#89.『伝説の風魔導士』と『密林の賢者』
【伝説の風魔導士】
昔々、あるところに、一人の若者が居ました。
若者は風を操る魔法が使えました。
風を操っては、風と対話をし、村の仲間たちと過ごしながら、幸せな日々を送っていました。
しかし、その幸せな日々は長く続きませんでした。
陸では、戦争や反乱が相次ぎ多くの人々が死んでいきました。
空では、古の魔物古竜と呼ばれる、最強のドラゴンを筆頭に、ドラゴンたちが暴れまわりました。
そんなある日、悪い王様が居ました。
その悪い王様は、この世界のすべてを自分のものにしたいと考えました。
そうして思いました。
ドラゴンと手を組んで世界のすべてを手に入れようと。
悪い王様は、自分たちの手下を引き連れて、ドラゴンたちに挑みました。
そうしてドラゴンたちは、悪い王様と手を組むことを許してしまいました。
そして、ドラゴンたちは勢いよく、攻撃をし、野山をますます暴れまわりました。
戦争はますます悪化し、さらに多くの人が犠牲になりました。
そして、若者の村にも、そのドラゴンは襲い掛かり、若者の村を焼け野原にしてしまいました。
若者は泣き崩れました。お父さん、お母さん、恋人、友達、全てをドラゴンと悪い王様に殺されてしまったのです。
若者は立ち上がりました。そして、新しい場所を求めて旅立ちました。
若者の目に、一人の鷲が罠にかかっていました。おそらくドラゴンたちにやられてしまったと若者は思いました。
若者はその鷲を助けました。
鷲は言いました。
「助けてくれて、ありがとうございます。お礼に、お供させてください。」
その鷲は、若者の仲間になりました。
またあるところで、若者は鷲同士でケンカしているところを見かけました。
どうやらケンカしている鷲二頭は、二頭ともドラゴンに自分の住みかを奪われてしまったようです。
若者はケンカを止めました。
そうして、ケンカしていた鷲二頭も若者の仲間になりました。
そんなことを繰り返しているうちに、鷲たちの間で、若者の心優しい評判があふれるようになり、ドラゴンたちに傷ついた、鷲が若者のところに集まるようになりました。
そして、世界中のすべての鷲が、若者のもとに集まりました。
鷲たちは若者の寛大さに感謝し、若者に不思議な力を与えました。
『鷲眼の術』と言われる、この術で、若者と鷲たちはドラゴンに戦いを挑みました。
それを見た人間たちは、希望を持ち、最後には、ドラゴンと悪い王様を倒すことができました。
人々はこういいました。
「『伝説の風魔導士』が現れた。」
若者は『伝説の風魔導士』になり、新しい国の王様になり、幸せに暮らしました。
―――おしまい――――
【密林の賢者】
昔々、森の奥のそのまた奥に、賢者と呼ばれる魔法使いが済んでいました。
すべての魔法と出会いたい賢者は、いろいろな研究をしていました。
そんな時に、森の民族たちが狙われる戦争がやってきました。
森の民族たちはおびえて、密林の賢者に助けを求めに行こうとしました。
だが、密林の賢者は人々の願いに応えることなく、自分の研究に打ち込んでいました。
そうこうしているうちに、森が焼かれ始めてきています。
森の民族たちはもうおしまいだと、思い、逃げ惑うようになりました。
あるものは森の奥のさらに奥へ、あるものは、森を抜けだし、別の森へ山へ、海へ。
バラバラになった民族たち。
しかし、密林の賢者は、そんなことは気にしていないように、森を動かずじっと耐えていました。
ですが、森は燃え続ける一方です。そうしているうちに、逃げているのは人間だけでなく、森の魔物たちも逃げるようになりました。
そうして、賢者の居る場所に、一匹の森の奥に住む虎が迷い込んできました。
その虎は、いかにも炎の火傷でひどく傷ついていました。
賢者はその虎を見て哀れに思ったのか、虎の手当てをしました。
自分の研究していた回復魔法で。
虎はたちまち元気になりました。
虎は賢者に感謝しました。そして、賢者に言いました。
「お前はなぜ、逃げないのか。」
賢者は答えました。
「逃げたい気持ちはある。だが、逃げても無駄だ。長らく私は、人と関わっていない、さげすまれるだけだと。」
虎は言いました。
「それならば我とともに行こうではないか。そなたの勇気を多くの人に見てもらおうではないか。」
虎の粘り強い説得に賢者は折れ、共に戦う覚悟を決めました。
この虎は、この森の守り神と呼ばれる虎でした。
守り神の虎は、賢者に力を与えました。『獣王眼の術』です。
そうして、不思議な力を得た賢者は、炎を見事沈めることができました。
森の民族が戻ってきました。そうして、人々は賢者に感謝しました。
それ以来、賢者の周りにはいつも人があふれて、幸せに暮らしました。
―――おしまい――――
感謝祭の後半。僕はミランダに連れられて、王立図書館に来ていた。
魔道武術大会の激闘もあって、感謝祭の後半は修業や実践などは完全オフとなった。
この図書館は静かだった。当然、図書館は静かなのが当たり前だが、今は感謝祭。
そして、この図書館は、王都の中央広場、中央の噴水を対照にして、冒険者ギルド本部とちょうど反対側にある。つまり、冒険者ギルドが東にあれば、この図書館は広場の西にあるということだ。
つまり、外に出れば感謝祭真っただ中の騒がしい中央広場なのだ。
図書館は静かでも、外からはかすかに、感謝祭の騒がしい声が聞こえる。
僕の他にはミランダの他に、シロンとユキナ、そしてリリアンが来ていた。
ワシ之信は調べ物があるというので引きこもり、執事のアレックスさん、カミラさんは昨日のパーティーの後片付けがあるからといって、僕たちだけでここに来ていた。
ちなみに、ポールさんやアルベルトさん、パメラさんはほかの場所で、感謝祭を楽しんでいるようだ。
「これを翔太朗様に見せたかったのです。」
ミランダは、この『伝説の風魔導士』と『密林の賢者』の本を僕に見せてくれた。
その本はどちらも古い本で、千年以上前から伝わる物語であるということがうかがえる。
「千年以上前の文字なので、訳し方やより詳細なものなどもあるのですが、これが一番わかりやすいかと、それに、どれも同じような内容で書かれていますので。」
ミランダは説明してくれる。
「なるほど、確かに『鷲眼の術』ってあるね。」
「はい。」
僕は、少しドキドキする。
「すごい、こんな昔からの古い魔法だなんて。」
リリアンも感動しているようだ。
「ご主人様に会えるのを私たちはずっと待ってたんだよ。鷲たちを代表してお礼しちゃおう。」
「ご主人様。本当にすごいですね。この風魔導士は。」
シロンとユキナもこの話は知っているようだ。
「でも、どうして・・・・・。」
僕は、口を閉じた。
「どうかしたのですか、翔太朗様?」
ミランダは、僕に尋ねてくる。
「ううん。何でもないんだ。」
そうだ、ここにはリリアンがいる。僕の素性は安易にばらしてはいけないのだった。
僕の疑問はこうだ。
なんで、この大陸のおとぎ話なのに、僕は違う大陸の出身なんだろう。ということ。
しかも、那ノ国にはこのお話の本なんて、一冊もなかった。
『鷲眼の術』の伝説は口頭で伝わっていただけだった。
ただ、僕の先祖はかつて、全ての鷲を契約し、口寄せ(召喚)できた人物としか、聞いていなかった。
ここには、それ以上に詳細が残っていて、驚いていた。
「まあ、細かいこと考えても仕方ないよね。」
僕は、ミランダに開き直ったように言った。
「そうですね。とにかく、翔太朗様はすごいということです。」
「うん、翔太朗君は最高だね。」
「「すごいです、ご主人様。」」
感謝祭の後半。昨日の誕生日パーティーの余韻にまだ僕は浸っていた。
昨日は本当に最高の時間だった。
パーティーが明け方近くまで続いたので、目が覚めたのは昼頃だった。
ミランダ達も同時に目が覚めたようで、王都を一緒に散歩することになり、この図書館に連れてきてもらったのだった。
「シロン、ユキナ。」
「「はい。」」
「ジュース屋に行ってもいい?」
「「もちろんです。」」
僕たちは本を棚に戻して、図書館を出た。細かいことを気にしていても仕方がない。
僕たちは広場を南下し、ジュース屋に向かった。昨日、シロンたちからくれた無料券を使って、タピオカドリンクを楽しんだ。
ミランダとリリアンは向かいの店で、クレープを買って食べていた。
「ジュース、好きなんですね。翔太朗様。」
ミランダが聞いてきたので、僕は頷く。
一日の午後のひと時。それは心温まる時間だった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
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