高い」


「さらに詳しく調査いたします」


バルドールの正義感が、真実追求への強い動機となっているのがわかった。


ロイドの情報収集も順調だった。


「黒幕の正体が見えてきました」


ロイドは自信満々に報告した。彼の職業的なプライドが満足感に現れている。


「複数の情報源から一致する証言を得ています」


「本当ですか?」


「はい。宮廷内の特定の派閥が、計画的にあなたを陥れようとしている証拠を掴みました」


「具体的には?」


「まだ詳細は言えませんが、相当に高い地位にある人物が関わっているようです」


ロイドの目に、大物を追い詰める興奮が宿っていた。


「あと数日もあれば、決定的な証拠を掴めるでしょう」


三人の調査が進むにつれ、エリザベートの期待はますます高まっていった。


「ようやく長いトンネルの出口が見えてきました」


エリザベートはマリアに語りかけた。


「三人それぞれが異なる角度から真相に迫ってくれている。これほど心強いことはありません」


「お嬢様の洞察力の賜物です」


「直接的な善行では限界がありましたが、相手の本質を理解したアプローチは確実に成果を上げています」


エリザベートは自分の戦略に確信を深めていた。三人の専門性を活かした分業体制が、予想以上の効果を上げている。


一週間が経過し、三人からの最終報告の約束の日が近づいてきた。エリザベートの期待は最高潮に達している。


「明日には、すべての真実が明らかになる」


彼女は窓の外の夕日を眺めながら呟いた。


「セラス様の学術的証明、バルドール様の客観的調査、ロイドの情報収集...三つの証拠が揃えば、誰も私の無実を疑うことはできないでしょう」


マリアも主人の希望的な表情を見て、安堵していた。


「きっと明日からは、すべてが好転いたします」


「リリアーナ様との関係も修復できるでしょうし、宮廷復帰も夢ではないかもしれません」


エリザベートの期待は、現実的な範囲を超えて膨らんでいた。三人の協力者への絶対的な信頼が、楽観的な予測を生んでいる。


「民衆の皆様にも、私の真意を理解していただけるはずです」


「お嬢様、そうなることを心から願っております」


体調は相変わらず優れないが、心は軽やかだった。頭痛やめまいといった症状は続いているものの、希望という光が心を照らしている。


「三人とも、本当に頼りになる方々です」


エリザベートは感謝の気持ちを込めて呟いた。


「セラス様の学術的探求心、バルドール様の正義感、ロイドの職業的プライド...それぞれが最善を尽くしてくださっている」


しかし、エリザベートはまだ知らなかった。三人の協力者たちの心の奥底で、それぞれ異なる変化が起こり始めていることを。


セラスの学術的興味は、純粋な研究心を超えて危険な領域に足を踏み入れつつあった。新発見への渇望が、客観的な判断を曇らせ始めている。


バルドールの正義感は、自分の判断を絶対視する頑なさに変わり始めている。複雑な現実を白黒はっきりさせたいという衝動が、証言の検証を疎かにさせていた。


そしてロイドは、真の依頼主が誰なのかを見極めようとしていた。より高額な報酬を提示する者がいれば、簡単に鞍替えする可能性を秘めている。


明日の報告会が、エリザベートにとって希望の実現となるのか、それとも新たな試練の始まりとなるのか。


今夜の彼女は、まだそのことを知る由もなかった。ただ、長い間抱え続けてきた重荷から解放される日が、ついに明日やってくると信じていた。


「明日、私の新しい人生が始まる」


エリザベートは静かに呟いた。その言葉が、どれほど皮肉な響きを持つことになるのか、彼女はまだ知らなかった。


三人の協力者への絶対的な信頼、真相解明への確固たる信念、そして未来への希望に満ちた期待。すべてが明日、大きく覆されることになるのだが、今夜のエリザベートは平穏な眠りについていた。


嵐の前の静けさの中で、彼女は夢を見ていた。真実が明らかになり、すべての誤解が解け、再び愛される存在となった自分の姿を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ