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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
二章.『人との共闘』編
24/32

第24話 渦中


 四天王『龍』ラグナは人造人間ギレイに語りはじめた。


「10年前。人類の滅亡が確定したことにより、全ての魔物から『人類への憎悪』は取り除かれた。そして魔物の中には人間と交流する者も出てきたは知っておるかの?

 我が輩とリザードマンたちはそういった魔物の手助けをしてきたのだよ。

 我が輩の血を引く『リザードマン』たちの多くは最初から人類への憎悪を抱いておらなかったから、はるか昔から人類と共存してきた。彼らの手本となることができた。

 そして人と魔物が共存する、この街が出来たのだ」


 ギレイは街で見た人間たちの姿を思い出した。魔物と比べると数は少なかったが確かに人が街に住み、生活を営んでいた。


「この街に住む人間の中には人間社会での居場所を失った者も多いのだ。そういった者達を我が輩たちは受け入れている。我が輩たちの街に影響を受けて、他にも人間と魔物が共存する集落もできはじめたのだ」


 魔物と人が共存する共同体が他にもあるのか、とギレイは驚く。


「我が輩たちも交流の範囲を広げていった。人間の商人との交易も始めた。商人たちは護衛に冒険者を雇い、彼らとも親睦を深めていったのだ。

 交流は順調だったのだが――今は問題が生じてしまっておる」


――ある日。商人のキャラバンが移動中に襲撃にあったそうだ。

 

商人と護衛の冒険者は全て殺され商品は奪い去られていた。

 そして襲撃現場には襲撃の犯人が魔物であるという証拠が残されていた。『レッドウルフ』の爪。『コボルト』の毛。『リザードマン』の武器である槍。


「襲撃の犯人は魔物。人間と交流してきた魔物達の中にいると嫌疑がかけられておる。しかし彼らは潔白だと信じておる」


「……根拠を伺ってもよいでしょうか?」


 なぜ断言できるのか疑問に思い、ギレイはラグナに質問した。

 ラグナは頷いてギレイの問いに答える。


「魔物にとって商品は襲ってまで奪う価値は『まだ』ないからのう。取引の商品の多くは嗜好品――美味な食品や豪華な衣服といったものだ。それらの価値を魔物達は自分たちの文化に取り込み始めたばかりだからの。彼らの商品の価値を正しく理解できてはおらん。その価値を受け入れている最中にすぎないのだ。襲ってまで手に入れる利点はありはせんよ」


 商人と取引する品物は嗜好品に分類されるものだった。

 人間はキャラバンから食品や医薬品といった物資も取引するが魔物には必要が無い。取引するのは確かに嗜好品が重荷なるだろうが、それら嗜好品を好む文化も魔物にはまだない。

 しかし現状はキャラバンを襲撃したのは魔物達だと疑われている。


「都市の方では我が輩たちを根絶やしにせよ、という声が日に日に大きくなっていると聞く。せっかく始まった冒険者たちとの交流も途絶えようとしている。ゆゆしき事態だ」


 ラグナはギレイを見て告げた。


「ギレイよ。お主は人造人間であるし、何より人間社会への造詣も深い。都市に潜入し犯人を見つけて欲しいのだ。我が輩たちの嫌疑を晴らして、再び人間たちと交流を図れるよう動いて欲しい」


 それが四天王『龍』ラグナがギレイに課す依頼だった。

 

「もちろんタダとは言わん。可能な限り、お主の望みを叶えてやるぞ」


 とラグナは言った。

 ハッタリではないだろう、とギレイは思う。

 ラグナは時代によっては『神』として崇められたこともある魔物だ。人間やギレイのような矮小な存在が思いつく望みを叶えるなど造作もないだろう。

 ギレイは自分の望みを口にする。


「……私は人類滅亡の詳細を知りたいのです。その知識を学ぶ許可がほしい」


 それがギレイの望みだった。

 人類滅亡を防ぐために、まず『何を持って滅ぶのか?』を知らなければならない。

 ギレイの望みを聞いてラグナは目を細め――一瞬の間のあと、ラグナは頷く。


「良いとも。我が輩から魔王様にかけあおう」


 これで取引は成立した。

 

――ギレイは早速、調査を開始することにした。



できれば明日も投稿したいです。

ありがとうございました。

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