#9.謎の男
ドーン!!
優しい森の風の中から、とてつもない風と、とてつもない音がした。
黒い、僕たちと同じくらいの背丈の獣がそこにはいた。
ただし、獣の顔だけで、僕たちと同じ背丈であり、その顔の後ろに長い胴体があった。
蟹・・・・。
両腕にハサミ。かたい甲羅でおおわれている。
いや違う。
蟹ではない。なぜならば、尾がある。そして、尾の先には棘、鋭い棘がある。
その黒い蟹のような獣の前に、黒ずくめの、男が立っていた。
サングラスをしてに、にやりと口元が笑いながらこちらを見ている。
「感動のお取込み中すまないね。すまないね~。」
甲高い声で、サングラスの男は言った。
「おい。そこのひょろひょろ少年。お前は動くなよ。」
サングラスの男は僕に行った。そして、八重の方を男は見た。
「そちらの、赤髪の御嬢さん。僕と一緒に来ていただこう。」
八重も、僕も足をすくんでいる。
服装、身なり、この里の、いや那ノ国の忍者ではない。
蟹のような獣は、おそらくこのサングラスの男の口寄せした魔物だろう。
この蟹のような獣も、この国では見ない。
心臓が高鳴る。
その時、八重は一目散にサングラスの男に背を向けて、逃げた。
僕もそれに続いたが。
「おっと、いけませんな。」
目の前にサングラスの男が立ちはだかり、八重の手首をつかみ、もう片方の腕を、彼女の方に回した。手にはクナイを持っている。
しまった。分身の術だ。
サングラスの男の分身は、そのまま八重を連れて、僕の頭上を通りこし、サングラスの男の本体に、八重を引き渡して、消えた。
「さて、これでミッション完了。」
サングラスの男はつぶやく。
「さて、ひょろひょろ少年君。」
サングラスの男は、僕を見る。
男は八重の首周りに腕を回している。先ほどの分身と同じ動きだ。
「この赤髪女は俺が預かる。君は弱そうだし、僕に反撃もできないだろう。だから、ここで君を痛みつけるのは僕の仕事ではない。」
僕はドキドキしていた、手も足も出ない。
足がすくんでいる。
「君に一つ、誓約していただこう。そうすれば君は殺さない。」
一瞬の沈黙、そして
「このことは里のみんなには話さないこと。先生にも、家族の人にも。誰に何を聞かれてもこの赤髪の女の子は知らないということ。今日は会っていないということ。それだけだよ。」
どうしたらいいかわからない。確かに、僕は里では嫌われ者だ。
このサングラス男の言うとおりにできるだろうし、八重の行方は僕に聞かれることもないだろう。
命が助かるなら。
しかし八重を連れ去っていくことに関しては、何が何でも止めなければ・・・・・。
彼女は、僕の仲間なのだから。
「翔太朗君・・・・。にげて・・・・。そのひとのいう通りにして・・・・・・。」
八重の口がこのように動く。
声は聞き取れないが、目と口の動きでわかる。
「できるなら、このまま僕がこの子を連れ去っていくのを黙って見届けてもらいましょう。さようなら。ひょろひょろ少年君。」
僕に背を向け、サングラス男と、黒い蟹のような獣は去っていく。
このまま黙って、八重がさらわれるのを見届ける。
そんなのだめだ。
八重は僕の友達、初めての同じ、風ノ里の仲間だ。
とっさだった、僕は持っていた忍具、クナイを取り出し。
その黒い蟹の獣と、サングラス男の背に向けて、クナイを投げた。
クナイは、黒い蟹のような獣の尻尾に届いた。いつもなら、的に届かずに終わってしまうのに。
それで、実技科目は減点されるのに。今日はなぜか届いた。
これは何だろう。誰かを守ろうとする気持ちなのか。
だが、届いたクナイは、黒い蟹のような獣に、気付かれ、かたい甲羅でおおわれた尻尾ではじかれてしまった。
そして、サングラス男と、蟹のような魔物がもう一度振りかえる。
「その子を話せ、サングラス野郎!!」
僕は、叫んだ。感情を押し出して叫んだ。
「ほほう。君は殺したくなかったのですが、仕方ありませんね・・・・・・。立ち向かう勇気は認めますか。」
サングラス男が襲い掛かってきた。
とっさだった。僕はクナイをもって、防御する。
それが精いっぱいだった。
防御して、攻撃をかわす。
防御、よける。防御。攻撃をよける。
その繰り返しが精いっぱいだった。
だんだんと、だんだんと、僕は後ずさりしているのがわかった。
術の印もろくに結べないのだから。
丁寧に正確に術の印を結んでいる間に、攻撃を受けてしまう。
攻撃をよけながら、後ろに少しずつ下がっていたためか。
ついに森の木に、背中をぶつけてしまった。
サングラス男に、首をつかまれ、木にはりつけにされる状態になった。
「ひょろひょろ少年君。その覚悟は素晴らしい。特別に苦しまないような死に方をしてあげましょう。動かないでくださいね。」
蟹のような獣が、尻尾の先を僕に向けてくる。
「ゆっくり彼に刺してあげなさい。注射をする感じで。」
サングラス男は、その魔物に、命令した。
「こいつの尻尾の先には毒があります。それでいいですよね。」
サングラス男は僕に向かっていった。
僕は、手を、指をバタバタしている。
それが精いっぱい。
そして、声が漏れた。感情が爆発した。
「やめろ・・・・、やめろ・・・・!!八重を離せ・・・・・・!!」
僕は叫んだ、叫んだが、首をつかまれているので、声はあまり出なかったが。
心の中で、その分叫んだ。
その時だった、僕の手の、指の先から、緑色だろうか。輝く光が出るのがわかった。
ビューン!!
「なにっ!!」
サングラス男は僕の手を離し、そして、その勢いで、八重も解放された。
僕は、八重をキャッチする。
ずしんときて、八重の重みに、僕は彼女の下敷きになって倒れてしまうと思ったのだが、うまくキャッチできた。
ものすごい、大きな突風だった。
この森の、この薬草園の泉周辺の草木が、一気に飛ばされてしまい。緑に生い茂った草木が、跡形もなく、土の色だけがそこには残った。
周辺の木々も飛ばされており、切り株だけが、そこに残っていた。
サングラス男と蟹のような魔物は突風に吹き飛ばされた。
そして、足からではなく、胴体から勢い良く地面に着地したため、かなりのダメージを受けている。
「な、なぜこんな突風が・・・・・・。風を操る・・・・・。」
サングラス男の表情が変わるのが、サングラス越しだが僕にはわかった。
「この風・・・。まさか・・・・。貴様・・・・。あの吉田一族の・・・・・。」
「その通り、コイツは、吉田一族の一人、烈風の双子と呼ばれる、吉田翔太朗だ。」
上空から、大きな声がした。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
もちろん、まだまだ続きます。
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