018
突如、緊急会議が開かれたため、神聖ヴァルクス隊はその日の訓練をキリの良いところで切り上げ、待機態勢に入っていた。
隊員たちはそれぞれの班で静かに次の指示を待っていた。
緊急会議を終えた藤堂が中央施設から戻ってくると、すぐに全隊員へ向けての召集がかかった。
「全員、これより中央広場へ集まるように」――その一言に、隊員たちはすぐに動き、広場には整然とした列が並んだ。
藤堂は隊員の前に立ち、静かに目を巡らせた後、口を開いた。
「先ほどの緊急会議の内容を、皆にも伝えておきます。
この度、カリスト星とエリシュア星の王族が婚姻を結び、巡礼を行う際、その旅路の中継地のひとつとしてここヴァリドの星が選ばれました。
中央都市はこれを受け入れ、星を挙げての歓迎を行うことが決定されました」
隊員たちは静かに耳を傾けていた。
「――この話の延長で、ノスリア帝国との敵対関係に変化が生じる可能性が出て来ています。
もしかすると脅威は和らぐかもしれません。しかし、それでも我々の本来の目的は変わらない。
侵略者への備えは怠らず、訓練は今後も継続していきます」
藤堂は一歩前に出て、声に力を込めた。
「加えて、婚姻の記念品としてヴァリドより贈られる事となったブラッドクリスタルの採掘――これを、我々神聖ヴァルクス隊が担うこととなりました。
危険と隣り合わせになりますが、隊をあげて、最高純度の結晶を見つけて掘り出す。
この作業にも今後、誇りを持って臨んでいただきたいです」
隊員達にざわめきが起きる。
藤堂は説明を終えると、隊員たちを見渡し、落ち着いた声で問いかけた。
「会議の内容は以上です。皆さん、――何かご質問はございますか?」
少しの沈黙の後、ヤマトが手を挙げた。
「侵略者への対応と、ブラッドクリスタルの採掘――俺たちの優先度は、どちらが上なのかを教えて欲しい」
藤堂は頷き、丁寧に言葉を継いだ。
「現時点において、侵略者たちの主力は宇宙空間に展開しています。これが今回の婚礼の話と関連しているかどうかは、まだ判断がつきかねますが、少なくとも現在、ヴァリドの地表においては侵略者の脅威はすでに減少していると考えられます。
そのため、前衛班の任務としては、現状ではまずブラッドクリスタルの採掘の方を優先していただきたいと思っています。
ただし、万が一侵略者による襲撃が発生した場合に備え、前衛班も一部は防衛任務に振り分ける予定です。
基本的には、後衛班がメインで町の防衛体制を担う形でしばらく進めていくつもりです」
「他に、何かご質問のある方はいらっしゃいますか?」
少しの沈黙の後、列の中から一人の隊員が一歩前に出て、声を上げた。
「我々が囚われていた侵略者の施設――あれは、このまま何も対処せず放置されるのですか?」
その問いに、周囲の空気がわずかに張り詰める。
藤堂はわずかに不適な笑みを浮かべ答えた。
「例の施設については――いずれ、必ず私どもの手により制圧いたします。
その際、侵略者との戦闘が避けられないことはほぼ確実です。ですので、皆さんには日々の訓練を怠らぬようお願いいたします。
当面、採掘任務が中心となるとはいえ、我々はあくまで神聖ヴァルクス隊――
備えを忘れず、誇りを持って行動していただきたい」
「その他には――」
藤堂が問いかけたが、その後、それ以上の質問は出てこなかった。
「それでは、本日の訓練はここで終了とします。
明日と明後日は、予定通り休息日となります。
皆さん、しっかりと身体を休めてください」
隊員たちは静かに頷き、緊張の糸を少し緩めた。
「なお、三日後は地表訓練の日となっておりますが――内容を変更し、ドゥイラス生息域の調査に取り掛かりたいと考えております。
危険地帯であるため、ここ数日の訓練状況をもとに、調査チームの人員を選定いたします。
当日、メンバーの発表を行いますので、各自準備を整えておいてください」
そう言うと藤堂は一歩下がり、静かに頭を下げた。
こうして、その日は予定よりも早く訓練が終了し、全員解散となった。
ヤマトは折角なので、リク達に声を掛けた。
「今日は早く終わったし、うちの居住区に集まって飯でもどうだ?
ついでに世話になってるメイド達も呼んで、みんなでパーッとやろうぜ」
ヤマトの誘いに、リクは少しだけ考えていたが、笑みを浮かべて頷いた。
「そうですね。色々話したいこともありますし、ぜひお願いします」
そして、少し遠慮がちに付け加えた。
「それと……ちょっと変わり者なんですけど、最近仲良くなったレンって人がいて。
彼にも声かけてみていいですか?」
ヤマトは即座に笑って答えた。
「全然問題ないよ。むしろ、ぜひ連れて来てくれ。変わり者でも、仲間が増えるのはいい事だ」
そのやり取りを聞いていたユウイチが、少し照れたように笑いながら言った。
「楽しそうだね。メイドさんにはちょっと声かけづらいから、僕だけになるかもしれないけど……行くよ」
ヤマトは頷き、腕を組みながら言った。
「じゃ、そうだな――一脈後くらいに集まろう。
食材はうちのメイドに頼んでみる」
こうして急遽、ヤマトの居住区にみんなで集まる事となった。
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「よっ、戻ったぞ。今日は予定よりも早く終わった」
居住区の扉をくぐりながら、ヤマトが声をかけると、奥からカラメアが顔を出した。
「おぉ、お帰りなさいませ、ヤマト様」
ヤマトはそのまま歩み寄り、少し申し訳なさそうに言った。
「カラメア、ちょっと悪いんだけどさ――この後、ここで仲間と集まって食事することになったんだ。一脈後に来るようになってる。
急で悪いんだけど、食糧の調達とか、できるか?」
カラメアはぽかんと目を丸くしたあと、ちょっと口を尖らせる。
「ややっ、ちょっとヤマト様。いくら何でもそれは急すぎます。
いくらカラメアでも、そんな急に食材を揃えるのは無理です」
ヤマトは両手を合わせて、少し頭を下げるようにして言った。
「そこを何とかさ、頼むよ。カラメア」
カラメアは頬を膨らませながらため息をつく。
「むぅ……何人来られるんですかぁ?」
ヤマトは少し考えるように首を傾げた。
「うーん、そうだな。俺の仲間が三人、カラメアの仲間が二人か三人。
俺とカラメアも入れたら……多くて八人ってとこかな」
「ちょ、ちょっと! 私も数に入ってるんですか? それに私の仲間って……」
「まあまあ、細かいことは気にすんなって。カラメアにも普段から世話になってるし、たまにはみんなで楽しくやろうぜ」
カラメアはしばらく唸っていたが、仕方ないという顔をした。
「とりあえず、やれるだけはやってみますけど――そんなに沢山の食事の用意は出来ないかもしれませんからね。
一人だと大変なので、ちょっと姉様にも手伝ってもらえるか、聞いてみます」
そう言うと、彼女は両手を広げ、ヴァリド族の能力である電気振動による会話を始めた。
その様子を見て、ヤマトが呟く。
「なかなか便利な能力だな......」
遠隔会話を終えたカラメアは、両手を下ろすと、目を丸くしてヤマトの方を振り返った。
「な、なんと……偶然なのですが、姉様も訪問先の方から食事に誘われたみたいでして。
それで、詳しく話を聞いてみると、どうやらここに来るらしいんです。
つまり、たまたまヤマト様のお仲間の一人に、うちの姉様が付いていたって事です……」
ヤマトは笑った。
「へぇ、そりゃまた偶然だな」
カラメアも笑顔で話す。
「なので、姉様も食糧をある程度準備して持って来てくれるそうです。
ヤマト様、運が良いですね。うちの姉様の料理は、私が言うのもなんだけど、ほんとに美味しいんですよ」
「へぇ、カラメアも料理上手いからな、カラメアが美味しいって言うなら楽しみだな」
カラメアはそれを聞いて顔が少し赤くなった。
「えと、じゃ、じゃ、私も急いで準備しないと」
そう言って、照れた素振りをみせながら、食材の準備に向けて動き始めた。
カラメアは手際よく食材の確認を始め、保存庫の扉を開けては、必要なものを一つずつ取り出していく。
ヤマトはそれを見て、少し離れた場所からそっと言った。
「……ありがとな、カラメア」
カラメアは一瞬だけ手を止めて振り返った。
そして、すぐに小さく笑って、何も言わずにまた手を動かし始めた。
その横顔には、文句を言っておきながらもどこか楽しげな雰囲気が漂っていた。




