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40光年  作者: 遊歩人
第一章 ヤマト
14/28

014

町に残ることを選んだ者たちは、中央施設の北側にある住居区画へと案内された。

そこは、黒い石造りの低層建築が並ぶ静かな一角で、各々に個室が与えられた。


身の回りの世話は、ヴァリドの若い女性たちが住居まで来て行ってくれる。

彼女らは食事を運び、衣類を整え、時には話し相手にもなってくれた。

その穏やかな振る舞いと、どこか神秘的な気配は、人々の異星での不安を少しずつ和らげていった。


町に住みだしてから6日後、みんなの生活が少し落ち着いた頃を見計らって、藤堂から一団に中央施設前の広場に集合するよう召集がかかった。


リク達もそれに応じて、広場の方へ向かった。


藤堂は中央広場の石壇に立ち、集まってきた人々をゆっくりと見渡した。

彼の背後には、ヴァリドの戦士たちも控えていた。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」


藤堂の声は、広場の空気を柔らかく震わせた。


「この地に来てから、少しずつ生活が整い、皆さんもこの町での暮らしに多少は慣れてきたのではないかと思います。

ですので、そろそろ私たちは与えられた使命の為に、本格的な活動を開始しようと思っています」


人々の間に、静かな緊張が走る。


「まず私たちの一団は、本日より『神聖ヴァルクス隊』と名乗ることにしました」


藤堂は一拍置いて、言葉を継いだ。


「“ヴァルクス”という名には、二つの意味を込めています。

一つは、地球における“ファランクス”――秩序と結束の象徴。

もう一つは、この地に生きるヴァリド族を護るという誓いです。

私たちは、碧眼の神の御名のもとに集い、巫女様とこの町の人々を守る存在として、歩み始めます」


ただ静かにその言葉が広場に染み渡っていく。


「そして、今後しばらくの間、私たちは部隊として正しく動けるようになる為に、ヴァリドの戦士たちと共に地表での訓練を行っていきます。

この星の環境に慣れ、彼らの知恵を学びながら、私たち自身の出来る事を増やしていきます」


藤堂は視線を集めるように、少しだけ声を強めた。


「今日は、まず訓練を始めていく前に、部隊における各々の役割分担を決めていこうかと思います」


人々の間に緊張が走る。


「本来なら、適材適所といきたいところですが……皆さんの中には、記憶を失っている方も多いかと思います。

ですので、まずは覚えている範囲で構いません。自身の経験があるものについて、記憶があれば挙手をお願いします」


藤堂は一拍置き、最初の問いを投げかけた。


「まずは――医者、救命士、薬剤師、あるいは医療機関での仕事の経験がある方、いらっしゃいますか?」


広場の一角で、5人ほどが静かに手を挙げた。


「ありがとうございます。手を挙げてくださった方々は、ひとまず医療班としてお願いします」


藤堂は次の問いを続ける。


「自衛隊員だった方はいますか?」


2人が手を挙げた。


「ありがとうございます。お二方は指揮班として私の補佐をお願いします。」


「次に、機械整備や設備保全、エンジニア、建築士の経験がある方は?」


今度は20人程が手を挙げた。


「そちらの方々は、技術班としてお願いします。設備や装備の管理をお願いすることになります」


藤堂の声は、穏やかに広場を満たしていく。


「続いて――在庫管理や調達、マネージメントなどの経験がある方は?」


10人ほどが手を挙げる。


「ありがとうございます。その方々は補給班としてお願いします。物資の流通や住居区との連携を担っていただきます」


藤堂は少しだけ間を置き、次の問いを投げかけた。


「格闘技や武道の経験者、警備員、消防士、あるいは普段身体を主に使う仕事をしていた方は?」


20人ほどが手を挙げた。その中には、ヤマトの姿もあった。


「その方々は、ひとまず前衛部隊ということでお願いします。地表での行動や、戦闘訓練を中心に進めていくことになります」


「続いて、IT関連や、無線通信、放送関連の仕事の経験がある方はおられますか?」


10人ほどが手を挙げる。


「その方々は通信班の方でお願いします」


そして、最後の問いが静かに広場に響いた。


「それでは――残っている方々の中で、主にデスクワークをしていた方、あるいはスポーツが苦手だった方は?」


残った人々の中でかなりの人数が手を挙げた。その中には、ユウイチの姿もあった。


「では、まずどれにも手を挙げなかった方々は、ひとまず前衛班でお願いします。」


リクはこれに該当した。リク含めて30人程がここで前衛班に配属された。


「最後に手を挙げてくださった皆さんには、主に後衛班として活動していただく予定ですが、他の班で人数が不足しているところにもこちらで勝手ながら割り振らせていただきます」


そう言って、最後に手を挙げた人々の中から、藤堂の独断で役割をどんどん割り振っていく。


ユウイチは結局あと10名ほど必要だった前衛班に藤堂から任命された。


ヤマトがそれを見て笑った。


「なんだ、結局みんな同じ班かよ」


ユウイチは苦笑しながら言う。


「前衛は、多分僕には向いてないと思うんだけどね……」


リクは、二人の顔を見てから、軽く頭を下げた。


「ヤマトさん、ユウイチさん――改めて、よろしくお願いします」


三人は顔を見合わせて、お互い少し笑顔を浮かべた。


班編成が一通り終わり、広場には静かな余韻が漂っていた。

同じ班になった者同士、互いに顔を見合わせ、少しずつ自分達の立ち位置を受け入れ始めている。


藤堂は石壇の上に立ち、再び全体を見渡した。


「本日、ひとまず暫定的に班の編成を行いました。

皆さん、ご協力ありがとうございました」


その声は、張り詰めた空気を少しだけ緩める。


「明日より、実際に訓練を開始します。

地表での環境、ヴァリドの戦士との連携、そして自分自身の適性――それらを少しずつ確かめていく時間になると思います」


人々の間に、静かな緊張が戻ってくる。


「訓練の中で、班の入れ替えが必要になることも出てくるかもしれません。

その際は、どうか柔軟に対応していただければと思います。

また、各班の中でも細かい役割――誰が何を担うか、どう動くか――そういったことは、訓練を重ねながら決めていきましょう。

今はまだ、始まりの段階です。焦らず、少しずつ形を作っていければと思います」


藤堂は石壇の上で、最後の言葉を告げる。


「それでは――本日はこれにて解散したいと思います。明日の“二脈”ちょうどから、訓練を開始します。時間になりましたら、再度こちらの広場へ集まってください」


班編成が終わり、藤堂の言葉をもって広場は静かに解散となった。

人々はそれぞれ居住区へと戻っていった。


ヤマトは黒い石造りの居住区に戻ると、扉の前で待っていたカラメアに手を振った。


「よっ、戻ったぞ。明日から訓練だってさ」


カラメアはぱっと顔を明るくして、くるりと身体を向けた。


「えっ、ほんとですか!?ヤマト様、ついに動き出すんですね!」


「まあ、動くつっても訓練な、訓練。前衛班になった。」


「おお!かっこいいですね。ヤマト様が敵をビリビリする所を私も見たいです。」


ヤマトは苦笑しながら、腰に下げた銃を見下ろした。


「カラノア、ちょっと聞きたいんだが――」


「はい、何ですか?」


「ヴァリド族から俺たちは今、この銃を預かってるんだが……

俺はどちらかと言うと、刀の方が好みなんだ。

この町には、刀のようなものは置いてないか?」


「刀??」


カラメアは目を丸くした。


「えっと、どういうものですか?銃とは違うんですよね?」


ヤマトは笑いながら、手で空を切るように動かした。


「細長くて、片側だけ刃がついてる。柄を握って、こう――振るって使う。斬るための道具だよ。

俺のいた星じゃ昔から使われてて、まあ、俺は三本くらい欲しいんだけど」


「三本!?そんなにいるんですか?」


「ああ、仲間の分も併せてな」


「うーん……そんなの、あったかなー……」


ヤマトは黙って待つ。カラメアはぽんと手を打った。


「ビリビリの棒じゃダメですよね?」


「……ビリビリの棒?」


「はい!握るところにボタンがあって、押すと――」

カラメアは両手で空をなぞるように動かした。


「細長い光の刃みたいなのが、シュッて出るんです。

青白くて、空気がピリッとする感じで……振るうと、黒石も焼けるくらいの威力があるって聞きました」


ヤマトは少しだけ眉を動かした。


「俺のいた星では、映画の中の架空の武器でそういうやつがあったが、ここには実際にあるのか....。

それはそうと、ヴァリド族って……電撃を用いた武器ばかりだな。何か理由があるのか?」


「うーん、多分、大きくは二つの理由があって、ひとつは――私たち自身、実は発電器官があるんです」


「発電器官?」


「はい。見てみます?」


ヤマトが頷くと、カラメアは部屋の灯りを落とした。

黒い石壁に静寂が広がる。


次の瞬間、カラメアの全身が青白く光った。

皮膚の下で、細かな光脈が脈打つように輝いている。


ヤマトは思わず息を呑んだ。


「……おお。すごい能力だな」


頭の中で、電気ウナギのような生態を思い浮かべる。

だが、目の前の光はそれよりもずっと繊細で、神秘的だった。


カラメアは灯りを戻しながら、明るい声で続けた。


「発電もできますし、電撃に耐性もあるんです。

だから、電気を武器にするのは自然な流れだったんだと思います」


「なるほどな。確かに理にかなってる」


カラメアは、さらにもう一つの理由を口にした。


「それから――かなり前の話なんですが、碧眼の神様が中央都市に降臨された時に、電気を扱う技術を族長様に伝授したって聞きました……

その時に電気を使ったいろんな武器が生まれたんだと思います」


「……なるほどな」


神話と技術が結びつくこの星の理に、少しだけ納得がいった気がした。


そして、視線をカラメアに戻す。


「じゃあ、その“ビリビリ棒”――三本、用意できるか?」


カラメアは目をぱちくりさせた。


「どうですかねー。ちょっと、じっちゃまに聞いてみます」


「じっちゃま?」


「鍛冶場の管理をしてるおじいさんです」


ヤマトは静かに頷いた。


「よろしく頼む」


カラメアが明るい声で答える。


「わかりました。んじゃ、わたしは今から町の方に行ってきます。

それでは――明日からの訓練、頑張ってくださいね。ヤマト様」


ヤマトは椅子に腰を下ろしたまま、軽く片手を上げる。


「ああ。またな」


カラメアは笑顔のまま、黒い石の扉を静かに閉じていった。


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