027
東側拠点キャンプ――
赤い太陽が天頂を過ぎ、ゆるやかに傾きはじめた頃、ヤマトたちは東側拠点キャンプのすぐそばまで戻って来ていた。
「おい、誰か戻って来たぞ!」
見張りの声が、静かな谷に響く。
「本当だ、グループCか?……いや、Aだ。
Aの連中が帰ってきたぞ!」
テントの間から隊員たちが顔を出し、ざわめきが広がる。
ヤマトたちがキャンプに足を踏み入れると、グループBとDの隊員たちが広場で待っていた。
ヤマトは周囲を見渡しながら、Bの隊長に声をかけた。
「てっきり今日はBかDのどちらかが救援に来るのかと思ってたけど……ここに留まってたんだな」
Bの隊長は、少し首を横に振りながら答える。
「俺たちも最初はそう思って町を出発してたんだ……
だが、俺たちがここに着いた後、到着の連絡を行う為に町と交信を行ったヴァリドの戦士が、
“BもDもここで待機するように”と、藤堂さんが言ってると伝えてきてな。
それで、とりあえず指示があるまで俺たちはここに留まってたんだ」
「そうか……
まぁ、普通に考えれば、Cもうちも戻って来ないから、このまま無闇に救援行かせるのもどうかと考えてもおかしくはないな」
「.....ああ。ところでどうだった?
Cの連中は見つかったのか?
お前達は昨日の夜は、どこに居たんだ?」
その問いに、BとDの隊員たちの視線が一気に集まる。
ヤマトはタイチの方に手を向ける
「Cの連中は……彼だけは、何とか救出できた」
その言葉に、BとDの隊員たちの表情が動いた。
タイチが、ドゥイラスの足を松葉杖としている事に気がつき騒然となる。
ヤマトは一息つき、これまでの経緯を、簡潔に、しかし確かな言葉で語っていった。
「.......なるほど……ってことは、Cの連中はドゥイラスにやられた訳じゃなく、未知のアンドロイドに襲われたってことなんだな。
そして、お前達は、昨夜ドゥイラスの群れと戦ったって訳か。
……すごいな。誰一人、やられなかったのか」
その声には、驚きと敬意が混じっていた。
「まぁ、実際の所かなり危なかったがな。
奴ら、群れになると連携して攻撃してきやがる。
見た目も気持ち悪いし、あまり何度も戦いたくはないな」
ヤマトは、少し間を置いて続けた。
「ところで、これからどうすればいいんだ?
俺たちは一旦戻ってもいいのか?
昨日はほとんどみんな寝れてないし、帰れるなら帰りたい」
Bの隊長が腕を組みながら答える。
「そうだな……ヴァリドの戦士に頼んで、町と交信してもらおう。
本来なら、今日はみんな休みだしな。
一旦引き上げたいよな」
Dの隊長も頷く。
「ここにいた他の班の連中も、俺たちと入れ替わりで帰ったしな。
グループCの顛末も分かったし、Aが戻ってきた今、ここに居てもあまり意味はないよな」
短く話し合った後、Bの隊長が、現状報告と今後の方針について町の方に確認してもらうために、高台にいるヴァリドの戦士へ交信の依頼をしに行った。
そして、しばらくして、Bの隊長が高台の方から戻ってくる。
「交信してもらった結果だが――一旦、町に全員戻って来ていいとのことだ。
それと、町へ戻ったらヤマト隊長は中央施設に来てほしいそうだ」
ヤマトは軽く頷いた。
Bの隊長は続けた。
「じゃ、俺は他のヴァリドの戦士たちにも帰還命令が出た事を伝えてくる。
腹減ってるなら、補給班が保管庫に食糧置いてってるから、それを食べていいらしいぞ。
……まぁ、食糧って言っても灰色団子だけどな」
その言葉に、何人かの隊員が苦笑した。
ヤマトも苦笑いしながら答えた。
「あぁ、わかった。
じゃあ、ちょっと貰って食べ終わったら出発する。……またな」
そう言って、グループAの隊員たちとタイチは保管箱の方へと歩いていった。
隊員たちが箱から灰色団子を手に取る。
タクマは団子をひとつ口に運びながら、ぼそりと呟いた。
「昨日から灰色団子しか食べてないね……
僕、あんまりこの味好きじゃないんだよね」
リクがそれに反応する。
「俺は……この味、ちょっと好きになってきてるかも」
その言葉に、リョウが笑いながら続ける。
「俺もです。意外と美味いですよね」
タツヤは一口かじって、首を傾げた。
「僕はちょっと……この味は薄味すぎて物足りないかな」
サトルも頷きながら言う。
「そうだな。ちょっと味が薄い。
でも、身体には良さそうな味はする。アスリート向けかもな」
ユウトも同意する。
「薄味だけど、ちょっと食べただけでも腹持ちも良いし栄養価も高そう。健康には良いよね絶対」
セイジが続ける。
「まぁ確かに健康には良さそうだな。でも塩かけて食った方が美味いかもな」
その言葉に、ユウイチが目を輝かせた。
「塩!?……そうだね、塩がほしいね。
なんかここに来てからすっかり忘れてたけど、想像したらあの味が懐かしく感じる。
海苔とかも食べたいね」
ヤマトが団子を口に運びながら、少しだけ苦笑して言った。
「お前ら、その辺にしとかないと、現実に帰った時虚しくなるだけだぞ」
レンがユウイチを見ながらぼやく。
「あぁ……ユウイチさんが変なこと言うから、無性に海苔が食べたくなったじゃないですか。もう……」
そのやり取りを聞いていたタイチが、横で笑っていた。
「さぁ、食ったら、さっさと帰ろう。俺は早く帰って寝たい」
その言葉に、隊員たちは笑みを浮かべながら手に持った団子を急いで食べる。
リクがふと思い出したように声を上げた。
「あ、でもヤマトさん――そう言えば呼び出されてましたよ。中央施設に」
ヤマトは一瞬、顔をしかめて舌打ちした。
「ちっ、そうだった。……尚更、早く帰らないと。さ、もう帰るぞ」
グループAの隊員たちは一斉に頷いた。
――町へと戻ったヤマトは、休む間もなく中央施設へと向かった。
太陽がすでに山の向こうに隠れ始めている。
施設の入り口にはローブをまとった受付係が静かに座っていた。
ヤマトが名前を告げると、受付は頷き、会議場の方へ進むよう示した。
それに従いヤマトは通路を進んでいく。
壁には、古代文字のような文様と、淡い色彩の絵画が並んでいた。
神話、戦争、星々の巡礼を思わせる絵柄――どれも、ヴァリド族の信仰と歴史を語るもののようだった。
ふと、ある一角で足を止める。
壁に描かれた模様のひとつが、昨日、宇宙船の外殻に浮かび上がった紋章に酷似していた。
ヤマトはポケットから記録シートを取り出し、見比べる。
形状はほぼ同じ。だが、線の本数など細部にわずかな違いがある。
「……碧眼の神が“盗人”と呼んでいた人型ロボット達。
あいつらも、この星にとってまったく未知の存在って訳でもなさそうだな……」
ヤマトは記録シートを折りたたみ、再び会議場へ向けて歩き出した。
会議場へ着くと、すでにそこには賢老ノイと藤堂が待っていた。
ヤマトは一礼し、無言で席についた。
藤堂が話し始める。
「お疲れ様でした。伝令の方から少し伺ってます。
グループCの一人を救出したそうで、誠にありがとうございました」
ヤマトは軽く頷く。
藤堂は続けた。
「早速ですが、ここに戻ってくるまでの詳しいお話をお聞かせいただけますか?」
ヤマトは一息つき、静かに昨日から今日までの一連の経緯を語り始めた。
部屋の空気は次第に張り詰めていく。
ノイも黙って耳を傾けていた。
ヤマトの説明が終わると、ノイがゆっくりと口を開いた。
「ふむ……Cの怪我された方が見た、アンドロイドが乗っていたという船――貴方も、見ましたか?」
「ああ、見るには見た。
ただ、入口がどこかが分からなかった。
中までは確認出来ていない」
「そうですか……では、具体的にはどのような形でしたか?
翼がついた形のものでしたか?
それとも、流線形の機体でしたか?」
「流線形だな。……雫のような形をしていた」
その言葉に、ノイは短く頷いた。
「ふむ。分かりました。ありがとうございました」
ノイはそのまま、隣に立つ藤堂に身を寄せ、何かを小声で耳打ちした。
その声はヤマトには届かない。
藤堂は顔を上げ、再び口を開いた。
「Cの怪我人や他のCの方々は、結局、例の施設には入っていない――とのことで間違いありませんか?
それと、アンドロイドたちがその施設に入っていったかどうかについて、何か聞いていませんか?」
ヤマトは記憶を辿るような素振りを見せ、静かに答えた。
「怪我人が言うには、施設の手前でロボット達に気づかれて攻撃されたそうだ。
足を撃たれて負傷して、何とか逃げてきたらしい。
その時に他の隊員ともはぐれたと言っていた。
その後、他の隊員が施設に入ったかどうか、ロボット達が施設に入ったかどうかは、怪我人は分からないと言ってたな」
「そうですか.....ちなみにその怪我をした人の名前は分かりますか? 」
ヤマトが答える。
「 すまん。色々な事があり過ぎて、俺たちも気が動転していたから彼の名前までは聞きそびれたな」
ヤマトの返答を聞いた藤堂は、しばらく沈黙したまま何かを考えていた。
やがて、ゆっくりと身を乗り出し、隣に座るノイの耳元へ顔を寄せ小声で何かを囁いた。
そして、藤堂はヤマトに向き直った。
「お疲れのところ、ご報告ありがとうございました。
後から皆さんにも伝えますが――
Cの他の方々の捜索については、残念ですが、救援者への危険が大き過ぎますので、本日をもって打ち切りたいと思います」
ヤマトはわずかに眉を動かしたが、黙って聞く。
藤堂は続ける。
「それと、明日は一日お休みをいただいて、
明後日からは、巣穴探しではなく――ブラッドクリスタルの採掘の方に、全員で取り掛かろうと思います」
「あなた方の隊は、これまでにもドゥイラスの群れとの戦闘経験をお持ちです。
ですので、今回の採掘における護衛任務でも――ぜひ、その力をお貸しいただきたい」
藤堂の言葉が静かに会議場に響く。
しばしの沈黙の後、隣に座っていたノイがゆっくりと顔を上げた。
「……ふむ。私の方からも、同じくお願い申し上げます」
ヤマトは椅子の背にもたれながら、短く答えた。
「ああ、分かった」
そして、少し間を置いてから、彼は視線を藤堂に向け、静かに言葉を続けた。
「……そのかわり、以前言っていた“例の施設”を奪取する話――
それを実行する時は、俺たちの隊もそこに行かせてくれ。
Cの残りの連中のことも、気になってるんでな」
その言葉に、藤堂は一瞬だけ顔を歪めた。
だがすぐにその表情を消し、いつもの口調に戻る。
「……わかりました。
その時も、是非よろしくお願いします」
「……じゃ、そろそろ戻ってもいいか?」
藤堂は頷き、答えた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
その言葉にヤマトは軽く頭を下げ、無言のまま席を立ち、会議場を後にした。
通路へと向かう足取りは静かだが、揺るぎないものだった。




