第10話 裏切り者は…
今まで、俺は体を固定され動けなくなり蹴られてきた。そしてその後毎回倒れ込む。
つまり蹴られた後は動ける!
なぜシャルルはいちいち固定能力を解くのか。
否、解かなければならないのだ。
なぜか。固定した相手を攻撃できない、あるいは、固定された状態では攻撃が効かないのではないか。
【固定】を人に使うと動けなくなるが、固定されることでダメージが通らなくなる! 味方や自分に使えば防御において最強!
恐らくこっちが能力の本質…!
だから、シャルルは蹴る直前に能力を解く。
それから蹴られるまでは一瞬…だが解けると分かっている固定なら、反応できるはず!
シャルルの鋭い蹴り俺へ向けられる。
…ここ!
王宮武術で鍛えた回転を生かして受け流す。正確には少し掠ったが問題はない。
そして、また止められる前にすぐにシャルルの真上へ跳ぶ!
「うぉらあぁぁぁぁあ!!」
固定すればダメージ無効の俺が上に乗っかるし、固定しなかったらこのまま蹴り下ろす!
今蹴ったばかりの重心じゃシャルルは躱せない!
勝負ありだ…!
俺は固定された状態でシャルルの上にいた。
「まいった…僕の負けだよ。ここから固定を解いても君に殴られるだけだし。」
そう言ってシャルルは能力を解いた。
「いい勝負だったよ、ライト君。」
といって右手を差し出す。
「おう。」
固い握手をした。
「…握手してくれるんだね、一回騙されたのに。」
「あ、やべ。まぁでもあれ結局嘘なんだろ。」
「ハハ、冴えてるんだかよくわかんないね。
…あ、そうだ最後に、長髪眼鏡さんは裏切り者だよ。」
「…? 俺もわかってたよ? それで【解除】を使って部屋を出たんだ。」
「いや、そういうことじゃない。とにかく彼に気をつけて。僕に言えるのはここまで。」
「はぁ?」
何を言ってるんだ。まだシャルルという男の底が見えない。
ニヤリと笑うシャルルは続ける。
「ヒントだよ、さ、早く行きなよ6階に。また会おう。」
不気味な笑顔に見送られながら俺は戦闘ルームを出た。
ライト=アーストン 二次試験突破。
「あーやられた。」
ライトが出ていったあとシャルルは1人そう言って仰向けで床に倒れた。
「運営さーん、ギルド《古の恋心》さーん?秘密裏とか言ってたけど見てるんでしょ?」
「いや、《槍星の探索者達》さんっていった方がいいか。僕、色んなことに気づいたけど、話聞く気はない?」
天井の空間がグニャリと歪んでから、スピーカーとカメラが現れた。
「はい、あなたには敗者復活戦へ進んでもらいます。そこでお話いたしましょう。」
「ふふ、やっぱりデザイアだった。一般に使用されてるホテルなのに、この試験のために全部屋にカメラ設置することをホテル側が了承するわけないもんね。」
「あまり他の受験者にヒントをあげないようお願いします。6階Bホールへお越しください。」
能力者同士の戦いに勝利し、喜びと自信を抱えたライトは指示された6階へきていた。最初の披露宴会場よりも一回り小さい会場には机と椅子が並べてある。すでにもうかなりの人がいた。
「二次試験突破、おめでとうございます。指定された番号の席へお座り下さい。」
目の錯覚を起こすようなぐるぐるのお面をつけた運営が案内してきた。
他にも仮面をつけた案内人、というか試験官がいるようだ。
「お、ライトじゃん! 勝ったんだな!」
「おお! ジャン!」
そこにいたのはボサボサ頭ことジャン。死闘だったのかやけにボロボロだ。
「お前誰と戦ってきたんだよ。」
「シャルル。」
「うお、あの切れ者そうなやつに勝ったのか!」
「ギリギリだったけどね。ジャンは?」
「あのゴスロリ女だよ。あいつとんでもねぇデザイア隠し持っていやがった…」
「それでそんな疲れてるのか…」
それでも能力を知られた上で勝ってるからジャンも相当実力者だ。
「そういえば、長髪眼鏡は?」
「いや、見てねぇな。俺らの邪魔したバチが当たったんじゃねえか? まぁまだこれからくるかもだしな。」
そう言われて、俺は会場を見渡す。
「あれ、なんか人数少なくない?」
「あー言われてみれば、まぁ相打ちとかあんじゃね。」
ちょっと納得するも、どこか腑に落ちない。
「今、すべての勝者が出揃いました。これより三次試験、つまり最終試験を始めます。まずは先ほどの部屋の番号のついた席にお座り下さい。」
44番の席に座る。隣の42番の机にはジャンがいた。隣同士だな、と言わんばかりに呑気にピースサインを向けてくる。
「三次試験は、筆記です。前から試験用紙とペンをお配りしますので、裏を向けたまま後ろへ回してください。」
筆記か…その問題内容はどんなものなのだろう。
単純な学力の測定なら大丈夫だが、世界情勢などが来たらまずいな…
「皆さん手元にありますでしょうか。全部で2問、必ず回答をお願いします。また、カンニング行為やデザイアの使用は禁止です。制限時間は30分、それではスタートです。」
紙を捲る音が会場中のあちこちで鳴り出した。
Q1, あなたのデザイアの詳細を書け。ただし嘘は認められない。(配点:50)
Q2, この試験を通して、気づいたことを書け。(配点:50)




