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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
二章.『人との共闘』編
25/32

第25話 冒険者と暴力

よろしくお願いします。

 

 新興都市エルドで起きた商人のキャラバンが襲撃された事件。

 犯行現場には魔物の爪や武器が残されており、犯人は魔物たちだと疑われていた。

 魔物と人の共存を望む四天王『龍』ラグナは、ギレイにこの事件の捜査を依頼した。


 ギレイはまず何故事件が起きたのか、つまりは『なぜキャラバンが襲われたのか?』について考えることにした。

 キャラバンが運んでいた貴重な商品の数々は当然の如く奪われていた。では奪った商品を犯人たちはどうするのか? 普通に考えれば換金するだろう。

 ギレイは街に潜入し、キャラバンが運んでいた商品が出回っていないかを探した。

 調べてみても盗品が――闇市などの非合法かつ売り手の情報が秘匿される市場に―――売り出された証拠は見つからなかった。ギレイ以外にも事件を調べている冒険者たちにも同様の証言があった。

まだ事件発生から日が経っていない。ほとぼりが冷めてから盗品が売り出される可能性はある。

 ただ時間が経てば立つほど魔物を取り巻く状況は悪くなる。人間側からは「魔物を殲滅せよ!」という声は日に日に大きくなっていくのだ。


(……この状況こそ犯人の狙いなのではないか?)


 とギレイは思った。


 『魔物と人間の共存』を支持する人間を陥れることができる。例えば共存を唱えていた有力な商人は、今回の事件で周りからの支持を失う結果となった。他にも共存を唱えていた国の権力者達は軒並み窮地に陥っている。


 誰かを陥れる、という観点から別の推測もできる。

 陥れる相手は冒険者たちだ。襲われたキャラバンを冒険者達が護衛していたが、彼らは殺されキャラバンの商人達も殺された。護衛に当たっていた冒険者達はみな実力者ばかりだったが、護衛対象を守ることができず殺されたのだ。

 この結果から冒険者たちを非難する声が上がっている。「冒険者など所詮は正規の訓練を受けていないごろつきだ」「奴らを冒険者としての便宜を図っていたのが間違いだった」などなど。

 エルドは冒険者組合を立ち上げ彼らを重宝してきた国だ。だが冒険者を好遇しすぎではないかと疑問の声が国内では上がっていた。

 そんな時期に冒険者が依頼に失敗するという事件が起きたのだ。

 冒険者の評判を落とす、そのお陰で得をする人物は沢山いる。その中に犯人がいるのかもしれない。


「――そこまでは俺たちも推理していたぜ!」


 数日後。ギレイはエルドの都市にある宿屋にいた。村にあるような簡素な宿屋ではなく、王国の貴族が利用するような宿屋で、部屋の大きさも調度品の豪華さも比べものにならない。

 部屋の中でギレイはある冒険者と向かい合っていた。

 大柄の赤髪の男だ。右目は眼帯を身につけている。

 名はグラン。

 冒険者のトップに位置する実力者である。

 彼のギルドと四天王『龍』のコロニーは交流を開始していたのだが、件の事件によって、その交流は一度中止になっていた。グランは『龍』と秘密裏に協力して事件の捜査を行っていた。

 ギレイは事件の推理を彼と共有するためにやってきた。


 ちなみにギレイは仮面をかぶっている。両目の所に切れ目があるだけの白いお面。

 いちおう正体を隠すためだ。

 名前もグレンには明かしていない。龍の部下の人造人間、ということにしている。

 

 グランは溜息をついて酒をあおる。


「しかしな。犯人の候補が多すぎる上に、どいつもこいつも権力者のゴミカスばかりだ。探るのも簡単じゃねぇんだわ。アイツらは自分の縄張りに触れられるのを極端に嫌がるからな……自分達は好き勝手に法律を破ってやがるのによ。

 そんでもって権力者同士もお互いを牽制しちまっているから、私兵を使った小競り合いも起きてやがる。アイツらは金とヒマだけはあるから。

 俺たちが迂闊に触れれば余計に被害が出ちまう、と手をこまねいている状況なワケよ。

 しかも状況は更に悪くなった」


 グランは「くそが」と吐き捨てて酒を更にあおる。

 

 ほんの一週間前だ。

 小さな村が突如として壊滅的な状況に陥る事件が起きた。

 村は何者かに襲撃され、村人の殆どは殺された。

 生き残った者は「魔物に襲われた」と証言した。家は焼かれ畑は荒らされ、人が大勢死んだ。更には多くの人間が行方不明になった。

 同時期に()()の小さな集落も同様な状況になった。多くの魔物が殺され、同じ位の数の魔物の行方が分からずにいる。集落を襲ったのは人間の集団らしい、と生き残った魔物は証言した。

 状況は一気に悪化した。

 疑心暗鬼になった者達が既に争い始めている。憶測で犯人を決めつけ、至る所で抗争が発生している状況だ。


 グランはギレイを見て、言う。


「正直、俺らは頭悪いんで色々お手上げなんだわ。アンタはどうだ?」


「……恐らく時間はかかるが、犯人は突き止められると思う」


「マジかよ!?」


 グランは身を起こしてギレイを見つめる。


 ギレイは頷いて自分の推理を語る。

 今回発生した事件を受けて、推理の方針を変えて改めて調査をした。


「最初に起きたキャラバンの襲撃。キャラバンが襲撃されることで利益を得る者と、逆に不利益を被る者が多くいた。犯人はその中にいる者だと当たりを付けていたが――寧ろ犯人はその中にいない、無関係の者達だったのではないかと私は考えた。

 本当の狙いは今回起きた二つの事件。特に人間と魔物を誘拐することにあったと考えている」


「じゃあ最初に起きた事件は何だってんだ?」


「おそらく捜査の攪乱が目的だろう。あのキャラバンには多くの集団の思惑が絡んでいた。各々が犯人を推理し疑う状況が生まれた。

 そして二つ目の事件で疑惑に火が付き、今のように各地で抗争が起きる状況となった。真犯人はただ隠れているだけでいい」


 魔王軍の作戦としてもよくある手だった。

 目的達成のために、あえて最初に無関係な事件を引き起こす。次に本命の事件を引き起こす。周りの人間は一つ目の事件と二つ目の事件を関連付けて、犯人もその関係者だと推理する。

 四天王『獣』がよく使っていた手だ。『人間は放っておいても勝手に争ってくれる』と獣はギレイに語ったことがある。


 グランは顎に手を当てて、「ううん?」と唸る。


「話は分かるけどよ。それじゃ犯人をどうやって見つける? 手がかりは何もないじゃねぇか?」


「キャラバン襲撃と少しでも関係のある事業や団体を除いていった。更に『二つの襲撃事件を引き起こすことが可能な能力を持つ集団』という条件で絞り込んだ。構成員や地理といった条件も含めてな」


 結果として怪しい施設を数カ所まで絞り込むことに成功した。

 怪しい箇所をマーキングした地図をギレイは広げる。


「だが怪しい施設は各地に散らばっていて数もまだ多い。人手が必要だ。しかも捜査となれば危険もある。出来れば荒事になれた人間に頼みたい」


「なーるほどな」


 とグランは酒を飲み干した。かなりの量を飲んでいるはずだが酔った様子はない。


「それじゃあ俺たち冒険者の出番だな。ヒマな奴らを集めて人界戦術で当たればいい!」


「……お願いできるか?」


 グランはがははと笑った。


「もちろん。俺たちの方からお願いしたいくらいだっ。冒険者は『社会貢献』できる機会に飢えているんだ。ただ悲しいことに、良いことをしたいが提供できる手段が暴力しかない奴らばっかりでな。分かりやすく人の役に立てる仕事は大好きだ」


「……そうか。助かる」


 お礼を言うギレイを見て、グランはぎゃははと笑う。


「そう畏まるなよ。俺の方からもよろしく頼むぜ、『先生』」


 ギレイもグランを見て頷いた。


 ――こうして冒険者の協力を得た後、ギレイ達は怪しい施設を片っ端に当たっていった。

 調査の中で幾つかの衝突――主に冒険者達による暴力事件が発生はしたものの――最終的に犯人と思われる集団の隠れ家を突き止めるに至った。

 

 エルドの東側にある街に『魔力変異観測所』という古い研究施設があった。魔力に関する研究を行う施設だが、ここ数年でめぼしい研究成果がなく、国からも支援が打ち切られている。

 新興国家エルドでは利益を生み出さない事業は注目されない。研究所の立地条件も悪く、研究施設の設備は旧式のものなので買収する利点もない。注目度はゼロに等しい。

 しかし、まだこの研究所は活動を続けていた。しかも調べれば一ヶ月前に新たな職員を受け入れている。

 張り込みをした冒険者の報告によると、研究所に運び込まれる食料の数が、研究所に所属する人間の数より遙かに多いらしい。

 また街の住民の聞き込みから、二つ目の事件――人間と魔物の誘拐事件があった翌日――何台もの荷台をひいた馬車が研究所の中へと入っていたことが分かった。


 まだ確証はない。

 だから、こっそり忍び込んで調べてみよう、という話になった。

 白だったらこっそり戻ってくれば良いという話にもなった。

 

 ――真夜中。『魔力変異観測所』に忍び込む二人の影があった。

 その二人は静かに研究所内に潜入し、下の階、更に下の階へと降りていった。

 一番下の階層の廊下に封鎖されていた扉があり、小柄の人物の方が扉を解錠する。

 扉には魔法による結界が施されていたが、小柄の人物――ギレイは魔法で難なく結界を解除した。

 更に地下へと足を踏み入れる。

 そこには広い地下通路が広がっていた。地面は舗装されておらず、土の通路には何か大きなモノを引きずった跡も残っている。

 少し進むと、別の足跡が近づいてくる。


「当たりかぁ?」


 もう一人の人物――グランは立ち止まる。


「……そうだな」


 とギレイは頷く。

 ギレイ達の目の前から大きな物体がゆっくりと近づいてきた。

 暗闇から徐々にその輪郭が明らかになる。

 人に似た形をしているが、人間の大人よりも一回りも二回りも大きい。土色の装甲で覆われた人型の兵器。

 石や土で造り上げられた巨大な人型の化け物『ゴーレム』。

 意思と命を持たず、創造主の命令に忠実に従う兵器。

 

 ――つまりは壊すことに躊躇はいらない。


「……エルドでは認可のないゴーレム製造は禁止されている。これだけでも充分に罪に問える」


 ギレイは背後を振り向く。

 同型のゴーレムが背後からもやってきた。

 グランはがはは、と笑う。


「そんなん気にするのか、真面目だな!」


 グランは前のゴーレムに向き合う。


 ギレイもまた目の前の敵に視線を合わせた。



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