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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
一章.『人との共存』編
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第7話 魔法について その1

よろしくお願いします。

 

 人間と魔物は生物としてあまりにも異なる点が多い。違いの一つとして肉体の強度が上げられるだろう。魔物と比べると人間の肉体はあまりにも脆い。人間の中にも強靱な肉体を持つ個体も存在はするが、魔物と比べると多くの人間の体は脆弱だと言っても差し支えはないだろう。

 単純な肉体の強度だけではなく、病気への抵抗力、過酷な自然環境への適応能力なども魔物と比べれば見劣りする。

 人はよく傷を負い病気にもなる。

 何を言いたいのかというと、村医者としての仕事に困らない、ということだ。


 最初の方は閑散としていた私の診療所も今では患者がひっきりなしにやってくるようになった。決して喜ぶような状況はないが、共同体の中で貢献できるのは――私が人間社会に潜伏する必要があるという観点からしても――喜ばしいことである。

 今日も私はけが人を治療した。

 けが人は村の若者で冒険者もしている男性だ。商人の護衛任務中に怪我を負い私の診療所に運び出された。完全に野生化した魔物に襲われて負傷したそうだ。

 大きなケガもなく感染症等の症状も見当たらなかったので、ケガした箇所の治療だけで済んだ。


「先生。ありがとうございますっ!」


「礼には及ばない。あとで包帯はちゃんと取り替えるように」


「はい。分かっていますよ」


 若者は負傷した右腕にまかれた包帯を見て言う。


「しかし先生は魔法も使えるんですよね。わざわざ薬と道具を使わないでも回復魔法ですぐ治せるんじゃないですか?」


 と彼は首を捻る。

 ……以前にも説明をしたことがあるのに彼はすっかりと忘れてしまったようだ。


「回復魔法は負傷者の肉体に魔力を送り込み治療する術だ。便利だが同時に危険性もある。人間が体内に貯蓄出来る魔力量には限度があり、回復魔法によって体内の魔力量が増加した結果、かえって肉体に悪影響を与えてしまうことがある」


 魔力は人間の体内で常に生成される。使われなくなった魔力はその日の終わりに消滅し、また新たな魔力が生成される。体内に貯蓄される魔力量には個人差が大きいが、魔力の体内循環の仕組みはみんな同じである。

 そして体内の魔力量が限度量を超えると様々な症状が引き起こされる。


「緊急性が高い場合は別だが、傷は本来の医療技術で治癒するのが最も安全だ」


 と説明をしてみたが彼はまだ不満そうだ。


「俺、一年前に都市に行って見たんですよ。高ランクの冒険者や王都の騎士団の人たちは、ケガついたらバンバン回復魔法を使って傷を治していましたよ」


「彼らは元々の魔力貯蓄量が多いんだ。それと回復魔法を受ける際、自身の魔力量を調節して、魔力過多にならないようにしている。回復魔法は使う側だけでなく、使われる側にも相応の技術が求められる。不満があるなら君も鍛錬するべきだな」


「む。訓練ならいつもしていますよ」


「知っているとも。子供の頃から一流の冒険者になりたいと言って、木刀を振っているのを見ていたからな」


「そうです。ずっとです!……」


 そこで彼は言いよどんで不思議そうな目で私を見てきた。


「ん? どうした?」


「ギレイさんは全然変わらないですよね。アナタが村に来て、もう七年になるのに」


 彼の言う通りだ。

 私が村に来てから七年が経過していた。

 人造人間である私に外見上の変化はない。いずれ耐用年数を超えれば動かなくなるので死にはするし、中身の劣化は起きるものの、外見上の変化は見られないだろう。


「……子供と違って、大人はあんまり変わらないものだ」


 と私は誤魔化した。


 日が暮れたので私は診療所を後にする。急患や入院が必要な患者がいる場合は泊まり込む時もあるが今日は普通に帰れそうだった。

 道すがら村の景色を眺める。

 私が村にやって来てから七年経った。村の状況も少しは変わった。

 平和になった影響を受けて、少しずつだが生活は豊かになっていく。住民が増えたことにより新たなに住居も建設され道も舗装された。決して楽な生活ではないが、村人の生活には少しずつ余裕もうまれてきている。

 七年の月日は充分に長い。人も景色も変わっていく。

 私は家に到着し扉を開ける。


「おかえりなさい!」


 既に帰っていたミシェンが迎えにきた。


「お仕事お疲れ様でした。今日は私がご飯作ったんですよ」


 とミシェンは言う。

 彼女は成長し7歳になった。背丈も大きくなり今では簡単な料理なら一人で作られるようになった。一人で留守番もできるし家事も率先して行うようになった。

 あんなに小さかった赤子がここまで変わるのか、と。

 年月経過による人間の変化も知識として知っていたつもりでも、実際に見ると圧倒されてしまう。


「ああ。ありがとう。ただいま、ミシェン」


 私は着替えて手を洗った後、テーブルに座り、ミシェンと友に食卓を囲む。

 彼女が作った料理を口に運ぶ。味については私が作った方が質は上だろうが、確実にミシェンの料理の方が『美味い』と感じる。

 料理を食べながらミシェンは今日あった出来事を楽しそうに話す。彼女は村の学び舎に通っているので、話の内容は主にそこで起こったことだ。今日は算数の試験があったそうだが彼女は満点をとったらしい。

 彼女は学ぶことに貪欲だ。読書も好み、既に学び舎にある本は読破してしまったそうだ。学び舎の教師に「私も彼女の学ぶ姿勢は見習いたいものだ」と言わせるほどだ。

 そんな彼女が最近特に熱心に学んでいることがある。

 食事を終えた後、彼女は遠慮がちに私に尋ねてきた。


「あのギレイ……。今日お仕事で疲れていなかったらですけど……良かったらまた『魔法』について教えてください」


 彼女の申し出に私は頷く。


「昨日、約束したからな。大丈夫だ。魔法について勉強しようか」


 彼女には魔法の才能があった。

 もともと彼女は魔法に興味もあり、私も彼女に魔法を教えることにしたのだ。

 そして彼女に魔法を教えるキッカケはもう一つある。

 彼女は生まれながらにして体内の魔力量が多い。人類の平均魔力量を既に上回っているし、この先も更に魔力量は増えていくだろう。人類史に名を残す英雄や魔法使いにも引けを取らないかもしれない。

 今後のためにも魔力のコントロールを、力の正しい扱い方を教えなければならない。

 ……力の正しい使い方を魔物の私が教えるというのも皮肉な話ではある、とは思う。


明日は投稿お休みします。

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