第6話 扉
イージアングランドホテル モニタールーム
1フロアを丸ごと使い、全ての受験室が見えるように機器が取り揃えられたモニタールーム。ギルドの情報部隊が箱詰めになって液晶と睨めっこをする。その部屋の端に1212号室を監視する2人の男女がいた。
「嘘が判断できるやつがこっちにいるですって。あなたの能力もうバレちゃったわね。うける(笑)」
「そうですね。短時間で導き出したシャルルの洞察力は賞賛に値します。」
「それよりも、ライトはどうするの? 解除でドア開けられちゃったら試験にならないじゃない。」
「ご心配なく。その可能性があったため、“彼”と同室にしました。」
「なるほどねぇ。でも“彼”がバレたらお終いじゃない。」
「いいんですよ。我々の仕掛けに気づかないようじゃどのみちライト君に未来はありません。」
1212号室
俺たちの中に嘘吐きがいる。
「白々しいわね。その可能性に気づいたってことはあんたが嘘吐いてるんでしょ?」
「いえ僕は正直ですよ。ライトくんに心当たりあるんじゃないですか?」
確かに、この試験が始まる前に俺に対して条件を満たしたことから、本当のことを言ってる可能性が高い。しかしそれすらも仕込みの可能性だってある。
というか嘘であってほしい。じゃないと俺は操り人形だ。
「そう言うリリスも怪しいが。」
「なによロン毛メガネ、あんたも大概でしょ。」
…いや待て違う、こいつら全員嘘吐きなんじゃないか。
嘘を吐く奴がいるだろうとわかってるから皆すらすらとデザイアを話したんだ。偽りの能力を。
「まぁまぁいいじゃねーか。幸運にもライトくんの能力で突破できるんだからよ。あんたは本当のこと言ってんだろ?」
ジャンに聞かれ頷く。
結局俺の能力だけバレちまった。いや一応ジャンもか。
再度ドアノブに手をかけ、【解除】を発動させる。
しかし、扉はピクりとも動かない。
「…! 開かない!」
「はぁ!? 結局あんたが嘘吐きだったってわけね。」
「いや、違う!」
どういうことだ。
確かに能力が発動した感覚はあった。
「まどろっこしいな。力づくで吐かせるしかねぇか。白状するなら今のうちだぞ。」
ジャンの気迫が部屋に響きわたる。
「なによあんた。潰してやるわよ。」
リリスがそれに呼応するように、力を貯める。
「やめておけ。部屋が壊れて失格になるのがオチだ。」
「僕もロン毛メガネさんに同意ですね。ここは交換条件で穏便に済ませませんか。」
「ロン毛メガネさんはやめろ。シャルル。」
俺は深く考え込んでいた。
ドアの1回目と2回目で何かが違った。
俺にしか気づけない違和感。
思い出せ。考えろ。
「あと5分しかないわよ。」
絞り出せ。生き残るために。
「おいおい、嘘吐いてて何の意味があるんだよ。」
俺はもう一度ドアを開けようと試みる。やはり全く動かない。
さっきから何も変わっていないんだ、当たり前か。
…いや! 全く動かないのはおかしい!
最初はドアノブを捻ることができたのに、今はドアノブすら動かない! つまり、今の扉は俺の能力で解錠自体はされてはいるが、扉自体の動作が固定されていて動かないんだ。
そういうデザイアをかけられているに違いない…!
能力は把握したが誰がどんな条件で発動しているのかが問題だ。もし、この部屋にいない人が使用者なら、詰みだ。しかも能力の発言条件だって考察材料が少なすぎる。
「とりあえず嘘吐きの方は名乗り出てくれませんか? このままじゃ共倒れですよ。」
皆が口々に騒ぎだす。
どうする。
いや必ずこの部屋を出て見せる。考えろ。
俺ならできる。
──そして長針と短針は重なり合う。