第31話 人類滅亡の真相①
よろしくお願いします。
ギレイと魔王はテーブルを挟んで椅子に座った。
向かい合わせのまま魔王はギレイに語り始めた。
人類が約1000年後に滅ぶことが確定した、その真相について。
「人類は何故、滅んだのか。その始まりは『人類の滅び』を望む存在がいたことだ。
人間を造った神を憎み、神の創造物である人間を滅ぼそうとする、もう一対の神『魔神』がいた。魔神は人間を滅ぼすための兵士として『魔族』を生み出した。
魔族は人類を滅ぼす使命を魔神から与えられた生命体で、その使命に一生を縛られる――僕たち魔物と同様にね」
魔王は少しだけ自嘲的に笑う。
「そして人間と魔族の戦争が始まった。しかし人と魔族の戦力差は比べるまでもない。魔族には人にはない力があった」
魔力、と魔王は続ける。
「魔法と呼ばれる超常現象を起こせる力。魔法を用いて、魔族は人間を蹂躙していった。人間は為す術もなく、彼らに出来るのは自らの神に祈ることだけ。
けれど、その祈りもなかなかバカにならなかったのか……人間の窮地に必ずといっても天変地異……大嵐や火山の噴火といった現象が起きて魔族を退けた」
人間を滅ぼそうとすると、その滅びに抗うような現象が度々起きていた。
魔王軍の研究所では『対の理』とも呼ばれる、まるで見えない力によって滅びが回避される現象。
「それでも人間は弱く、暴力に抗う力も持たない種族だと殆どの魔族は思っていた。いずれ滅ぼせると魔族は考えていた。
殆どの魔族は人間をどうとも思っていなかったんだ。
魔神から命じられたから滅ぼさなければならない、それ以上の感情を持っていない。
少しだけしぶとい害虫くらいにしか見ていなかった。
――ただ一体を除いて」
例外的な魔族が一体いた、と彼女は語る。
「その魔族は――『彼』は一人の人間を愛してしまった……そう、愛。
魔族に愛情なんて概念はなかったはずだけど、彼は人間を見る内に、人が愛情と呼ぶ感情を手に入れたいと願うようになった。
そして、一人の人間に同情し、愛するに至ったんだ」
魔王はふぅと溜息をついて、頬杖をつく。
「でも人間は脆弱で、すぐに死んでしまう。
――それに耐えられず、彼は愛する人間が『自分と同じモノ』になることを望んだ」
「……だから人間に魔力を与えた」
思わずギレイは口を挟んでしまった。
ギレイの言葉に魔王は頷く。
「うん。魔族が人間に魔力を与えた、とはこの事実を指す。
かくして人間は魔力を得て、魔法を扱えるようになった。魔法を唱えるための言語、人は『古代語』と呼ばれる言葉も彼が教えた」
「……私たち魔物は普段『古代語』で会話します。古代語は魔族が起源の言語だった、ということですね」
「彼はきっと、人間と同じことを沢山共有したかったのかもれしない。と僕は思うね」
「共有、ですか?」
「表現や思考……想いとかそういうのをさ、分かち合いたいと思ったんじゃないかって。僕はそう思うよ。愛した人間に自分と同じような目線を持って欲しかった。
もっとも彼は逆賊として魔族に処刑されて、彼の残した記録も殆ど処分された。彼の気持ちはもう分からないさ」
魔王は目を細めて、静かに語った。
「私には……いや、少し分かる気もします」
「そうかい。君も少し変わったね。実に人間らしくなった……もちろん、褒めているよ」
と魔王はにこりと笑う。
「話を戻そうか。人間は魔力を持ち、魔族と対抗する力を手に入れた。戦況は一変し、魔族も人間に倒される事態も起き始めた。
更には『彼』の思想に毒されたのか――人間を愛する魔族も増え始めていった。魔族が人間に向ける愛情の種類は様々だったが、人間に敵対しなくなった魔族が増え始めていったことは間違いない。
事態を重く見た魔族は、自分たちの代わりになる兵士を生み出した。それが何かは分かるよね?」
「私たち――魔物」
「うん。魔物(僕たち)が生み出された。
『彼』のような状況を生み出さないために、僕たちは最初から『人類への憎悪』を感情に組み込まれていた。明確に人間に敵対する生物――魔族の代替品として」
彼女の表情にはもう笑顔が浮かんでいなかった。
ギレイも目を直視せず、テーブルを見つめている。
「ですが『龍』ラグナ公のように、人類への憎悪を持たない個体も存在します。彼らは?」
「『龍』のような人類を憎まない個体は例外。その『龍』だって人類を滅ぼすために造られたに過ぎない。彼は地域によっては神として崇められる存在として、地上に派遣された。
人は龍に生け贄を差し出すことで、龍から力を授けられた。
人類の文化に『少数を切り捨て、多数を生き残らせる』という価値観を浸透させるための試行兵器に過ぎないんだ」
そこで魔王は額に手を当て、
「ごめん……」
と、魔王は急に謝罪の言葉を口にした。
魔王はかぶりを振って話を続ける。
「ラグナを……仲間をこんな風に言いたいわけじゃないんだ。彼に失礼なことを言ってしまった……」
「大丈夫です。分かっています」
とギレイは言う。
彼女が仲間を見下したり、蔑ろにすることはないとギレイは分かっていた。
彼女のお陰で自分を始めとした多くの魔物は居場所を得ることができた。
魔物の未来を誰よりも案じているのは彼女だと、魔物たちは知っている。
「……ありがとう。うん……話を続けよう。
僕たち魔物が生み出されても尚、戦況は変わらなかった。人間を滅ぼすことはできず、むしろ人間に敗北することも多くなっていった。人間が保有する魔力量は年々増加していったからだ。かといって僕たち魔物が滅ぶこともなかった。魔族がいる限り、僕たちは造られる。
長い、長い膠着状態が続くことになる。その膠着状態に魔族は耐えがたい苦痛を味わうことになったんだ」
「苦痛?」
「『退屈』だよ。ただ生きているだけ、という無限に続く生の苦しみ。
『彼』の一件以降、魔族達は人間との直接的な戦闘は魔物に任せて、別空間――魔族達の住処に雲隠れした。人と関わることを禁忌として、ただひたすらに人間を滅ぼす計画を練ることに専念するようになったんだ。しかし、いくらやっても人類を滅ぼすことができない。
魔族の活動限界は1万年ほどだけれど、その間、ただ虚無にまみれて生きることになった。
――ギレイ。彼らはね。僕らと似ている点がある。彼らも自分たちに課された『人類を滅ぼす』使命に縛られ続けていた。その使命を果たさない限り、決して自由になれない。この世界から逃れることすらできなかった」
長く続く退屈な生に、魔族達は耐えきれなくなっていた。
……ゆえに退屈しのぎを求めていたのだろう、とギレイは思う。
ギレイ達、人造人間の多くは魔族の退屈しのぎに使われていた。
(……私が生まれた理由は……そんなものか)
魔王は溜息をつく。ただ話しているだけなのに、随分と疲れている様子だった。
「魔族は自分たちの使命から解放されたかった。しかし、人間は強くなり、殺し尽くすことは難しい。彼らは別の方法を模索するようになった。
魔神は『人類の滅亡』を望んでいたが、その滅亡の達成条件を考えるようになった。自分たちの神にとって、人類の滅びはどのようなものであるか、について。
そして『要は人類がいなくなれば良いのだ』と結論付けた」




