表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40光年  作者: 遊歩人
第一章 ヤマト
20/28

020

聖域・巫女の部屋


コン、コン――。

ミオは深い眠りの中、微かなノック音で目を覚ました。


「……ん、おはよう...もう朝かぁ」


ベッドの上で上体を起こしながら、ぼんやりと天井を見上げる。


「この部屋にずっといると、時間の感覚がわからなくなる……」


独り言のように呟いたその瞬間、扉が静かに開き、ルウメアが勢いよく入ってきた。


「ミオ様ーっ!」


「うぉ、ど、ど、どうした、ルウメアちゃん!?」


ミオが驚いて身を引く間もなく、ルウメアは勢いよく抱きついてくる。


「ミオ様……私、聞きました!

ヴァリド族が――地表に戻れるかもしれないって!」


ミオは目をパチパチしながら、ルウメアの肩に手を添える。


「え……どういうこと……」


「巫女様が現れたから、ヴァリドに光がもたらされたのだと、長老様や導士様たちがおっしゃってました!

全てミオ様のおかげみたいです。ありがとうございます!」


ルウメアの瞳は潤み、声は震えていた。

ミオは戸惑いながらも、そっと彼女の頭を撫でる。

そして困ったように笑いながら言った。


「ねぇ、ルウメアちゃん、私……特に何もしてないんだけど。

ずっとここでヴァリド文字の勉強してただけかな」


ルウメアは顔を上げ、真っ直ぐな瞳でミオを見つめた。


「でも、長老様はおっしゃってました。

ノスリア帝国との長い戦いが、ようやく終わりに向かっているって。

予言の通り、巫女様が導いてくれているのだと」


ミオは少しだけ視線を落とした。


「……そうなんだ。私は全然、自覚ないなぁ。

導きも何も本当によく分からないんだけど……

でも、ヴァリド族の戦いが終わるんなら、それは……良かったね」


ルウメアはぱっと笑顔になり、力強く頷いた。


「はいっ!」


ミオはルウメアの笑顔を見つめながら言った。


「でも……やっと少しだけヴァリド文字を覚え始めたところだから、これまで通り……教えてくれるよね?」


「もちろんです、ミオ様!」


ミオは、よく分からないまま“巫女”として崇められていくことに、少し怖さを感じていた。

けれど、ヴァリド族が良い方向へ向かっていると聞くと、それはそれで素直に嬉しく思えた。

そしてもし、この戦いが本当に終わるのなら――

そのときはきっと、この聖域の部屋から出て、“巫女”という役目から解放される日が来るのかもしれない。

そんな淡い希望が、胸の奥に静かに灯る。


ただ、たとえ解放されるとしても、ミオはもう少しだけここで学びたいとも思った。

ヴァリド文字をもっと知りたい。この部屋に眠る古い本を、自分の手で読んでみたい。

そうした小さな好奇心も、確かにミオの中で芽吹いていた。


そうして、ミオは今日も、聖域の静かな部屋でルウメアと共に学び続ける――


一方その頃、休み明けの神聖ヴァルクス隊は中央広場に集まり、隊長・藤堂の登壇を静かに待っていた。


壇上に立った藤堂は、静かに一礼し、穏やかな声で語り始める。


「皆さん、おはようございます。

本日より、予定通りドゥイラスの生息域に関する調査を開始したいと思います。


町の近辺におけるドゥイラス出没の多発地点につきましては、ヴァリドの戦士たちが場所をある程度把握しておりますが、これまでに発見された巣の周辺に存在するブラッドクリスタルの多くは、すでに採掘されてしまっています。


そのため、私達のしばらくの間の活動は、未発見の巣を探していくことがメインの活動となります。

察する通り、未踏の地に足を踏み入れることになりますので、どうか油断なさらず、慎重な行動をお願いいたします。


なお、ヴァリドの戦士たちも同行はいたしますが、彼らは既知のルートまでの案内役と、現地キャンプから本部への連絡役を務めます。

新規ルートの探索は、我々神聖ヴァルクス隊の任務となります。


もし新たな巣を発見された際には、その位置を現地キャンプにいるヴァリドの戦士の方へ報告してください。

それから、例えブラッドクリスタルを発見したとしてもまだ採掘は行わないようにしてください。


ドゥイラスは夜行性ではありますが、巣に近づきすぎたり、単独で行動していますと、昼間であっても襲撃を受ける可能性が大いにございます。


必ずグループで行動し、行動時間の管理にも細心の注意を払っていただきますよう、お願い申し上げます。」


藤堂は一息置いて、隊員たちを見渡した。


「ここまでで、何か質問がありますか?」


前列の隊員が手を挙げる。


「巣がどういったものかが分からないので教えてください。」


藤堂が答える。


「そうでしたね……肝心なことを申し上げておりませんでした。

ドゥイラスの巣は、基本的に山肌の斜面に形成される洞穴状の構造です。

その穴が巣の入り口となっており、内部は蟻の巣のように複雑なトンネル構造を持っています。


大きな巣では、地中のトンネルが数百メートル規模に及ぶこともございます。

また、出口は一箇所だけではなく、通常複数存在します。

したがって、一つの巣穴を発見した場合は、周囲にも別の巣穴がある可能性が高いとお考えください。


さらに、穴のサイズが大きいほど、大型個体が潜んでいる可能性が高く、それと同時に、古くから生息している巣である証でもあります。


探索の際は、まず巣穴の発見を第一の目標としていただき、報告の際には、その穴の大きさもおおよそで構いませんので、併せて報告していただけますと助かります」


「それでは、活動に際しての役割についてもご説明いたします。


まず、前衛班総勢六十名のうち、四十名を探索部隊として割り当てます。

この探索部隊は十名ずつ四つのグループに分かれ、現地キャンプを起点として四方向へ分散し、新たな巣の発見を目指していただきます。


現地キャンプ到着までは、探索隊40名の他にヴァリドの戦士4名、キャンプ防衛の為、前衛班残り20名のうちの5名、通信班5名、技術班5名、補給班10名、医療班2名も一緒に行動します。


通信班の皆さんには、現地キャンプにてヴァリド族の信号増幅用アンテナの設置をお願い申し上げます。

補給班の皆さんは現地キャンプ設営の為の資材運搬の方をよろしくお願いします。

技術班はその資材を用いて、キャンプ周囲の電気柵の設置とキャンプの設営の方をお願いします。

設営完了後は、それぞれキャンプ防衛任務の補佐にご協力いただきたい。

医療班の方は、何かあった時の際の応急救護対応をお願いします。


また、ヴァリドの戦士たちは、現地キャンプから既知のルートまでを各探索隊と同行し、未探索領域の位置を伝えた後、現地キャンプへ戻る手筈となっております。


それから、現地キャンプの指揮官としてマコトも同行します。

現地では彼が全体の指揮を取ります。彼の指示に従ってください。


今回、現地活動に参加しない方々、主に後衛班の皆様は、地表に出て戻る訓練の方を併せて実施します。


なお、本日は初任務となりますので、無理をなさらず、まずは要領を掴むことを意識して行動してください。

皆さまの安全と確実な連携を第一に、よろしくお願いいたします」


「続いて、前回お伝えしていた通り、探索部隊のメンバーの方を発表いたします」


藤堂の声が広場に響いた。

探索部隊は、10名ずつの4グループ――A、B、C、Dに分けられている。


藤堂は名簿を手に、一人ずつ名前を読み上げていった。

その中で、ヤマト、リク、レン、ユウイチの4名はAグループに選抜された。


全員の発表を終えると、藤堂は一呼吸おいて言葉を続けた。

「以上が探索部隊のメンバーとなります。続いて、各グループでリーダーを一名選出してください。話し合いの後、代表者は私のところまで報告に来てください」


その指示を受け、隊員たちはそれぞれのグループに分かれていく。

Aグループの面々も広場の一角に集まり、互いの顔を見合わせた。

初任務を前に、緊張した空気が漂っている。


その中で、ヤマトが一歩前に出て口を開いた。


「リーダーなら……俺がやっても良いが」


静かな声だったが、芯のある響きがあった。

誰も異論を挟まなかった。


「じゃ、このグループのリーダーは俺で決まりだな」


ヤマトは腕を組み、ゆっくりと自己紹介を始める。


「俺はヤマトだ。目覚める前は神職に就いていた。年齢は36。みんな、よろしくな」


年齢を聞いて、リクたち以外のメンバーが少しどよめいた。


ヤマトは周囲を見渡しながら続ける。


「知ってる顔もまぁいるが……それぞれ、自己紹介をよろしく」


その言葉に、リク、レン、ユウイチが挨拶をしていく。


その後、他のメンバーも順に名乗っていった。


「私はユウトです。28歳です。営業職でした。

なぜ自分が前衛班で、しかも選抜されたのかはよく分かりませんが……ひとまず、よろしくお願いします」


「ぼ、僕はタクマ。33歳。AI関連企業で事務の仕事をしてました。

僕も、なんで選抜メンバーなのか……正直、わからない」


「俺はセイジだ。45歳」


年齢を聞いて、ヤマトの時以上に周囲がざわめく。


「ロボティクス工場の作業員だった。まぁ、身体は丈夫な方だと思う」


「俺はリョウです。18歳。高校卒業後、コンビニで働いてました」


「俺はサトル。29歳。役所勤めでした。

趣味がマラソンだったから……多分、それで選ばれたんだと思います」


「僕はタツヤ。31歳。ドローン管制の仕事してました。

僕も、なんで選ばれたのかは……謎です」


全員の自己紹介が終わり、少しの沈黙が流れた。

ヤマトは腕を組んだまま、眉をひそめてぽつりと口を開いた。


「……ちょ、ちょっと待て。これは本当に、ちゃんと考えられて選抜されたのか?」


その言葉に、メンバーも目を伏せ、空気が少しだけ張り詰める。

ヤマトはしばらく黙ったまま、何かを噛みしめるように視線を落とした。


「……まぁ、仕方ない。このメンバーでやるしかないだろう」


そう言って、周囲を見渡すと、軽く手を挙げて言った。


「じゃ、ちょっと藤堂のとこに報告に行ってくる」


その背中を見送りながら、Aグループの面々はそれぞれの思いを胸に静かに立ち尽くす。


これから、実際の任務が始まる。

不安と緊張を抱えながら――彼らは、静かに始動したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ