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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
一章.『人との共存』編
12/32

第12話 魔王

よろしくお願いします。


 私は居間の灯りを付けたあと再びイスに座る。魔王様もイスに座り、テーブルを挟んでお互いに向かい合った。

 なぜ魔王様が来たのか、と尋ねる前に彼女の方から答えを口にした

 彼女は小瓶を取り出しテーブルに置く。小瓶の中には赤い液体が入っている。


「君に搭載されていた『変身』と『暴走』の魔法を解除する薬だよ。君の魔力反応に異常が発生したのに気がついてね。急いで作ってきたんだ」


「私の異変にどうやって気づいたのですか?」


「僕は魔王だからね。部下の魔物のみんなの体調はある程度把握できる。常に全員を確認できるワケではないから、順番にみんなの状況は確認している。今日はたまたま君の異変にすぐ気がつくことができた」


 魔王軍に所属する魔物の数は膨大だ。それらの生態情報を確認するのは手間だろうし、何より疲労を伴うだろう。

 しかし魔王様は部下である魔物一匹一匹を気にかけてくれている。


「……それと君についての研究資料を改めて探した。魔族の住居にも忍び込んでね。そこで君についての設計書を見つけることができた」


「魔族の住居にですか?」


 魔族は魔王様を含む魔物の全ての上に立つ存在である。彼らの住居は厳重に管理され、魔物が簡単に忍び込める場所ではない。

 魔王様は首を振る。


「昔と状況が違う。人類の滅亡が確定したことによって、魔族と僕たちの関係も変わった。魔族は人類滅亡の先兵である僕たちの興味を失っている。彼らの住居への警備も格段に緩くなっている。忍び込むのは容易だったよ。

 そこで君の設計書を見つけた。君に仕掛けられたのは『変身』と『暴走』の二種類の魔法だけだったよ。その設計書を元に魔法を解除する薬も作れた」


「ありがとうございます」


 私は礼を言ったが、また魔王様は首を振った。


「礼を言われる筋合いはないよ。もっと早く君が造られた理由に気づいて、魔族の研究について調べていれば事前に防げていたかもしれない」


「……全ての魔物を率い、その責任を負う貴方の苦悩は私には推し量ることはできませんが……それでもお礼は言わせてください。私が生きているのは貴方のお陰なのですから」


 私のために薬を作ってきてくれただけではない。

 私、私たち人造人間が生きているのは魔王様のお陰なのだ。

 魔族に不要の烙印を押されて処分されそうになった我々を救ってくれたのは魔王様だ。彼女は魔族と交渉し、私たちの生存を保証してくれた。研究所という私たちの居場所も作ってくれた。

 まだ当時はその行為の意味を正しく理解できなかったが、今なら理解できる。


「昔も今も、貴方は我々の『尊厳』を守ってくださる。感謝してもしきれない。本当にありがとうございます」


 私は頭を下げた。

 そして顔を上げて彼女を見ると彼女は微笑んだ。


「少し変わったね。君は」


「……そうでしょうか」


「変わったよ……もっとも、その変化が魔物にとって良いモノなのかは要検討だけれどね。人と共に暮らすという行為が本当に私たちにとって良いモノなのか、については」


「…………」


 彼女は私の生態情報を把握しているといった。

 ではどんな生活を、そして誰と暮らしてきたかについては把握していないのだろう。しかし家の中を見ればどんな生活をしていたかは簡単に予測が付くはずだ。

 私が身構えると彼女はまた笑った。


「そう警戒しなくていい。咎めるつもりもないよ。私たちはもう戦士としての役目を失ったのだから、人間と共存の道を選ぶのも君の自由だ。

 悔いのないように生きなさい」


 彼女は私にそう告げる。

 私は頷いた。


 私が薬を飲んだのを見届けると彼女は立ち上がった。

 もう帰るようだ。

 私も麻痺魔法は解けたので玄関まで見送ることにする。

 玄関先で彼女は振り返って言った。


「ちなみに。参考まで聞きたいんだけど……僕のこの姿……人間に変身した姿はどう?」


「どう、とは?」


「いや。深い意味はないよ。僕にとって人間の姿に変身するのは多くの魔力を消費するし、人間の姿は窮屈だし不便極まりないんだけどさ。ただ君にはどう映るのか気になった」


「よく似合っていると思いますよ」


 容姿を形容する言葉として不適切に思えたが、思ったことを伝えることにした。

 今の人間の姿は確かに似合っていると感じた。


「ふーん。あっそ」


 魔王様は私の回答を気に入らなかったのか、つまらなそうに返事をした。


「まぁ。僕の本来の姿は大きすぎるから、こうして君と視線を合わせられるのは悪くないかな。たまに人間に変身してみるのも悪くないかもしれない」


 彼女はそう言って外に出た。


「じゃあ、また」

 

 彼女はそのまま歩いて去っていた。

 彼女の姿が見えなくなったのを見届けた後、扉を閉めようとして――思わず動きを止める。

 何故か扉を閉める手が動かない。

 麻痺魔法はもう解けている。

 何故か? それを考える。

 

 魔王様の「悔いのないよう生きなさい」という言葉を思い出す。

 悔い。後悔。

 私は今。後悔を感じているのだ。


 では私の後悔とは何だろうか? 

 ……すぐにミシェンの顔が脳裏に浮かぶ。

 私の後悔とはそれだと定義する。

 ……同時に後悔の原因を解消したいとも考えていた。

 どうやって? 何のために?


 考える前に私の足は教会へと向いていた。


できれば明日も投稿したいです。

ありがとうございました。

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