第13話 種の在り方(※三人称視点)
よろしくお願いします。
今回は三人称視点となります。
また【】の言葉は古代語となっています。分かりにくい表現となってしまい申し訳ございません。
人造人間ギレイが教会の方向へと歩いていく。
同時刻。魔王も教会の方向を見据えていた。
魔王はギレイではなく教会にいる人間に意識を向けていた。魔王は人間に変身して魔力も限りなく抑えている。普通の人間であれば魔王の存在にも気づきはしない。
しかし教会にいる『彼女』は自分に気づいていた。
(……けど戦う意思はなさそうだ。それはそうか。僕たちが戦えば周りに被害がでる)
相手に戦う意思がないことを確かめたあと、魔王は背を向けて村の外へと向かった。
村の外にある森へと足を踏み入れる。
森に入った瞬間に動物や虫のざわめきが大きくなる。野犬は怯えるように唸り、鳥たちは一斉に飛び立った。
魔王は立ち止まり周囲を見回す。
「【あれ。迎えに来てくれたんだ】」
彼女は古代語を用いて迎えに来てくれた相手に呼びかけた。
彼女の言葉と同時に森のざわめきが収まった。先ほどまで吠えていた野犬や狼は息を殺したように静まりかえる。
そしてカサカサと物音が聞こえ始めた。
『【……もちろんです。しかし私のような下賎の者がお迎えに来たことは不愉快でしょうか』
声の主に向かって魔王は微笑む。
「【そんなことあるわけないだろ。嬉しいよ、『蟲』】」
『【私には勿体ないお言葉です、魔王様】』
「【君だって四天王の一角なんだ。もっと自信を持ちなよ】」
と言うと相手は黙ってしまった。
褒めてしまうと相手は恐縮してしまうので、むしろ困らせてしまうなと魔王は判断し話題を変える。
「【君は他の四天王の様子を見てきてくれたんだろう。みんなはどうしてた?】」
魔王の問いに『蟲』は応える。森の中に虫の羽音や動き回る音が一斉に聞こえ始めた。
『【――まず『龍』についてです。あの貴族気取りは本当に人間との共存を目指そうとしています。自分の部族を連れて人間の冒険者達と交流しています――どうされますか?】』
「【どうもこうも。彼の選んだ道だ。自由にさせてあげよう。じゃあ『鬼』は?】」
虫の羽音が更に大きくなる。
『【あの……あの単細胞の戦闘狂は貴方が気にかける必要はございません。あろうことか魔王様が任せていたダンジョンボスの任務を『飽きた』と放り投げたのです! 今は『強い奴を探す』と言って各地をさまよっているようです……私はアイツを殺してやりたいです】』
「【彼女の気まぐれは今に始まったわけじゃないよ。彼女が真剣に魔王軍の作戦に加わってもらえれば、もっとちゃんとした形で人類を滅ぼせていただろうけど……。その気まぐれな性格も含めての彼女だ。仕方ない】」
魔王が仕方なさそうに笑ったを見たのか、羽音が小さくなる。
魔王は最後の四天王について尋ねることにした。
「【あとは『獣』はどうなった?】」
『【……奴は本当に殺されたそうです。王国の魔法使いに討たれました】』
「【そう。魔力反応が完全に消えてしまったから、分かっていたことだけどね】」
『【……しかし、あの陰謀家が簡単に殺されるとは思いません】』
「【僕もそう思うよ。『獣』はいつも何か策を練っている。自分の死すら計略の内でもおかしくないけれど……今は確かめることはできない】」
魔王はふと空を見上げる。
人間の姿で眺める夜空は随分と遠い景色に見えた。
『【……魔王様?】』
と『蟲』が魔王に声をかける。
魔王は声の方向に顔を向けてまた微笑んだ。
「【心配しなくても大丈夫だよ。少し考えていたんだ。僕たち魔物はこれからどうなっていくかについて、ね。
人類の滅亡はもう覆らない。僕たち魔物にはもう存在する意味はない。
けれど僕たちはまだ確かに存在している。個人に限らず、種全体の生きる意味を再定義する必要がある】」
魔王は村の方向に顔を向けた。
「【そういう意味でもギレイには期待しているんだ。他の魔物にも人類との共存を勧める、という話じゃない。ただ彼は過去の魔物とは違う生き方を模索している。自分で思考し、他の魔物とは異なる在り方を示そうとしている。これからの魔物の在り方としての貴重な先行事例になる可能性がある】」
『【……私は人間と共存なんて御免です……】』
「【別に彼の真似をする必要は無い。彼の行動と思考を受けて、他の魔物は全く別の生き方を思いつく場合もある。そういった意味での先行事例だ。僕も人間とは共存はしたくないからね。
彼がこの先の行動でもたらす成果に興味がある】」
魔王は目を細めて村の方向を眺める。
「【期待しているよ、ギレイ】」
魔王はそう呟いた後、背を向けて歩き始める。
彼女の歩みに合わせて蟲の音も遠のいていく。
そして暗闇に包まれて彼女の姿は見えなくなった。
ありがとうございました。
続きはまた休みの日に投稿する予定です。




