#95.潜入、砂ノ国
国境近くの町で宿をとる僕たち。
少し北西に行けば、砂ノ国だ。
このまま街道をまっすぐ行って砂ノ国に入っていければいいのだが、単純に関所を抜けられるようなことはできないだろう。
八重の誘拐した組織、【砂ノ精神】は武装集団。しかも反国家的ではなく、親国家的な武装集団であり、実際に【砂ノ精神】が政権を握った時代もある。
八重の父、ハンス王子はこの、【砂ノ精神】が政権を握っていた時代、政権交代したばかりの時に殺されたのだという。
「えっ、そうなのですか。」
この話を聞かされた時、一番驚いたのは実はリリアンだった。
とても神妙な顔でこちらを見て、胸のあたりに手を当ててグーで握りしめている。
「どうした、リリアン?」
僕は聞いてみるが。
「ううん。何でもない。とにかく続けましょう。」
ここからは街道をそれて、国境の森から潜入する。
砂ノ国は文字通り、砂漠と荒野が多い国だ。
砂漠で存在を隠すのは難しいため、迅速な移動が必要になる。
「砂漠での移動は難しい。隠れるものも何もないし、こちらも目立ってしまう。だが、荒野の地帯を通るようにしていけば・・・・・・。」
アルベルトさんの部隊の兵士が言ったが言葉が詰まる。
「何か問題でも。」
アルベルトさんは兵士に尋ねる。
「おそらく、八重さまが囚われているのは、砂ノ国の【砂城市】という町ですね。そこは【砂ノ精神】の本拠地があり、オアシスも周辺に点在している場所です。ここまで行くのはおそらく簡単かもしれませんが、【砂城市】に入ってからが勝負ですね。」
なるほど、そういうことか。敵の本部の街に乗り込んでいくのだ。それなりの覚悟が必要だ。
兵士たちは周辺の地図を僕たちに見せてくれた。
かつて貿易が盛んだった時代の古い地図だった。
「地形はそんなに変わっていないと思いますので。・・・・・・・。」
市の周辺には崖がある。崖の上にこちらは、ベースキャンプを張ってそこから誰かが町の様子を見ることになった。
「翔太朗君。空から行けるか。シロンと、ユキナと一緒に。勿論、ワシ之信殿も。」
アルベルトさんからの提案に、僕は頷く。
「よし、翔太朗君が先に偵察を行ってもらう。ほかに一緒に行く人は、そこに着いてから決めよう。」
アルベルトさんがまとめ上げ、この会議は終了した。
僕たちは先ほどの会議で決まった通り、街道を離れ国境の森から砂ノ国に入った。
森を抜けると荒野が広がっていた。
「ここから砂ノ国ですわね。」
「そうですね、ミラ様。実は僕も初めて入ります。確かにこちらの大陸の空気なんですが。少し緊張しています。」
全員が、砂ノ国の土に一歩踏み出す。
「みんな、ここから気を引き締めていこう。」
僕は、皆に指示を出す。
僕たちの学級、ラピスとサファイアの学級、そして、アルベルトさんたちの兵士たちは隊列を崩さず、荒野を進んだ。
「誰かに監視されているのか、目を光らせないと。」
アルベルトさんがあたりを見回す。
そんなことをしているのか、皆、荒野という環境になれていないのか、すぐに疲れてくる。
「みんな、体調、大丈夫?」
僕が声をかける。もっと早く声をかければよかったと少し後悔する。
「少し休憩にするか。」
全員が、その場に座り込む。確かに砂ノ国。砂漠と荒野の国。昼はとても暑い。
リリアンが、ポーションと、そして錬金術で作ってくれたのか、水筒を配ってくれる。
「特殊な水です。私が錬金しました。」
リリアンが言った。
その水を飲めば、体温が少し下がっていく。
「ありがとう、リリアン。すごいね。」
僕は、リリアンにお礼を言う。アルベルトさんもおんなじだ。
「ああ、水の分子を微妙に調節して、この環境になれるための体にしてくれているようだ。錬金術の天才だね。」
アルベルトさんが褒める。
なるほど、水の分子、そして原料なども調整するのか。錬金術、恐れ入った。
そこから、少し歩いては、休憩してを繰り返した。
日が暮れてキャンプをするということもしたが、夜になると、気温が一気に下がるのも荒野と砂漠の注意すべきこと。
気を付けながら、進んでいった。
そして。
「着きましたね。ここが砂ノ国の【砂城】市の郊外の崖の上ですね。ここから、偵察に行かないとですが。」
崖の上にたどり着く。荒野の崖の上なので、あたり一面は同じ色だ。
少しばかりではあるが、【砂城】市の街並みがうっすら確認できる。
僕は、シロンとユキナ、そしてワシ之信を召喚した。
僕も鷲に変身する。
「翔太朗、お前は誰も乗せなくていい。身軽で飛んで行けよ。訓練ではなく実践だ。」
ワシ之信が言った。僕もその台詞にうなずく。
ワシ之信の背中にはベテランの兵士が乗り込んだ。
「マイコフと言います。かつて、王子様とともに砂ノ国に行ったこともあります。」
「俺の師団の中でも一番のベテランだ。大丈夫だよ。翔太朗君。守ってくれるさ。」
アルベルトさんがマイコフさんの紹介をした。
シロンとユキナの背中には、マリアと、サファイアが乗り込む。
マリアは結界魔法要員でサファイアは当然、万が一の攻撃を防衛するために乗り込んだ。
「では、行ってきます。」
僕は、そういって、飛び立っていく。
「気を付けてくださいね。翔太朗様。」
ミランダ達に見送られて、いざ、【砂城】市へ。
マリアが、僕たちに結界魔法をかけてくれる。
相手からは見えないようにできるのだそうだ。ただぶつかったときの衝撃は変わらないので、よけて飛ぶように指示がある。
砂城市がはっきり見えてきた。
まるで、砂漠の真ん中にでかい町がある、そんな印象を持った場所だ。
「これは・・・・・・・・。」
マイコフさんが驚く。
僕もそして、皆も目を丸くした。
僕たちの視線の先、町の中心部には大きな塔がある。
「驚きました。以前この国と貿易をしていた時は、この塔は影も形もなかった。かなり頑丈にしっかり作られていますね。塔の外壁は鉄板で覆われていますね。」
マイコフさんは冷静に分析する。
「少し失礼しますね。」
マイコフさんは目を閉じ、魔法陣を出現させた。
「うん。どうやらあの塔のどこかに、八重様が囚われている可能性が高いですね。」
「はい、私もそう思います。」
マイコフさんと、サファイアが頷く。
「『サーチ』という探知魔法ですね。サファイア殿も同じような魔法が使えそうですね。」
なるほど、探知魔法か。
「ええ、探知魔法の結果から、あの塔の中に、おそらく、囚われているのかと。ただ、困りましたね。」
マイコフさんは少し、うつむいた表情をしている。
確かにそうだ。この町、かなり防衛機能がしっかりしている。
町も外壁で覆われ、周りは砂漠地帯。侵入者ははっきりとわかる。
おまけにあの塔も、かなり防衛機能がある。どうしたものか。
「ここまで行くとなると、本当にどうやって侵入しようとしているのか困りますね。」
僕はマイコフさんたちに言った。
「素直に今結界を解いて、空から侵入するというのもありですが、人数に制限がありますし、集中攻撃を受けてしまいますね。」
「それに、この町、全員が武装集団の見方をして、町全体が敵になることもあり得ます。」
サファイアとマイコフさんが冷静に話を進める。
僕もそんな感じだ。
「まったく、うわさには聞いていたが、この数年間で、【砂ノ精神】はそれだけ力をつけたということだな。トン吉は一体どうやって切り抜けるだろうか。」
ワシ之信は考えを巡らせる。
どうやら、【砂ノ精神】のこの国の支配はますます強まっているようだ。
調査が済んだところで引き上げた。
荒野の崖の上で待っている、アルベルトさんに報告した。
「とてつもない防衛だな。もう一度潜入して、といっても今度は地上から潜入して、町の様子を探ろう。八重さんの結界魔法で、もう一度、地上から潜入できないだろうか。」
アルベルトさんの指示があった。
確かにそうだ、次は地上から町の様子を探る必要がある。
無事に砂ノ国に潜入できた僕たち、今度は相手の本拠地に乗り込む作戦だ。
作戦実施のために、もう一度、行くことにした。
しかし、本拠地に向かうことということでもあるので、少し緊張してくる僕がここにいた。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
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