#93.翔太朗先生
八重が連れ去られた。という一報を聞きつけ、すぐに兵士たちが準備された。
とはいっても、八重が生きているということは、まだ国民には秘匿事項のため、アルベルトさんと、ルーベルトの父、ティーレマンさんの部隊の中でも、一部の兵士たちがやってきた。
だが、この国の存亡がかかるため、急ぐ必要があった。
そして、僕たちはフィオナゲートに来ている。
ここから再び、船に乗って、僕の出身の大陸へ向かう。
僕たちの学級と、ボーラン士官学校のラピスとサファイアの学級のメンバー。そして、フィリーネさん、カミラさん、ピエール先生、アルベルトさんとパメラさん、そして、アルベルトさんの部隊とティーレマンさんの部隊からの一部の兵士たちが集まった。
「みんなよろしく頼む。国王様からのご命令、極秘任務だ。心してかかってくれ。」
ポールさんは見送りに来ていた。
「アルベルトよ、今回ばかりは武運を祈っている。必ずや王女様を。そして、君の部隊の残った兵たちは私が面倒を見ることになっている。頼む本当に頼む。」
ティーレマンさんも見送りに来ている。
二人に見送られて、僕たちは船に乗り込んだ。
国王陛下から用意された船は、とても大きな船だった。
船の航海中も兵士たちの訓練ができるという。
そして、もっと大きな人数を乗せることもできるのだそうだ。
「向こうの大陸の玄関口、南ノ国には海沿いに我が国の大使館があるので、そこに船をつけてくれ。魔法で小さく見せることも可能なので、必要があればそれを使ってくれ。操縦できる人間は僕たちの部隊から出しているからな。君たちはゆっくり戦いに備えてくれ。」
ティーレマンさんは僕たちにアドバイスをくれた。
「了解だ。ありがとう、今回ばかりは礼を言うよ。ティーレマン。」
アルベルトさんも船に乗り込む。
それにしても、二人とも、今回ばかりは・・・・・・・。という発言だ。
ライバルでもあるが、よき理解者。なるほどね。
ポールさんとティーレマンさんに見送られながら、僕たちの乗った船は、港町フィオナゲートの桟橋から離れたのだった。
八重を連れ去った奴らから、セントアリアの国宝をよこせというような密書が来た時、国王カルロス=アリア3世はすぐに、極秘で今回の兵士団を結成した。
そして、すぐに僕のもと住んでいた大陸へ向けて、出発の準備を整えてくれたのだった。
だけれども。
「この任務のリーダーは翔太朗君が相応しい。そして、セディア魔道学院のみんなが中心となってまとめてほしい。」
と、国王からの直々の命令。
僕が、この部隊のリーダ。とても緊張する。
ただでさえ、僕の学級のメンバーをまとめるのだって難しいのに。僕よりも明らかに戦闘能力の高い、ラピスとサファイアもまとめるなんて。それに、ギリギリ競り勝ったメンバーもいる。
少し緊張してきたが、仕方がない。
「翔太朗君は、翔太朗君のやり方でいいんだよ。」
アルベルトさんが緊張している僕を見ていった。
そして、アルベルトさんはポンポンと手をたたいて、皆を集めた。
「みんな、国王陛下からの重大な任務、極秘任務。本当にお疲れ様。これからかなり大変になるだろうけれど、力を合わせて頑張ろう。なーに、魔道武術大会で、上位の成績を収めた君たちなら、絶対やれる。」
さすがは師団長だ。まとめるのが上手いな、と感心してしまう僕。
「さて、今回の相手は、『忍者』というものを相手にすることになる。戦い方も独特で、君たちとの戦い方とは違ったものが多い。というわけで、この大陸までの航海期間中はその『忍者』との戦い方に慣れてもらうための修業を行おうと思う。と、言うわけで、早速、修業の先生をお呼びしよう。僕たちの討伐体のリーダーで、セディア魔道学院の1年5組の級長、翔太朗君だ!!」
「????」
僕の頭の中が疑問でいっぱいだ。
呆然と立ち尽くす僕。
「翔太朗君、何をぼーっとしている。君のことだよ。」
アルベルトさんに促されて、僕は改めてみんなの前に出る。
「素敵ですよ。翔太朗様!!」
ミランダが、僕のことを持ち上げてくれる。
「同感だ、実際に忍者出身の君が居れば本当にありがたい。」
ルーベルトが言った。
「まあ、今回ばかりはルーベルトの意見を認めますわよ。魔道武術大会で見せてくれた独特のパフォーマンスを期待していますわ。」
珍しくダコタが同情した。だがその顔には明らかに、絶対僕を超えますというような表情だった。
「そうですね。私たちも、『忍者』の動きについていくのがやっとで負けてしまいましたし。今回を機に見分を広げたいです。」
僕と実際に武術大会で、戦った、エミリアは相応の好奇心がある。
「うん、うん、おねーちゃんの意見に私もついて行こうかな。」
こちらのエレノアも、表面的にはこういっただけで、次は絶対、お前には負けねえ、という表情をしている。
「と、言うことで満場一致のようだね。僕も素早い動きに慣れたいな。」
アンソニーがまとめる。
そして、ラピス、サファイアも頷いた。
「「よろしくお願いします。」」
と。
「それじゃ決まりだね。翔太朗君、まとめの言葉を。」
アルベルトさんに促された。
そうだ、僕はこんな所では立ち止まっていられない。みんなで八重を助けるんだ。
「よろしくお願いします。僕も一生懸命頑張ります。みんなで、この国の未来を勝ち取りましょう。」
と僕は挨拶をした。
みんなで、気合入れを行い、準備は万端。
早速アルベルトさんに促され、船の甲板に出た。
その甲板はとても広く、鍛錬も思う存分にできそうだ。
「広いだろう。そりゃそうだ。セントアリアの軍を輸送するために設計された船なんだからな。当然、船の中でも鍛錬ができるようにしている。さあ、翔太朗君、いや、翔太朗先生、始めてくれ。」
僕は、早速、ワシ之信を召喚した。当然、シロンとユキナにも話を聞いてもらおうと思い、先に召喚している。
鷲という従魔であるが、彼もまた忍者であることに変わりはない。むしろ、忍者の能力はワシ之信が僕より上だ。
「では、僕とワシ之信で、忍者の動き方、戦い方をレクチャーします。」
そういって、何から始めようか迷ったが。
「基本的には忍者はみんな身軽で素早い動きをしていきます。全部が全部というわけではないですが、平均的には素早さはみんな高い方です。」
まずは大体の特徴を把握していく。
確かに素早く移動できる忍者がそろっていたよな、と思う。
次は忍者が使う武器を紹介した。
手裏剣、クナイ。これらを投げて戦うということ。
そして、やり方は違えど、魔法とほぼ同じ忍術を繰り出してくことを説明した。
大方口で説明することは説明し終えたと思う。
セントアリアと、砂ノ国の関係はみんな知っているだろうし、ここで改めて取り入れる必要はないかと思う。
いよいよ実践だ。僕は忍者の持ち物は何もなかったため、ワシ之信から借りることになった。
手裏剣もクナイも久しぶりだ。
「無理はするなよ。翔太朗。今のお前は『忍者』ではなく、『魔導士』だ。印を結ぶのは必ず魔法陣で代用しろよ。ほかにもいろいろな。」
ワシ之信の忠告に、僕は頷く。
実戦は魔道武術大会で披露した。
分身の術、そして変わり身の術を見せつつ、一人一人、実戦の相手をしていく。
「忍術も魔法と同じように、その人のオリジナルの術があります。そこは目、もしくは『魔力』の感じ方で慣れてもらうとして、分身の術や変わり身の術は誰もが使う基本の術なので覚えていてください。」
『魔力』のことは『チャクラ』ともいうが、そこは説明しなかった。
おそらく、『魔力』の感じ方さえわかれば、呼び方は違えど、対応はできるはずだった。
思った通り、少しづつではあるが忍者との戦い方に慣れて言っている様子だ。
やはり、ラピスとサファイアは、群を抜いている。おそらくどんな敵が出てきても大丈夫だろう。
「コツ、つかんできました。」
「私も、行けそうです。」
ラピスと、サファイアは、丁寧にどのような戦い方で攻めてくるのか観察しているようだが、その必要もないくらい強い。
マリアもおそらく結界魔法があれば対応できる。
「うん。翔太朗君は教えるのが上手いです。」
「ありがとう、でも、ほとんどはマリアが強いからだよ。」
僕はそう言って、マリアの方を向いた。
エミリアとエレノアもどんどん、僕、つまり忍者の戦い方を吸収しようとしているようだった。
その成長ぶりには目を見張るものがある。
「僕は、もう一回二人と戦えと言ったら負けると思う。」
「やったー!じゃ勝負しよう!!」
元気なエレノアをエミリアが止めに入る。
「今、翔太朗君と魔道武術大会レベルの勝負をしちゃだめ。ほかの人だって翔太朗君は見ているんだから。それに本番は砂ノ国の人達よ。」
「はーい。まったく、お姉ちゃんは・・・・・。」
エレノアはふてくされたかのようだ。
素早さの遅い、アンソニーが少し心配だったが、それも無用だった。
彼には、防御魔法が使える。この使い方を活かして、相手を引き付ける方法をレクチャーしたほうがいいなと思い、ワシ之信と協力することにした。
アンソニーだけでなく、僕たちの学級はスピードが課題。この面では僕に頼り切っていた。
ひきつけて防御できる魔法を持っている、マリアとアンソニーは大丈夫だが、ほかの仲間はどう攻略していくか。
基本的に、ひきつけて、倒すような作戦を立てるようにした。
そして。
「なるほど、敵を倒しても気を抜いちゃいけないということだね。」
ルカが僕と実践を積んでいくうちに思った。
「分身や変わり身の可能性だってあるわけだ。」
僕がルカと、実戦の相手をし、分身の術や変わり身の術を披露していく。
「うん。すでにどこかからか観察されてると思った方がいいよ。」
僕は、ルカにわかりやすく説明する。
そうこうしているうちに、日も暮れてきて、今日の僕のレクチャーはここまでとなる。
「お疲れ様、翔太朗先生。私も頑張ろうと思えたわ。」
一緒に来ているパメラさんが今日の内容を振りかえってくれた。
「ああ。教えるのが上手いのではないか、翔太朗殿、いや、翔太朗先生。」
カミラさんが、僕に微笑む。
「これが、『忍者』なのですね。」
ミランダも、興味がありそうに言った。
「まあ、『忍者』という面では僕が一番弱かったからな。もっと強い相手と戦うことになります。」
僕は素直に言った。確かにそうだ。僕も、魔導士という才能を手に入れたが、果たして、『忍者』にどの程度対応できるかわからない。
だが、八重を助けたいという思いが動かしているのか。
僕は、負けられなかった。
「お疲れ様、翔太朗先生、とりあえず、船が、南ノ国に着くまで、みんなの修業を頼むよ。今日はとてもいい出来だったよ。」
アルベルトさんにポンポンと肩をたたかれる。
こうして、僕の修業の先生としての一日が無事に終わった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
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