#94.南ノ国、再び
対忍者の修業を初めて数日後。僕は教えるのも少しずつではあるが慣れてきた。
みんな、僕の話を聞いてくれ、実践してくれる。
特に、エミリアとエレノアの双子のエルフは、魔道武術大会で僕と対戦して、負けたからだろうか。
かなりうまくなっているのが分かる。
おそらく、もう一度対戦してくれと言われたら僕は確実に二人に負けているだろう。
そんなことを思いながらこの船の上での数日は過ごした。
修業の時間以外の時は、部屋にこもって水晶玉で、魔道学院の授業を見ている。
いわゆる、魔道式、リモートオンライン授業だ。
長期任務でもあるからか、このような対応をポールさんはしてくれた。
ピエール先生も同じく、船の上から、魔法の水晶玉で、大教室の授業を配信しているようだ。
この東の大陸の水晶玉は、いわゆる魔法の投影機になっている。
だから、魔道武術大会の試合も、控室からこの水晶の投影を使って、試合が観戦できたのだ。
そんなことをしているうちに、陸が見えてきた。
今乗っている船は行軍用の船ということもあり、軍の運用で使われることから、普通の定期船や客船よりは早く移動できることが魅力だ。
最初にセントアリア王国に来た時よりも速い時間で西の大陸、つまり、那ノ大陸に着いた。
「翔太朗君と出会った、南ノ国だね。」
アルベルトさんは言った。
「砂ノ国はここから北西に行けばいい。翔太朗君の那ノ国は、真北に行けばよかったよね。」
アルベルトさんはさらに続ける。
忍者学校の地理の授業は那ノ大陸の話しかなかった。
海の向こうの地理の話は、忍者になってから、もしくは、一般の文官を目指す人の、中等学校でやるものだった。
優秀な兄が居たので、そういった知識は兄にのみ教えられていた苦い記憶がよみがえる。
アルベルトさんは船の操縦士に指示し、南ノ国のセントアリアの大使館に船を停泊させた。
故に、セントアリアの大使館は海沿いにある。セントアリアの船が停泊できるようにするためだ。
僕たちが乗っている船は、大きい船だったため、魔法で小さくして、船を停泊させ、僕たちは船を降りた。
「懐かしいですわね。ここで翔太朗様と初めて出会いましたね。」
ミランダが言う。
確かにそうだ、その時とあまり変わっていない。
セントアリアに来てから、数か月くらいなので、あまり変わっていない方が正しいのだが、なぜかミランダ達と過ごした時間が長いように感じた。
南の国の街並みを歩く。
本当に変わらないが、前来たときは遠い昔だった気がする。
両親に捨てられ、ミランダと出会った国。遠い昔の記憶のようだった。
「ご主人様、つらいようでしたら、無理なさらないでくださいね。」
シロンが少し寄り添うように歩く。
「大丈夫、心配していないさ、ただ古い記憶に感じるだけ、それだけ、皆と密度の濃い時間を過ごしたんだよ。」
「そういっていただけてうれしいです。本当に良かった。」
シロンは安堵し、涙を浮かべる。
「こらこら、まだ安心するのは早いよ。何の目的で、こっちに来たか、わからなくなるだろう。」
「はい、ごめんなさい。」
しかし、その気持ちがうれしい。
いま、寄り添ってくれる友がいる。
僕たちは南ノ国を休む間もなく出発した。
目指すは、八重が囚われているであろう、砂ノ国。
南ノ国は観光と貿易が盛んな永世中立国である。戦争をしない、国際関係にかかわらない代わりに各国からの商売、流通を何もかも受け入れる仕組みだ。世界中のいろいろな国の大使館が軒を連ねるのだ。セントアリアもこの那ノ大陸の拠点は南ノ国だという。
その分闇取引も多いデメリットもある。治安のよいところ、悪いところは表裏一体なのだ。
その治安の悪い部分を見たのだろうか。僕とミランダとカミラさんは盗賊に襲われてけがをしているところで出会ったのだ。
那ノ大陸の国々は、南ノ国から中心に、東西南北、四方八方に街道が伸びる。
故に、砂ノ国の国境まで余裕で行くことができた。
砂ノ国の国境に近い町で宿をとることにした。
代表者は僕の名前を使い、気付かれないように配慮していた。
明日はいよいよ、砂ノ国。
少し緊張してきたが、ゆっくり眠っていた。
そう、言われてみればここは僕の出身の大陸だ。方向が分かっているだけありがたかった。
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