第32話 人類滅亡の真相②
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よろしくお願いします。
ギレイはふと、魔王軍でかつて行われていた研究を思い出した。
小さな瓶に敷き詰められた砂がある。
砂の正体は魔法によって肉体を変化させられた人間であり、更に未だ生命活動は続いている。
では、ソレはまだ人間なのだろうか?
――当時のギレイは、ソレを人間だと思うことはできなかった。
中には『未だ生きているのであれば人間だ』という意見もあるだろう。
何をもって、人間だと認識しているのか?
◇◇◇◇
「『魔神』は人間をどう定義しているのか? 魔族達は自らの神についての研究を深めていった」
魔王は魔族達の研究を語り始める。
――自分たちの神の解釈と再定義、という研究が魔族の中で進められた。
その研究を進める中で魔族達は一つの結論に至ったらしい。
「魔神は魔族に使命を任せるまでは、この世界に顕現していた。魔神が滅ぼしたいのは、その時代の人間だと、魔族達は結論付けた。魔力を手に入れて進化していく人間は、魔神にとっての人間とは異なってきている」
魔力はもともと魔族から人にもたらされたものだ。
本来の――純粋な人間は魔力を持たない生物だったはずだ。
「人類の歴史には常に争いがあった。その争い……生存競争の中で、人類が持つ魔力量は時代を重ねるごとに増えていった。
その果てに人類が行き着く『変化』。人間は自分の持つ魔力量をコントロールすることができず、全く別の種へと変化する、と魔族達は予測したんだ」
変化。ギレイにとっても覚えのある言葉だ。
エルド国で目撃した、大量の魔力を注入されて肉体が変質した実験体。
――あの姿は人間だと言えるのだろうか?
ギレイは思わず口を開く。
「……それは進化だと言えるのではないのですか? 人という種は途絶えることなく、存続している」
魔王もギレイを見て答えた。
少し困ったような笑みを浮かべて。
「変化か、進化か。もしくは滅びか。それは観測する視点で変わるんだ、と思う。
少なくとも魔神は『滅び』だと解釈した。いずれ来る人類の変化を、魔神は『人類の滅び』だと認識するのだと魔族達は確信を持っていた」
そして魔族は計画を立てた。
人類を滅ぼす作戦――これは文字通り、人類という種を物理的に根絶やしにする作戦を進めつつ――平行して人類の進化を促す作戦を進めていった。
「定期的に魔物を人類の脅威として出現させ、人類の闘争を促す。裏では人類に魔法に関する知識や武器を与えて、より魔力に依存する戦闘方法を人類にとらせていった。
魔族の狙い通り、人類はより一層強くなっていた。人が持つ魔力量は時代を重ねるごとに増加していって――いずれ臨界点がくる」
魔力の貯蔵の限界点。
人間が元々持つ『魂』が魔力の容れ物となる。
魂の大きさを魔力が超える日。
「約1000年後。新たに生まれる人類は、生まれ持った魔力量をコントロールできずに生まれてくる。そして――別の種へと変化する。
全く、別の。生き物になるんだ」
別の生き物になる。
――進化ではなく、異質な生物へと変わる。
「それがどんなカタチになるかは分からない。ただ、それは魔神にとっては『人類の滅び』だったらしいね」
魔王は背後を振り返って、広間の奥にある柱を指さす。
柱には巨大な一つ目が埋め込まれていた。
その目のまぶたは深く閉じられている。
「あれは『魔神の目』と呼ばれている。遠い未来をのぞき込み、人類が滅ぶのかどうかを見通す魔神の目。あれが閉じられたのは、人類の滅亡が確実になったことを指している――魔神にとってのね」
「……本当に人類の滅亡が起きる、ということなのでしょうか?」
魔王は首を振った。
「少なくとも。魔神がそう判断した、ということが重要なんだ。魔族(彼ら)にとってはね。魔神の目が閉じられた瞬間、魔族達は長年の使命から解放されて自由になった。
その瞬間をずっと彼らは待ち望んでいたんだ。自由になった瞬間に、予め用意していた手段で別の世界へと旅立った」
仮に、と魔王は話を続ける。
「仮に――1000年後の人類の滅びが回避されたとしても、問題はない。魔族(自分たち)たちはこの世界にはいない。魔神はまた別の兵士を生み出し、その兵士に使命を負わせることになる」
語り終えて、魔王は力なく笑った。
「――以上が『人類滅亡の真相』だよ。この先に人類がどう変わるかは僕にも分からない――さて、ギレイ。君はどうする?」
その問いにギレイは答えることができなかった。




