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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
一章.『人との共存』編
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第2話 人間の子供と共に暮らすことになった

よろしくお願いします。


 私は赤子を助けることにした。

 では『赤子を助ける』とはどのような状況を言うのかを考える必要があった。この赤子に必要なモノを与えなければならない。

 最初に念頭に置くべきは――この赤子は人間で私は魔王軍の魔物であるということだ。一時的に私と行動を共にするだけならともかく、長期的に一緒にいることは様々な問題が生じる。

 人間は人間の社会に所属するのが適切であろう。

 赤子には適切な居場所を提供しなければならない。


 私は赤子を連れ人間の集落を目指すことにした。


 私が旅をしていたのは人間の王国の外れ。辺境の地といっても差し支えがない場所だった。私がたどり着いた街も小さいもので、さらに寂れてもいて全体的に余裕がなさそうだった。

 街の中でも目立つ白い建物を見つけた。教会である。

 教会に赤子を預けよう、と教会の扉をたたく。

 中からは子供の賑やかな声がしていたので……まさか()()()()とは思わなかった。

 教会のシスターは申し訳なさそうに頭を下げる。教会には多くの孤児が預けられ余裕がないそうだ。赤子のミルクも与えられない、とシスターは泣きながら頭を下げた。

 私は赤子を連れて教会から離れることにした。


 私は村の宿屋に泊まることにした。比較的キレイで赤子が寝る場所としても問題ないようだった。

 私は魔王軍と魔法で通信(テレパシー)を開始する。魔王軍の調査課には既にこの赤子の素性を調べてもらっていて、その結果を聞くためだ。

 結果は芳しくなかった。まず赤子の父親は既に死んでいるという。冒険者をしていたが、ある日に酔っ払って他の冒険者とケンカになり頭を打って死んだそうだ。

 更に赤子には他に身よりもない。赤子の両親は親族からは縁を切られているそうだ。

 

「困ったな」


 通信を終え、思わずそうつぶやく。

 赤子を他の場所に預けることができない。調査課に周囲の村や町の状況も調べてもらったが、どこも似たような状況で、他人を世話する余裕がない場所ばかりだそうだ。

 王国まで行けば赤子を預けられる場所は見つかるだろうが、王国まで行くとなると長旅になる。赤子には負担が大きい上に、現在は完全に野生化した魔物たち(※)も大地をうろついているので、私も赤子を守りながら旅をする自信は無い。

 ※魔王軍の魔物たちは『人類への憎悪』を取り除かれ人類を敵視してはいないが、それはそれとして栄養補給のため人を食す魔物も多い。

 転送魔法も考えてみたがアレは身体的負荷が大きい。赤子なんて負荷に耐えきれずペシャンコになるだろう。

 …………。

 

 赤子を見る。

 助けると決めた以上、その目的が達成されるまでは面倒をみるのが筋なのだろう。


「君。運がなかったな」


 私は赤子に思わずつぶやいた。

 暫くは私が面倒をみるほかなさそうだった。


 私は調査課に連絡して、人間の世界で生活するための身分の偽装工作を依頼した。『ギレイ』というのも以前に申請した偽名をそのまま使っているだけだ。ついでに魔王軍での私の資金を人間の通貨にも換金してもらう。

 私は魔王軍の兵士から身分を変え、人間の医者ギレイと名乗ることとなった。回復魔法を使えるだけではなく、人間用の医療技術も有しているので身分に偽りはない。正規の手段で医者になっていない、というだけだ。

 後日、私は医者として村に住まわせて欲しいと村の集会所に申し出た。ただ暫くはこの赤子を育てたいので、一日の労働時間は少なくなると断りも入れた。

 怪しまれもしたが空き家を借りることに成功したのだった。


 赤子を暫く育てるに当たって問題があることに気づいた。

 この赤子の名前を私は知らないのだ。

 調査課も赤子の名前は分からないとのことだった。もしくは名付けられていないのかもしれない。

 人間には名前が必要……なのだろう。その感覚は私には分からないが。

 魔王軍の魔物もお互いを識別するために番号や固有名を持つ場合もあるが、深い意味はない。自分たちは『人類を滅ぼす』という目的を果たすための部品でしかないのだ。

 群体の中で自分という存在を確立する必要性などない。

 ……しかし赤子を助けると言った以上は、この赤子を人間扱いする必要がある。人として尊厳ある扱いをしなければならない。

 私は再び教会に行き、赤子に名前をつけてもらうことにした。

 赤子を識別するための呼び名を。


 教会から出て、両腕で抱える赤子に呼びかけてみる。


「……ミシェン」


 ミシェンと名付けられた赤子は笑ったように見えた。


問題が何も無ければ明日も投稿します。

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