#99.セントアリアの後継者
大きな、水の魔法陣が現れた。
泉の噴水が大きく破裂し、砂ノ精神のリーダーと、寅丸、長治、そして、喜助と治美を巻き込んでいった。
学級の仲間は水があふれてもその場に立っている。
慌ててマリアは結界魔法を施したが、その必要はなさそうだったため、魔法を解いた。
「八重様・・・・・。」
カミラさんはつぶやく。
「まさにこれは、セントアリアの王位継承者の魔法。」
マイコフさんも八重が次の女王と確信した。
この水の魔法を発動したのは八重だった。
「翔太朗君とおんなじ目、そこの双子のエルフさんたちとも似ている、八重姫様の目。」
「そうでしょうな。あれはセントアリアの初代女王フィオナさまが使えた魔法。『人魚眼の術』。脈々と、セントアリア王家に受け継がれていた時もありましたが、数百年前に受け継がれる者も限られ、何人かに一人に受け継がれると言われていました。今まさに時を超えてよみがえったのです。王家の家系の伝説の魔法が。」
八重には感じるものがあった。
一つの歌だった。
那ノ国の忍者学校。音楽の授業は一応あるが、その授業でもそして誰からも教わったことのない歌。
歌詞と音が一つ、一つ八重の頭の中に浮かんでくる。
聞いたことない、竪琴、ハープの伴奏に乗せて。
八重の歌。美しい声で歌った。
「海の聖霊よ。ここに集いて、癒し給へ、癒し給へ、時を越えてここに、私は歌う、愛する人のために・・・・・・・。」
八重の美しい声は続いて行く。
八重の美しい声は、水を操る。そして、倒れている、翔太朗を包み込んだ。優しい清き水だった。
翔太朗、つまり僕は目を覚ました。
きれいな水の力によって、サソリの毒が浄化されている。
八重が水の力を操っているかに思えた。
八重は僕に歌ってくれている。願いを込めて。
八重の目を見て驚いた。
僕と同じ、『鷲眼の術』が使えるのか。いいや違う、エミリアとエレノアの『獣王眼の術』とも違う。
「「「翔太朗君。」」」
「翔太朗様。」
「翔太朗殿。」
「「ご主人様。」」
みんなが同時に僕を呼んだ。
「よかった、よかった。本当に良かった。」
ミランダは涙をこぼして、僕を抱きしめた。
僕は、八重と目が合う。
「八重。ありがとう。」
八重は微笑みかける。
「これが、『人魚眼の術』の真の力、『フィオナのアリア』という魔法の力ですな。」
マイコフさんは言う。
「セントアリアの初代女王、フィオナ王女が使えた。伝説の魔法。『人魚眼の術』を持つものに仕える。魔法です。『フィオナのアリア』すべての状態異常を癒し、体力を全ていやす。大いなる水の力によって。水と回復の複合魔法です。『フィオナ王女の建国史』という物語に載っています。『伝説の風魔導士』と『密林の賢者』と同じようなセントアリアの物語ですね。セントアリアの王都は昔、フィオナゲートでした。フィオナの門。フィオナ様が海と隣り合わせになるようにフィオナゲートを建てたのです。フィオナ様は人魚と人間のハーフともいわれているのです。やがて、『人魚眼の術』の力が薄れていき、ほかにも様々な事情で、王都は今の場所に遷都されましたが。」
なるほど、王家に伝わる、伝説の魔法が今、よみがえったということだ。
「よくも、よくもやってくれたじゃないか。」
【砂ノ精神】のリーダーが起き上がる。そして。
「我は【砂ノ精神】の総裁。つまり砂ノ精神のトップ。【鳳月影】。こうなったら、貴様らを息子の寅丸と、長治一家とともに、始末するまで。」
月影は、まずは傍に居た八重をつかみ取ろうとするが、カミラさんとジョンが、一気に攻め上げ、月影の動きを振りほどく。
八重の『人魚眼の術』でかなりダメージがあったのだろう。月影の動きが鈍くなった。
「八重様、こちらに。」
カミラさんが僕たちの方に八重を誘導する。
八重は頷く。
そして、僕たちの方に走ってきたが。
「八重、そして翔太朗。すまなかった。一緒に国に帰ろう、こんなすごい術が使えるのなら、お前の両親も見直してくれるだろうし、な、な、今からでも・・・・・・・。そして、翔太朗も、今からならうま~く、半蔵達に説明してやるから・・・・・・。」
遮るように現れたのは長治だった。
ぺこぺこと頭を下げ、先ほどとはまるで違った態度を見せる。
自分の都合で、自分は死にたくないとしているのだろう。
長治の背後に僕は立つ。
八重と僕で、長治を挟むように立っている。
向かい合っている八重に向かってうなずいた。
八重も僕にうなずいてくれた。
「「せーのっ!」」
僕の短剣と、八重の拳が同時に長治に命中する。
「いい加減にしなさい、私も、翔太朗君も、あなたたち風ノ里のご都合主義によって、捨てられました、もうあなたたちは仲間ではありません。敵です。ここで、一緒に倒します。」
「おじさん、いいえ、‘元’叔父上、もっと言います。僕はお前なんて知らない。ここで、消えろ。」
僕は今までの恨みを長治にぶつけた。
ひきつった長治の顔、それを支える。喜助と治美。
「おのれ、おのれ。」
月影、そして、寅丸と寅丸が口寄せした、サソリたちも立ち上がる。
マリアが、結界魔法をもう一度施してくれる。
そして、八重がその結界魔法に併せて、歌を歌っている。
水の結界がさらに僕たちを包み込んだ。
「皆さん、もうあのサソリの毒は怖くありません。ダメージを受けても回復する魔法をあの方の、えっと、マリアさんの結界に組み込みましたので。」
八重もどうやら、忍術よりも、魔法で戦う方が性に合っているようだ。
「八重、魔法を見るの初めてなのに、すごいね。」
僕は言った。
「翔太朗君が魔法使っているのを見て、なんとなくだけど。それに、『人魚眼の術』の目が開いたからかな。なんとなく、わかる気がする。」
八重は僕に笑顔で言った。
月影たち一行が全員で、襲い掛かってきたが。
僕たちは怖くなかった。
「肉体強化~速さ~」
僕は魔法を唱えて、寅丸のサソリに一気に近づき、短剣をサソリの目に命中させた。
勢いよく倒れるサソリ。
それに呼応するかのように襲い掛かった。
ミランダの氷の矢。
そして、双子のエルフたちは、『獣王眼の術』を発動。
「あ、あの目もまさか。」
月影は驚くが、もう遅い。
エルフたちの弓矢が、ミランダの氷の矢とともに、サソリと月影に命中させた。
僕はサソリに攻撃した後、勢いよく、喜助と治美にも攻撃する。
カミラさん、そして、シロンとユキナが援護してくれる。
そして、喜助と治美にも命中させることができた。
風魔法で。一気に喜助と治美を吹き飛ばした。
月影たちは、全員、もう一度立とうとするが、僕たちが与えたダメージが大きいのだろう。
立つだけで精いっぱいの動きをしていた。
「一気に決めるぞ。」
さっきの八重の動きを見て僕も、『鷲眼の術』を使い、風の力を一気に解放しようとした。
八重も頷き、『人魚眼の術』で泉の水をもう一度、解放しようとした。
「私たちもできるかもしれないわね、エレノア。」
エミリアはエレノアを促し、『獣王眼の術』で何か解放できる力はないかと探している。
そして、魔法陣が発動した。
うん、魔法陣の陣形もすぐに思い浮かべて描くことができた。
エミリアとエレノアも同じのようだ。
噴水の泉の水が、勢いよくあふれ出した。先ほどのよりもかなり威力がある。
そして、それに合わせるかのように、大きな竜巻が発動した。
そして、大きな地震、地割れみたいなものも起きた。おそらく、これがエミリアとエレノアの『獣王眼の術』の力なのだろう。
「危ない。」
マリアは、結界魔法をさらに強くした。
【砂ノ精神の塔】が基礎が崩れ、一気に傾いた。
同時に、僕たちが戦っていたフロアは、壁に穴が開き、外が丸見えになった。壁の穴から、月影たちが落ちていくのが見えた。
それを見て、僕は鷲に変身した。
ここも崩れる危ないと見た。
シロンと、ユキナ、ワシ之信と協力し、学級の皆と、ジョンと双子のエルフ、そしてマイコフさんと八重を乗せて、脱出した。
「おーい、おーい」
僕は翼を振った。アルベルトさんやラピス、サファイアの学級の面々が塔の下で待機していた。
「よっしゃ!!」
アルベルトさんはガッツポーズで答えた。僕に突き上げて見せた。
「みんな、戻ろう、引き上げだ。」
アルベルトさんは合図をした。
僕たちも早いタイミングで着陸し、アルベルトさんと合流。
砂ノ精神の本拠地、【砂城市】を勢いよく脱出した。
「よく頑張ったよ、翔太朗君。」
アルベルトさんは、僕に向かってハイタッチする。
僕たちは、最初に拠点にしていた、崖の上に戻っていた。
「姫様、お迎えが送れたこと、そして、今まで私たちの目が行き届いておらず、不快な思いをされたことをお詫びします。本当によくぞ生きてくださいました。」
アルベルトさんは片膝をついて八重に挨拶をした。
「あの、楽にしてください。私は確かに、そちらのカミラさんという方から、聞かされましたけれど、まだ実感がないのです。かしこまらないで接していただけると。」
八重は、正直に言った。
「はは、もったいないお言葉でございます。確かに、そうですね。これから学んでいけばいいのです。」
アルベルトさんは素直に言った。
「皆様、追手が来るかもしれません、急いで逃げましょう。」
僕たちはマイコフさんの指示通り、足早に、砂ノ国を後にした。
全員で一気に南ノ国を目指す。
ここまでくれば、大丈夫。南ノ国での戦争はかなり罪が重いだろう。
途中休憩も何度が挟んだが、南ノ国まで行くことができた。
八重姫奪還作戦はこれで成功した。
「よかったです。無事にみんなで戻ってこられて。」
僕は安堵した表情で言った。
八重はここで初めて涙を流した。
「私は・・・・・・。私は、翔太朗君が生きてて本当に良かった。」
八重に抱きしめられる。
「僕も、無事でよかったです。八重、えっと八重姫様が無事で。」
「八重で良いよ。昔みたいに。」
そういわれてもどこか違和感がある。
僕だけ特別といわれても・・・・・・。僕は少し黙ってしまう。
「「ふう。」」
「「はあ。」」
ミランダ、マリア、リリアン、そしてシロンとユキナはそろってため息だ。
「ははは、みんな元気よく行こうよ。」
「そうだ、喜べ。」
ルカもカミラさんも何か取り繕った表情で、彼女たちを見た。
「改めて、八重様。あなたは、海を越えた東の大陸、セントアリア王国の正当な王位継承者です。ご実感がないかもしれませんが、あなたは、今は亡き、セントアリアのハンス=アリア王子とあなたの母上、舞子=岩月様にできたハンス王子唯一の子供です。今までのことも翔太朗様から聞かされております。どうか、那ノ国と関わるのが嫌でしたら、私たちと来ていただけますか。」
マイコフさんが改めて八重にお願いをした。
「もちろんです。行きます。翔太朗君と一緒ならば。東の大陸のこととかはわからないですけれど。翔太朗君や、皆さんが居てくれるなら。」
みんなこの言葉を聞いて喜んだ。
ミランダ達女性陣は少し、喜んだあと、複雑な表情を浮かべたが。
反対はしていない。当然だ、セントアリアの王位継承者が戻ってきたのだから。
僕たちは船に乗り込み、那ノ大陸を後にした。
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