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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
一章.『人との共存』編
17/32

第17話 想いの価値(※ミシェン視点)

よろしくお願いします。


 

 私の答えは至って単純で、とっくのとうに決まっていました。

 ギレイと一緒にいたい。

 では何故、その答えを口にするのがこんなにも怖いと感じてしまうのだろう?

 

 ギレイが魔物だからでしょうか?

 ギレイと一緒に生きていくことで予想される沢山の困難に恐れを抱いているからでしょうか

 ……確かにそれもあると思う。

 

 でも、それ以上にもっと大きな理由がありました。


 ギレイは――。

 私のために多くの苦労を背負いました。

 そもそもの話。彼は私を拾って育てる義理なんてなかったのに。

 10年間も面倒をみてくれて、更に私の将来のための準備までしてくれている。

 今後は私の側にいてくれるためにシスターと契約して、自分の死という危険まで背負って私のために行動してくれています。

 ……じゃあ私は?

 私はギレイのために何かしてあげられたのでしょうか?

 私は彼に何か利益をもたらせたのでしょうか?

 ……何もありません。

 私がギレイのためにしてあげられたことなんて一つも。

 そんな私が彼の側に立つ権利なんてあるのだろうか? 

 

 私がもっと強くて賢い人間で、ギレイのために何かしてあげられる力がある人間だったのなら。

 彼と一緒に生きるに相応しい人間であったのなら。

彼の側にいる権利がある人間になれたのでしょうか?

 

 ……。

 …………。


 では、いつ。

 そんな強い人間になれる?

 強い人間になるまでは、自分の想い――大切な人と一緒にいたいという願いすら叶わないのでしょうか?

 強くて、賢くて、力がある人間でなければ何も願いは叶わないのでしょうか?

 …………そうかもしれない。

 その考えを否定できるほど私には力もない。

 けど私はギレイと一緒にいたい。

 弱くて、何の力も無い人間だけれど。それでも一緒にいたいと。


 あなたとずっと一緒にいたいと、私はギレイに言いました。

 時間をかけて思っていること全てをギレイに言いました。


「私が一緒にいるとギレイにこれからも苦労をかけてしまうかもしれません……いや、実際にかけるでしょう。

 ギレイと離れて暮らす方が私たち二人のためになるのかもしれない。たぶん、その方が『正しい』気もします。

 でも、たぶん……。

 きっとギレイと一緒に生きていく方が楽しいと思います。

 我が儘な考え方かもしれないけれど……ギレイにとっても私と一緒にいることが義務とか仕事とかじゃなくて……『楽しい』と嬉しいと思います」


 私の話をギレイは静かに聞いてくれていた。

 彼はいつも私の話を真剣に聞いてくれる。目を見て耳を傾けて、途中で遮ったり、否定もせずに話を聞いてくれる。

 だから私は自分のことを彼に話すのが好きだ。

 ……今度は彼の話も聞きたいと思います。


「私もまだ子供ですけど……もっと強くなります。魔法だけじゃなくて色んなことを勉強して。ギレイも安心して私の側にいれるくらいに強く。

 だから……それまでも、それからも私と一緒にいてくれると私はうれしいんです」


 私は言いたいことを言い終わりました。

 ギレイは私の目を見て言いました。


「ミシェン。君の気持ちは分かった。君の意思を私は尊重する」


 隣で話を聞いてくれていたシスターも頷いた。

 ギレイはまた口を開く。


「ただ一つ言わせて欲しい。ミシェン。君は自分を無力な人間だと言うが、それは間違いだ。

 自分の願いを言語化し、恐れを克服して願いを口にする。それはとても勇気がある行為だと私は思う……私にその勇気はなかったからだ」


「ギレイ?」


 彼は深呼吸する。

 こんな彼は初めて見ました。

 こんな……緊張しているギレイは見たことがありません。


「ミシェン……私も……私も君と一緒にいたいと思う」

 

 

 一ヶ月ぶりに私は自分の家に帰りました。

 帰り道はギレイと一緒に歩いて、自分の家に。

 家の中はいつもと変わらずキレイに片付けられていました。

 10年間過ごした場所で、いつもと変わらない。


 家に着いてギレイが話しかけてきました。


「ミシェン……私が恐ろしくないのか?」


 ギレイの表情はいつもと変わりません。

 ただやっぱり緊張しているようでした。

 私は正直に答えることにしました。


「正直ちょっとだけ怖いです」


「そうか」


「でも、大丈夫です。頑張りますから。ギレイが安心できるくらいには強くなります。だからギレイも私を安心させてくれるよう頑張ってください」


 何を頑張るか、何が頑張れることなのかは分からなかったけれど。

 とにかく頑張るしかないのだ、と思いました。

 結局できることはそれくらいしかないから。


「一緒に頑張りましょう、ギレイ」


「……ああ。ありがとう」


 私との生活がギレイにとって義務ではなく、少しでも嬉しいものだと良いのだけれど。

 

 改めて自分の家を見回して、またギレイをみて私は言った。


「ただいま、ギレイ」


「ああ。おかえり、ミシェン」


 そしてギレイは嬉しそうに笑ってくれました。



ありがとうございました。

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