第3話 イージアンにて
俺が飛行船は乗って、ベルニアから南東に離れたところにある、ダーダネルスという国を目指していた。ダーダネルスの南側には、古代都市ランドトロイアが存在している。
ダーダネルスの首都、イージアン市に着いた頃にはすっかり日が暮れていた。高層ビルが建て並ぶ大都市、世界最大規模だと言われているその摩天楼に圧倒される。当然空港も広大で、たくさんの人種が行き交う。そのためか巨大な掲示板があった。
その中で、とある広告を見つけた。
『ランドトロイア攻略隊募集 一般選抜
試験日 4月2日 会場 イージアングランドホテル
主催 ギルド 《古の恋心》』
通常、遺跡を攻略する際は、デザイア使いのプロの探検家が複数人で行うらしく、その集団をギルドと呼ぶ。探検家集団に直談判して仲間に入れてもらおうしていたけど、これなら手間が省けるな。しかも試験日は明日だ。怪しい気もするが、少しでも可能性があるなら向かう価値はある。
というか、六神殿の情報って意外とオープンなんだな。まぁベルニア国外にもデザイア使いはいるし当然と言えば当然か。ベルニアは鎖国的だから、国内に出回らないように国が敢えて情報を制限しているのだろう。
まぁいいか、試験会場もイージアン市だし、ひとまず宿を借りて明日に備えるとするとしよう。
宿の部屋に入る。城の自分の部屋よりかは狭いがまぁ及第点だ。お金は節約しなければならないし、なにより1人は快適だなー。
なんて、思ってないとやってられない。1人で食べる晩御飯は寂しかったし、夜、瞼を閉じれば今日起きたことを思い出して、少し後悔して、それでも決意してはの堂々巡り。
とにかく頑張ろう。自分の決めたことからは逃げたくない。
翌日、あまり眠れなかったが、冷たい水で顔を洗い強引に目を覚ます。まとめた荷物を持ち、剣を腰につけ、試験会場に向かった。
「ここがイージアングランドホテルか。」
試験会場は地上何階あるかわからないくらいの高層ホテル、その披露宴会場を貸し切りにしているようだった。豪華な装飾に奇抜な模様のカーペット、光り輝くシャンデリア、どれも一級品だ。
「試験要項の記入をお願いします。」
受付で手渡された紙には名前、出身地などの記入欄があった。一応王族であることは隠しておいた方が良さそうだな。下の方に、『命の保証はしかねます』という記述があったが、勢いよく『同意する』に丸をつける。
会場内に入ると、既に何百人という受験者がいた。
皆、一斉にこちらを振り向く。張り詰めた空気が流れた。
俺を見定めているんだ。
全員、能力使いに違いない。
俺の身体はその圧力に震えていた。
「やぁ、もしかして君、ベルニアの王子?」
後ろから声がした。振り向くと金髪で色白の若い男が立っていた。
俺の心臓の鼓動の音が大きくなっているのがわかる。
「あれ? 黙ってるってことは図星?」
「…そうだけど、なんでわかったの? 隠しておいたのに。」
「ハハハ、素直なんだね。昨日の事件は大きなニュースになっているからね。嫌われ者の王族が市民を助けたってさ。」
嫌われ者? まぁ確かに王に嫌われる要素はあるけど、国民にはバレてない気がしたが。
「それで、ベルニアから一番近いここに、能力に困った君ぐらいの年齢の王子が現れるんじゃないかって思っただけさ。あとはハッタリ。
初めまして、僕はシャルル=フルール。君があの勇敢なライト王子か。僕は結構君のこと好きだな。」
と言って右手を差し出した。
いきなり告白をかましてくる奴は苦手だな、と思いつつも俺は握手に応える。
シャルルがニヤリと笑った気がした。
「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。これよりランドトロイア攻略、一般選抜試験を行います。」
低い声がした。恐らく変声機で声を変えているのだろう。
会場前方のステージに主催者側らしき司会者が現れた。スーツ姿に赤いネクタイ、そして微笑む不気味な仮面。会場がピタッと静かになる。
俺は大きく深呼吸した。
まずは試験で絶対に勝ち残ってみせる。