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40光年  作者: 遊歩人
第一章 ヤマト

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022

神聖ヴァルクス隊の巣穴探索任務が始まってから、すでに30日が経過していた。

最初のうちは町から3日に1度の頻度で日帰りの探索を行っていたが、南側と東側の山岳地帯にそれぞれ厳重な防御網を備えた現地拠点キャンプが設営されてからは、拠点に寝泊まりしての探索も可能となり、探索範囲と任務の密度はそれまでより格段に増していた。


その結果、探索部隊が危険に晒される頻度も増えていく。

これまでに、残念ながら、転落事故とドゥイラスの襲撃によって、2名の犠牲者が出ていた。

それでも任務は続けられ、各グループは交代で巣穴の探索を進めていた。


ヤマトたちのグループは、当初、明らかに他の部隊よりも適正が低いメンバーが集まっていると見られたが、今のところ全員が無事であり、巣穴の発見数も意外にも全体で2番目に多かった。


その日、ヤマトたちは南側山岳の現地キャンプから探索に出ていた。

一方、巣穴発見数で群を抜いていたグループCは、東側山岳の拠点で活動していた。


ヤマトのグループは、その日すでに確認されている複数の巣穴を迂回し、さらに奥地を調査していた。

岩肌の露出した尾根を越え、風の強い稜線を進みながら、慎重に周囲を確認していく。


だが、このエリアでは新たな巣穴は見つからなかった。

緩やかな斜面の草原にはヴァイラスの群れが点在しており、先の方にもその数が減る様子はない。


「……今日は駄目だな。こっち側には、しばらく巣は出てきそうにないな。

ドゥイラスの餌になるヴァイラスが、あんなに居るってことは……近くにいない証拠だ」


ヤマトがそう言うと、リクが答えた。


「前の時と一緒ですね。多分これ以上行っても無駄そう」


「そうだな。今日は町に戻る日だし、この辺で引き上げよう」


他のメンバーも同意して、来た道を引き返す。帰る途中、以前発見した巣穴の近くに現れたドゥイラスを1匹だけ駆除して少し早くキャンプに戻り、成果が無かった事を伝えた後、部隊は町の方へと早めに帰還した。


町に戻ってから数時間後、ヤマトは自身の居住区で食事をとっていた。

調理台の奥でカラメアが手際よく皿に料理を並べて運んでくる。


ヤマトは湯気の立つ皿を前にして、箸を動かしながら言った。


「やっぱ、カラメアの作る料理は美味いな。

キャンプで出る飯なんて、酷いときは灰色団子だけだからな……」


カラメアは振り返り、笑みを浮かべながら答えた。


「またまた。お世辞言っても、何も出ませんからね」


カラメアがふと思い出したように言った。


「あ、そう言えば、明日、久しぶりにルウが家に帰ってくるらしいですよ。

巫女様に何か伝えておいてほしいこと、あります?」


ヤマトは少し考えてから、静かに答えた。


「そうだな……俺たちはとりあえず、まだ生きてるってことぐらいかな。

まぁ、俺よりも、リクの方が伝えたいことがあるんじゃないか」


「分かりました。リクさんの方には、イル姉様が聞くと思うんで、そこは大丈夫だと思いますよ」


ヤマトとカラメアが居住区の食卓で食事を摂っていると、突然、扉を叩く音が響いた。


「……誰だろう」


カラメアが立ち上がり、軽く返事をして扉を開ける。


「はーい」


扉の向こうには、マコトが立っていた。

普段は報告や連絡を他の隊員に任せることが多い彼が、直接訪れるのは珍しい。


ヤマトは箸を置き、少し驚いたように言った。


「俺の所を訪れるのは珍しいですね。どうしたんですか? マコトさん」


「ああ、明日から休みのところすまない。実は、ちょっと問題が起こった」


ヤマトはマコトの表情を見て、すぐにただ事ではないと察した。姿勢を正す。


「……問題、ですか。何があったんです?」


「……グループCが、日が落ちてもキャンプに戻って来ていないらしい。

Cグループと一緒に町へ戻る予定だった東側通信班とキャンプ防衛組、それからヴァリドの戦士3名――彼らもグループCの帰還を待っていて、まだキャンプに留まっているそうだ」


ヤマトが眉をひそめる。


「あの優秀なグループCが、ですか……」


「そうだ。彼らのことだから、道に迷うなんてことはまず考えにくい。

だからこそ、あまりよくない事が起きてるんじゃないかと……みんな、心配してる」


マコトは一拍置いて、真っ直ぐヤマトを見る


「そこで、申し訳ないんだが……明日、夜が明けてから捜索活動を行いたい。

休みのところすまないが――Aグループに頼みたい」


ヤマトは静かに頷いた。


「……了解しました。俺たちで行きます。メンバーにも声をかけておきます」


「すまない。……よろしく頼む」


それだけ言うと、マコトは扉の向こうへと姿を消した。

足音が遠ざかっていく。


カラメアは食器を片付けながら、心配そうにヤマトを見た。


「……なんか危なそうな感じですけど、大丈夫なんですか?」


ヤマトは窓の外に目を向け、静かに答えた。


「危ないかどうかは、行ってみないと分からんな。

ただ、夜間に山の中で遭難してるとなると……かなり危険だ。

Cグループの状況は、厳しいかもしれない」


少し息を吐いて、言葉を継ぐ。


「……何事も無ければ良いがな」


ヤマトは立ち上がって言った。


「とりあえず、まずみんなに声をかける。今晩は地表出口前の地下広場まで移動して、そこで夜明けを待つ。夜が明けたら、すぐに東側キャンプに向かう」


ヤマトは少しだけ声を落として続けた。


「……カラメア、すまないが。明日の朝、みんなが食べられる弁当を作ってもらえないか?」


「はい分かりました。イル姉様とララミャにも頼んで、手分けして作りますね」


「ああ、よろしく頼む」


こうして、休みの予定だったグループAは急遽、消息を絶ったグループCの捜索に向かうこととなった。

時間を少しでも節約する為、夜のうちに地表出口前の地下広場へと集まり、夜明けを待って出発する。

明日の朝には、東側山岳へ向かう道を踏みしめることになる。


ヤマトから事情が説明されたメンバーは、それぞれ夜のうちに移動を開始して、この地表出口前の地下広場に集まって来た。

岩壁に設置された青い光の照明が広場全体を淡く照らしている。

夜明けを待つ静かな時間の中、隊員たちはそれぞれ装備を整えながら、自然と言葉を交わし始めた。


「そもそも、Cの連中は東側のどの辺りを探索してたんだ?」


セイジが腰に手を当てながら言った。


ヤマトは地図を確認するように視線を落としながら答えた。


「出る前に聞いてきた話だと、麓に近い辺りらしいです。結構探索が済んでるエリアで、一部巣穴が密集してる地点の先に、まだ確認できてない箇所があって、そこの探索に向かったらしい」


タツヤが言う。


「麓に近い辺りだったら……沼地もある場所ですよね?もしかすると、ダンバにやられたとか?」


ダンバ――沼地に潜む大型の捕食生物。隊員たちの間でも警戒対象として知られている。


リクが、静かに口を開いた。


「……でも、ダンバにやられたとしても、全員がやられるってのは考えにくくないですか?

誰も戻ってないってことは、何か別の問題が起きてる気がする」


レンが、腰に手を当てたまま口を開いた。


「……普通に考えたら、やっぱりドゥイラスじゃない?密集地の近くを通ってたなら、そっちの方が可能性は高いと思うけど」


ユウイチがヤマトの地図を覗き込みながらぽつりと呟いた。


「……東側の麓だったら、もしかすると僕たちが最初に例の施設から移動して来たときに野営した、あの川沿いの所で野営してる可能性もあるかもしれないね。

無事だけど、何か事情があって戻れなかったんだとしたら」


その言葉に、周囲の隊員たちが一瞬静かになった。

あの川沿いの野営地――水源が安定していて、地形も比較的安全。確かにその可能性はありそうだった。


リョウがぽつりと口を開く。


「……もしかして、俺たちが捕まってた施設から、あの宇宙人たちがまたやってきて、連れ去られたとかじゃないですよね?」


「ちょ、怖い事言わないでよ」


タクマが苦笑しながら言った。


隊員たちの間に、さまざまな憶測と不安が交錯していた。

ドゥイラス、ダンバ、グレイ種――可能性はどれも否定できず、言葉にするたびに空気が重くなる。


そんな中、サトルが静かに口を開いた。


「……どっちにしても、まず明日はグループCが向かったエリアの捜索から始めるしかないですよね。

体力、無駄にしないためにも――もう早めに寝ましょう」


その言葉に、広場の空気が少しだけ落ち着いた。

焦りや恐れではなく、冷静な判断が場を整える。


「そうだな」


ヤマトが頷いた。


「夜明けと同時に動く。今は、休めるだけ休んでおこう」


隊員たちはそれぞれ荷を整え、広場の隅に設けられた仮眠スペースへと向かっていった。

明日、何が待っているかは分からない。

だが、今はただ、何が起きても良いように備えるしかなかった。


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