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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
二章.『人との共闘』編
23/32

第23話 四天王『龍』

【】は古代語という設定です。

よろしくお願いします。

 

 新興国家エルド。三大国家の一つであり他二つと比較すると歴史が浅い。

 しかし、その影響力の大きさから三大国家に挙げられるようになった。

 豊富な資源と、それによる産業は大きく発展してきた国だ。また世界でも最大の港を持ち貿易業で世界中と交流を持っている。

 国の至る所に成り上がりの機会が転がっている。実際に一旗揚げようと移住する人間が後を絶たず人口も増え続けていく。そして様々な人間によって新しい共同体が形成されていった。その共同体の数はエルドの中央政府も把握していないのでは、と噂されるほどだった。

 人造人間ギレイが足を踏み入れたのも、そういった共同体の一つだった。

 

 ――人類滅亡の真相を知るため、その足がかりとしてギレイは四天王『(ドラゴン)』の招待を受けた。『龍』からの依頼を達成することで人類滅亡の真相を知ることができる。


 人間の娘ミシェンと共に10年間を過ごした村を離れて、遠く離れたエルドの領土へと足を踏み入れた。

 一か月半の長旅の末、目的の場所へとギレイはたどり着いた。

場所はエルドの山脈地帯。人里離れた場所にあった。

 霧が深く立ちこめ、魔法による人払いの結界も張り巡らされている。普通の人間は見つけることすら困難な場所にその町はあった。

 ギレイは町の入り口に立つ。入り口の周囲は石で出来た防壁があり、入り口の中央には門番も立っていた。

 小型の魔物。『ゴブリン』だ。二体のゴブリンが町の入り口を守っていた。手に棍棒を持っている。

 一匹のゴブリンが私の姿に気づいて近づいてきた。


「【お前。人間、ではない。何者?】」


 ゴブリンは古代語で話しかけてきた。

 魔物の多くは古代語を用いて会話するのだ。

 ギレイも同じく古代語で返す。


「【私はお前たちと同じ。魔物。人造人間だ。敵意はない。四天王『龍』――ラグナ公の招待を受けてやってきた】」


 ギレイは招待を受けたことを証明するために魔法を発動する。招待を受けたとき、私は『龍』から彼の魔力も受け取っていた。その魔力を使い火の魔法を発動する。

 複雑に入り組んだ幾何学的な文様が浮かび上がる。

 ゴブリンたちは文様を見て頷いた。


「【――確かに。ラグナ公の魔力。そして彼の文様。確認した】」


 ゴブリンの一匹が小石を拾い上げてブツブツと呪文を呟く。

 小石は緑色に輝いて門の中へと飛んでいった。


「【迎え。すぐ来る】」


 あの小石は迎えを呼びに行ったらしい。

 ゴブリンの言う通り直ぐに別の魔物がやってきた。

 二本の足と二本の手。体躯そのものは人間に近く、人間の兵士のように鎧を纏っている。しかし鎧から覗く皮膚は緑色のうろこに覆われていた。尻の方には立派な尻尾も生えている。顔は蛇に似ていて黄色い目が私を見ていた。

 『リザードマン』だ。

 そのリザードマンは私の前に立ち止まり一礼した。


「【――待っていたぞ。人造人間。ギレイと呼んだ方が良いか?】」


 ギレイも一礼する。


「【お好きにお呼びください】」


 リザードマンは私をじっくりと眺めた後、笑った。


「【ならばギレイと呼ぼう。私にも名前がある。私のことは『ラーシュラ』と呼べ】」


 ラーシュラと名乗ったリザードマンはギレイを町の中へと招き入れた。

 町、と『龍』は自分の領土を呼称したが、確かにギレイが住んでいる村と比べても明らかに規模が大きかった。立派な石作りの建物が建ち並び歩道も整備されている。

 通りには露天も開かれており様々な魔物がいた。

 赤い毛皮を持つ狼『レッドウルフ』は鎧を身につけ通りを巡回していた。人の肉体に獣の顔を持つ『コボルト』は露店を構えて客と談笑していた。その隣では小型の『グレムリン』が何やら機材を弄っていた。

 石で生成された『ゴーレム』も数体いて荷台を引いていた。

 黒いフードをかぶった魔物もいた。フードからは蛸に似た職種が生えている。海に由来する魔物――『半魚人マーマン』かもしれない。

 そして、隣に立つ種族を見てギレイは驚いた。

 人間もいたのだ。

 魔物の血を引いているようには見えない。魔物の力を持っている『魔物憑き』でもない。混じりけの無い人間が町には住んでいた。

 彼らは客として露店に並び、店主のコボルトと談笑している。

 人間は住民として受け入れられているようだった。


「驚いたか?」


 人間と魔物が会話している光景を見て、ラーシュラは言った。


「……ええ。驚きました」


 ギレイは頷いた。

 人間と魔物が共存している光景にとても驚いた。

 そしてラーシュラが古代語ではなく中央語――人間が使用する言語を使ったことに。

 中央語は王国を始めとする『中央大陸』に位置する多くの国家で用いられている言語だ。しかし魔物の殆どは古代語で会話する。中央語なんて潜入といった目的でしか魔物は学ぶ機会がない。


「四天王『龍』ラグナ公によって、この町では中央語の使用が推奨されている。儂らの『リザードマン』以外はまだまだ上手に中央語は使えないが」


 とラーシュラは流暢に中央語を話す。


「貴方は随分と中央語を上手に話されますね」


 と私が言うとラーシュラはカカカと笑った。


「儂らにとっては中央語の方が馴染みやすい。リザードマンは四天王『龍』に連なる一族であり、『人間への憎悪』を持たず生まれてきた。はるか昔から人間と交流してきたからな」


 話には聞いていた。

 元々『龍』は例外として人間への憎悪を持っていない。そして彼に連なる魔物もまた人類への憎悪を持たず生まれてきた、と。


「まぁ。だからといって儂らが魔物であることに変わりは無い。常に人間と友好的とはいかなかった。今も一見は共存出来て折るように見えるが問題は山積みよ。ラグナ公はその問題を解決して欲しくてお主を呼んだんじゃ」


 ギレイは町の中央にある立派な建物に案内された。王族の宮殿と言われても信じてしまいそうな、広く大きな屋敷だった。

 中に入り奥へと進む。

 巨大な扉の前まで案内された。扉の両脇にはリザードマンが門番として立っている。

 私が扉の前に立つと扉は自動的に開いた。ラーシュラに進むよう促されたので、私は部屋へと足を踏み入れた。

 部屋に入ると扉は閉まった。

 大きな部屋だった……というより壁が見えない。左右には壁がなく、上にも天上が見当たらない。真っ白な巨大な空間が広がっていた。

 魔法による作られた空間なのだろう。

 その巨大な空間を埋め尽くすのではないかと錯覚するほどに大きな生き物がいた。

 蛇に似た細く長い体躯。体は真っ赤な鱗に覆われている。翼もないのに宙に浮いていて、躯はとぐろを巻いている。トカゲに似た顔は白く同じように鱗に覆われている。鼻の下には白くて長い髭が生えている。そして黒色の二本の角が頭には生えていた。

 太古から存在する魔物。様々な名前を持ち、その姿は多くの伝承に語り継がれている。

 時には人に恵みをもたらす神として。別の書物では『災害』をまき散らす魔物として。

 四天王『龍』。魔物からはラグナと呼称されている。


 ラグナの顔の前には一冊の書物が浮いていた。『彼』は目を細めながら、その本を読んでいるようだった。本は自動的にパラパラとページがめくられる。


「――お主は詩を嗜むかね?」


 とラグナは言葉を発した。古代語ではなく人間が扱う中央語だった。


「……いえ。あまり詩は読みません。言葉の統制された配列を美しいとは思うことはありますが、内容については理解できないことが多いです」


 とギレイは正直に答える。

 ラグナは唸り、話を続けた。


「詩は良いぞ。いや詩に限らず、人の手によってできた創作物はどれも素晴らしい。我が輩達にとって、彼らを理解するのに最上の友と言えよう。

 人の感情が込められた文章に触れることで、『自分以外の他者がこの世界にいるのだ』と我が輩達は知ることができる。

 我が輩が始めて詩に触れたのはもう何千年も前のことではあるが……始めて触れたときの名状しがたい喜びは未だに覚えておる」


「喜び、ですか」


「ああ。そのときに読んだのは、はるか昔の――もう忘れ去られた時代の詩だ。しかし、そこに込められた喜びや悲しみには我が輩にも覚えのあるものだった。

 彼らは我が輩と同じモノを見たのかもしれない。そして我が輩も彼らと同じモノを見ているのかもしれないと想像すると不思議と嬉しくなる。孤独が癒えるのだ。だから詩にしろ、本は良いぞ」


「今度、読んでみます」


 社交辞令ではなく本心からギレイは言った。

 龍はギレイの答えに満足したようで小さく頷いた。

 本は自動的にパタンと閉じる。


「――人造人間ギレイ。よく来てくれた。我が輩は四天王『龍』。通り名は多くあるが今はラグナで通しておる。

 お主の力を借りたいのだ。

 我が輩の配下である魔物達と人間の仲を取り持って欲しい」


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