第7話 疑念
1208号室から出てきた、斧使いの男は警戒していた。
危なかった…時間ギリギリまで誰も口を割ろうとしなかったが、1人が口を割ったのを皮切りに俺を含め皆次々に早口で説明を始めた。
しかし、俺の心は決して穏やかではない!
俺以外の4人が俺のデザイアの詳細を知っているという事実!
内容次第だが二次試験以降彼らが己に牙を剥いてくる可能性は非常に高い!
さらにデザイアは己の欲望に大きく影響を及ぼされて出来た物、能力を知ることでその人の性格や育った環境、好物まで分析する者もいるという。その自分の中身を見られたような感覚!
部屋を出たあとも5人誰も口を開かないのも無理はない。事実、会場についた時も静かだったし、俺らのあとに入ってきたグループも話している様子もなかった。
いや、やけに通路の方が騒がしいな。
「で、結局誰だったんだよ嘘吐きはよ!」
「まぁいいじゃないですか。ライト君のお陰でクリアできたんですから。」
「よくないわよ! 誰のせいでこんなギリギリになっちゃったと思ってんのよ!」
「誰も能力明かしてないんだから平和でいいだろ。」
「あの…一応俺能力明かしちゃってるんですけど…」
「12時になりました。ここにいる205名を合格者として打ち切らせて頂きます。皆さん、一次試験突破おめでとうございます。」
俺たちは、披露宴会場に無事帰っていた。
1次試験クリアだ…!
「あちらに昼食を用意しました。このホテルの一流シェフ達による食事でございます。2次試験は13時からです。それまでお楽しみください。」
振り返ると豪華なバイキングが用意されていた。巨大魚の姿造り、イージアン牛のステーキなど何十人前も用意されている。城でやるパーティに匹敵するくらいの質と量だ。
浮かれながらステーキを食べていると、ジャンに話しかけられた。皿いっぱいに肉を乗せた皿を両手に持っている。
「よぉライト! お前すげーな。さっきの、鍵開けたのはどうやったんだよ。」
ジャンは本当の能力を言っていたようだし、話しても問題ないか。それに俺の能力はバレてるし、信頼を得た方が得だ。
「──それでドアノブの違いから、扉を【固定】するっていうデザイアがかけられていることに気づいたんだ。で、誰が使っているか考えたんだけど。」
「運営側じゃねーのか? 受験者の本当の能力を知るために。」
ジャンはもごもごとチキンを食べながら話す。
「うん、そう思ったんだけど、それだったら最初から『正直に能力を明かせ』っていう試験を出せばいいだけじゃん。」
「あー確かに、わざわざ回りくどいやり方してるな。じゃあ誰が使ってたんだよ。」
「あの長髪眼鏡さ。」
「いや、部屋の内部はねーだろ。せっかくお前の解除能力でクリアできるのにそれを阻止するなんて、共倒れじゃねーか。」
「うん、動機はわからない。けど、最初の扉はただの施錠されていただけで、俺が【解除】を使おうとした途端に【固定】能力が発動したんだ。能力者は部屋の状況を把握できた人物、つまり運営ギルド側か、部屋にいる受験者だけ。」
「なるほどな、さっきの前提も含めると、内部犯だとわかったわけか。」
「そう、そもそも、【固定】の能力者が運営ギルド側なら遠隔で施錠なんてしなくてもいいからね。逆に言えば、扉が固定されたのは1212号室だけ。これから考えると固定するデザイアの条件は対象に触れることなんじゃないかな。勘だけど。」
「いや結構合ってると思うぜ。長髪眼鏡俺と部屋についたのほぼ同時というか、なんなら俺の方が扉に近かったけど、無理して先に扉開けてくれたからよ。」
「それは証拠として薄いかも…まぁとにかくそこまでわかったら、あとは部屋の人達に対して【解除】を発動させるだけ。」
「やっぱりお前すげーな。ありがとよ、助かったぜ。」
と一回肩を組んでから言って去っていった。
壇上に上がってたときは怖かったけど意外といい奴なのかもしれん。
しかしなぜ長髪眼鏡は俺達の邪魔をしたのか、その理由が気になって、会場中を探す。
なかなか見つからなかったが、ようやく壁際にいるのを発見した。 誰かと喋ってる…シャルルとだ。
そこに向かおうとした時、
「皆さんご注目ください。これより2次試験を開始いたします。」
司会者が話し出した。
「2次試験は秘密裏一対一です。」