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魔王軍の兵士が人類滅亡を阻止するまで  作者: 脱出
一章.『人との共存』編
10/32

第10話 一つの関係性の終わり

よろしくお願いします。


 ――これは全て()()()聞いた話だ。

 『第五五期人造人間製造計画』。私という人造人間が造られた目的と経緯について。

 当初の計画は魔族が管轄していた。

 魔族は全ての魔物――魔王様を含む全ての魔物――を管轄する上位存在である。人類滅亡の計画を主導し、我々を生み出した張本人達でもある。

 魔族のことを、ある魔物は『人間社会における貴族のごとし』と称した。彼らは権力者として我々を好き勝手に扱う。時には娯楽として我々を生み出し消費する。

 私たち人造人間も彼らの娯楽として造られた。

 私たちは人間社会に潜入し、いずれ特定の個人と親しくなるよう関係を構築することを期待されていた。そのために最適な容姿・能力・及び感情も搭載された。

 そして特定の個人と関係を構築し、その個人に特別な感情――親愛、愛情、執着―――を認識した後に、予め仕掛けられた魔法が起動される。魔法自体は特別でも何でもない、対象を『変化させ暴走させる』魔法である。人間にも分かりやすい化け物の姿に変身し、忍び込んだ社会と個人を壊す存在と成り果てる。

 変貌した姿は人間の伝承にも残る『狼男』の姿そのものである。

 

 変わり果てた人造人間が人間社会を壊す様を、魔族は観賞して楽しむのだ。

 ……観賞して何を楽しむというのだろう?

 人間の絆はかくも脆いものだと再認識するためか、魔物の人との共存など不可能だと納得するためなのか? 

 彼らが作戦に込めた思想については我々が正しく理解出来る日はやってこない。我々は魔族の価値ある思索を満たすための題材でしかない。


 我々が製造された時には魔族同士の権力闘争が起こり、人造人間の実践投入は見送られた。当初の設計思も忘れられた。

 ただ巧妙に隠された変身魔法の起動装置は私のナカに未だに隠されていた。

 結局はそれだけの話である。


 

――自室にて鏡に映った自分の姿を見る。

 既に自分の姿ではなくなっていた。身長は二倍以上に膨れ上がり全身が灰色の体毛で覆われている。顔も狼そのもので目は赤く血走っていた。

 本当に化け物の姿へと変わっていた。

 自分の爪を眺める。

 ――――コワシタイ。

 自分のモノでない衝動が体の奥底からせり上がってくる。

 ミシェンの姿が脳裏で浮かぶ。

 彼女に危害を加える前に――ハヤク殺サナケレバ――違う。できるだけ遠くへ――逃ゲルマエニバラバラ二シテヤル――違う!!

 物音が聞こえた。

 その方向に目を見る。

 扉の側にミシェンが立っていた。口元を覆い私を見ている。

 悲鳴が聞こえる。

 ウルサイ。

 悲しい。

 コロシテヤル。

 ……違う!

 

 私は何かを喋ろうとした。

 代わりに獣のうなり声が口から出てくる。

 目の前のエモノに視線を合わせる。

 ミシェンは腰が抜けたようにその場に座り込んだ。何カ話シテイルヨウダガ良ク聞キ取レナイ。

 

 ――――まだ微かに残っている理性、で――思考する。思い出す。

 私はこうなることを予期していた筈だ。

 私が造られた目的を私は知ることは出来ない。ただ推測することはできていたはずだ。

 私が私自身の制御能力を失いミシェンに襲いかかる危険性も考慮していたはずだ。

 思い出せ。私が残した対策を思い出せ。

 ……最も効果的な方法は自害することだが、それはできない。私に限らず全ての魔物は自らの命を絶つ行為を、魔王様によって制限されている。

 自害を実行しようとすれば体の身動きが取れなくなるよう、魔王様の魔法が発動する。


 ソレを利用する。


 私は自分の爪で自分の『核』――人間で言う心臓を貫こうとする。同時に魔王様が私の肉体に仕掛けた魔法が発動する。

 全身に電流が走ったような感覚に襲われる。

 私の体の自由を奪う麻痺魔法が発動したのだ。

 ……同時に理性も徐々に回復する。

 麻痺は全身にまわり自分の魔力もうまく扱えなくなったのだが、それが私の暴走が少し収まった事に関係していそうだ。

 変身と暴走の魔法は私の体内の魔力を使って発動している。

 ならば私の体内の魔力が尽きれば変身も解けるはずだ。

 

 私は自分の机に目を向ける。

 上から三番目の収納棚。棚の引き戸の右端を二回、左端を三回叩く。

 仕掛けが動作して、収納棚が開いて中のモノが飛び出す。

 黒い宝石だ。この宝石は魔力を持つ特別なモノで自動的に魔法が発動するようになっている。

 宝石の一番近くにいる者の魔力を吸い取るのだ。


 宝石が私の魔力を吸い取り始める。

 すぐに私の魔力はほぼ空になった。同時に宝石も魔力の吸収を止める。

 私の体内の魔力がほぼ0になったことで、暴走と変身魔法を維持できなくなった。

 ……私の変身も解け、理性も完全に回復した。

 

 私が変身して、その変身が解けるまでほんの数分だったはずだ。

 それなのにとても疲れたし、何かが致命的に変わってしまったと感じた。


 …………ミシェンはその場に座り込んで私の方を見ている。

 ………………もちろん。

 私が魔物であると彼女にばれる、または打ち明けることになる事態も想定していた。

 想定は、していた。

 …………こんな形は想像していなかっただけだ。


 私は口を開く。


「ミシェン。私は魔物だ」


 と、彼女に告げた。



次の投稿はまた土日になるかもしれません。


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