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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
一章.『人との共存』編
19/32

第19話 すまない。やはり未来が欲しい。

よろしくお願いします。

 私とミシェンが再び共に暮らすようになって三ヶ月が経った。

 その日々の中でミシェンは変わった。

 彼女はより熱心に勉学に励むようになった。いや。今までも勉強は真面目にやっていたが、熱の入りかたが違う。特に魔法の上達は目を見張るものがあり、既に中級魔法もいくつか取得するに至った。中級魔法はより実践的な魔法であり、王国騎士団の魔法部隊入隊の最低条件ともされている。冒険者としても中級魔法を使える魔法使いは重宝されている。

 魔法にも限らず、一般教養から専門的な歴史学・数学・言語学……。ありとあらゆる知識を吸収している。

 更には体も鍛え始めた。村の冒険者に頼み込んで、空いている時間に稽古をしてもらっている。

 見ていて心配になるほどだ。

 しかし彼女は弱音を吐かず鍛錬を続けている。

「ギレイと一緒に生きる為に強くなりたい」と彼女は言った。今まさにそれを実戦しようとしているのだろう。

 私と一緒にいることで、どんな類いの困難に見舞われるかは分からない。ゆえに、どんな困難にも対応出来る能力を身につけようとしている。


 そういった彼女の姿勢、生き方は尊いと思う。

 愛おしいと感じる。

 いや別に彼女が何も努力していなくても、何を成さなくとも私は同じことを思うだろう。


 彼女が大切だと私は気づいた。

 

 しかし人間である以上、彼女は死ぬ。

 それに対して人造人間である私の耐用年数は長く、無理をしなければ……おそらく1500年は稼働すると思う。

 ミシェンは私より先に死んでしまう。

 …………それは。

 それは仕方が無いことだ。人はいずれ死んでしまう。

 とても悲しいけれど自然なことだと思う。

 しかし、1000年後。

 人類そのものが消滅してしまう。

 …………彼女がいたという痕跡が跡形もなく消え、なかったことにされてしまうのではないだろうか?

 ミシェンが結婚して子供が出来たとして、その子孫も消えてしまう。

 いやミシェンが結婚してなくても、彼女の痕跡は必ず世界に残る。人が生きるというのはそういうものだと私は理解している。しかし人という種が滅べば痕跡も消えてしまう。

 ………………それは

 イヤだ。

 私は人という種族より長く生きる。

 その残りの生を、人が滅ぶのを看取るために使うなんて耐えられない。


 それに人類の滅亡が1000年後だとして。

 その滅びは1000年後に突然現れるとは考えにくい。魔王軍の作戦が成就した成果だと聞いているが、その作戦自体はかなり前から動いていたのだ。

 今この瞬間も人類の滅びは進んでいる。

 未知の病気の蔓延、自然環境の変化、国家間の大規模な戦争……滅びをもたらす現象数多く思いつく。

 その滅びが徐々に進んでいるとしたら、ミシェンに危害が及ぶ可能性も0ではない。

 ……私は彼女を守りたい。

 彼女がいなくなった後も。


 ……私は魔王軍に思い入れがあるわけではない。

 基本的に研究所にいて、他の魔物と交流も少なかった。

 ただ魔王様には恩がある。

 自分の命を救ってくれて、更には尊厳も守ってくれた恩が。

 ――今でも魔王様と出会った時のことを覚えている。

 人造人間の研究は一時的に凍結され、私という人造人間は廃棄される予定だった。培養液が入った試験管の中で私は眠り、次に目を覚ますのは自分が死ぬ時だと思っていた。

 しかし目が覚めたとき、私は外の世界へと連れてこられた。

 目の前には人間の姿に変身した魔王様がいた。

 彼女は廃棄予定であった私の管理権限を手に入れて、私を救ってくれた。更には研究所の管理という仕事も与えてくれた。

 ……ただ。当時の私は嬉しいとは思えなかった。

 自分は『無駄』と判断された生命体だと認識していた。

 生きている意味なんてない。と思っていた。


 実際に私は魔王様に「自分は生きている意味はあるのか?」と質問した。

 そのときに魔王様がかけてくれた言葉は今でも覚えている。


「……僕にも分からない。生きる意味がある、なんて僕も強くは断言できないよ」


 ただ、と彼女は続けた。


「生きる意味はあって欲しいとは願っている。少なくとも僕はね」


 ……その言葉を今でも覚えている。

 少なくとも、ここに。自分の生存を望んでくれている人がいたのだと、救われた気持ちになった。

 魔王様には感謝してもしきれない。


 ――その恩を私は仇で返すことになる。

 すまない。私はやはり人類の未来がほしい。


 この日。私は人類の滅亡を防ぐことを決心した。

 人の側に立ち、魔王軍に反旗を翻す決意を。



今回の話で第1章が終わります。

次回から第2章です。

また申し訳ないのですが第2章から小説の形式は三人称になります。

主人公は変わらずギレイです。

よろしくお願いします。

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