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#88.風ノ里のその後、その6~Side 八重~


 風ノ里にも収穫の時期を迎え、感謝祭の時期が存在する。

 当然だが、感謝祭のやり方はセントアリアと大きく異なるが、少しばかりお休みが与えられるのは変わりがない。


 忍者学校もしばらくの間、感謝祭でお休みになると思われたのだが・・・・・・。


 八重のクラスの担任が教室に入ってきた。

 「みんな、すごいことを発表するぞ。今年の感謝祭はこの学年のみんな全員での修学旅行だ。」

 学級のみんなが、ぽかーんとしている。


 それもそのはず、修学旅行は初めてなので、修学旅行という意味を理解していないからだ。


 「クラスのみんな全員で、旅行に行くのさ。しかもなんと、那ノ国の古都。長都(ちょうと)市だ。」

 それを聞いて、クラスのメンバーが騒ぎを起こす。


 長都(ちょうと)市は。那ノ国の首都に次ぐ第2位の都市であるが、歴史の方は首都の倍近く長い。

 古い建物もいくつかあり、周辺には伝統ある温泉や高級旅館が立ち並ぶ、那ノ国一の観光スポットだ。


 この忍者の隠れ里の忍者の卵からすれば、そんなすごい場所に行けるのは素晴らしい。と思い、騒ぎだしたのだろう。


 「おお、意味を理解したな。よかったよかった。」

 そして、担任はさらに大声を出す。

 「だが、これは、修学旅行といって、学問の旅行でもある。実際に那ノ国の歴史を学ぶ時でもある。みんな、事前に調べ物をして出かけることを忘れないように!!」

 教室はシーンと静まり返った。


 そう、新しい里長は、早速政策を実施したのだ。

 外国の南ノ国を最初は候補として、考えていたが、予算の関係上、まずは国内で実施することがいいのではということになり、同じ国の歴史のある都市、長都市に決まった。

 国内であれば、馬車で数時間前後で行くことができる。国内ということもあり、人数分の馬車を手配することくらい、容易にできた。

 そして、宿をとるのも簡単であったのだった。

 ゆえに、里長が交代してから、わずかな期間で、行くことができた。

 


 さて、その修学旅行に八重も参加することになった。

 というか、里長が代わったので、そうなることになる。一人だけ欠席というわけにはいかない。


 「はあ。本当は多重にこういうことさせてあげたかったのに・・・・・・。」

 「本当だ、金が余計にるではないか、この日だけ多重と交換できないものか。」

 八重の両親、耕三と富子は、いやいや八重に向かって言った。


 八重自身も元気がなかった。

 家もそうだが、結局はクラスでいじめにあっているので、旅行の時もきっとみじめな扱いを受けるのだろう。

 どこかで一人になる時間が好きだった。


 「なんで、こんな人が里長になってしまったのだろう・・・・・・。」

 八重はひどく落ち込んでいた。

 とはいえ、修学旅行のしおりを確認すると、自由行動の時間がいくつかあるのだという。

 おそらくその時間、八重は一人になるだろう。

 そこに期待して、八重は修学旅行に行くことにした。



 そして迎えた修学旅行の朝。

 「もう二度と帰ってこなくてもいいからな。せいぜい惨めな気持ちで過ごしてこい。」

 「帰ってくるならお土産100個頼むわ、もちろん自腹で。」

 そんな言葉で両親に送り出されて出発した。


 なんと心無い人なのだろう。


 八重は忍者学校に到着すると、馬車に乗り込み、長都市へ出かけた。

 案の定、八重に話しかける生徒はだれ一人おらず、ただただ、一人過ごしていた。


 そして、自由行動日が訪れた。

 やはり八重を誘う生徒は一人もいなかった。


 「ふう。やっぱり、いないか。私と一緒に行動する人なんて。」

 生徒どころか、教師たちも見て見ぬふりをしている。


 「いいや、どこか、長都市で落ち着ける場所を探そう。」

 そう思い、八重は、長都市の高台にあるベンチに座っていた。


 「ここで一日一人で過ごそう。」

 八重は、高台で見晴らしがいい景色を楽しんでいた。

 少しため息をついた。


 「トン吉さんも翔太朗君もいない。里でも独りぼっち、私は一体・・・・・・。」

 八重が一人で考え事をしていたその時だった。


 八重の口元がふさがれた。

 忍者学校の生徒がここへきていたずらをしたのだろう。


 勢いよく振り返った。流石に我慢の限界だった。こんな所まできて。

 「やめなさ・・・・・・・!」

 口元はふさがれていたので、八重の中でそれは聞こえたが、その声も途中で止まった。


 振り返った途端に、八重の威勢は失った。

 八重が振りかえってみたもの

 


 「こんにちは、お嬢さん。こんなところで会えるなんてね。」

 忘れもしない顔がそこにはあった。

 以前、翔太朗と森で出会った、サングラス男だった。八重を連れて逃げようとした、あの男だった。


 サングラス男はあたりを見回す。

 「見たところ~、お一人ですね。」


 八重は必死に抵抗する。が、男の力に負けてしまう。


 「それだったら、無駄な労力はかからなくてラッキーです。誰かが居れば戦わざるを得ませんからね。」


 八重は手足をバタバタしているが、動けなかった。

 そして、男は、抵抗する八重を見て、睡眠薬を無理やり飲ませる。


 たちどころに、八重は眠ってしまい、その場から男は離れた。


 「捕獲、成功。後は、作戦を決行するのみですな。」

 サングラス男は八重を連れて、その場を後にした。



 自由行動日が終わり、皆それぞれ宿に戻ってきた。

 八重がいないことに、生徒たちは誰も気づかなかった。


 いじめでクラスの外に締め出すような形にいつもしていたのだから当然である。


 そして、八重がいないことに気付いたのは、翌日の最終日、馬車に乗るところだった。

 人数確認をした教師たちが一人人数が足りないことに気付く。


 「八重がいないな。どこ行った。」

 八重の髪の毛の色は燃えるような赤毛。その赤毛がいないとすぐに分かったのだ。


 「大丈夫ですよ。一人で帰ったんじゃないですか?」

 「そうですよ~。」

 のんきな声が聞こえてくる。


 とりあえず、捜索するために、教師一人を残し、馬車は出発することに。

 里に戻って、里長に報告した。

 里長は血相を変えて、捜索隊を用意して、長都に向かわせたが・・・・・・。


 八重の両親と妹の意向で、捜索隊と待機していた教師は里に戻ってきた。

 「大丈夫です。あの子は、すぐに戻ってきます。里の抜け忍になれるような器ではないですし、里の面目と保つため、届け出を出すだけでいいですよ。」


 と、両親が粘り強く説得したため、仕方なく、報告書と捜索願を届け出るのみに留まった。


 当然のごとく、両親は建前で、かつ里の面目を優先しただけである。

 本当のことを言えば、戻ってこなくてすっきりした気持ちになっていた。



 どうせ里の外には、八重は行く当てもない。

 泣きながら戻ってきても追い出すだけだし。


 それに、どう考えたって、忍者学校も卒業していないし、抜け忍となれるわけではない。

 抜け忍になれば、里の評判は最悪となってしまうが、その抜け忍の器にはほど遠いことを両親は知っていた。いや、知ったかぶりをしていた。


 というような両親と、事態を軽く考えていた、教師たちによって。

 八重の捜索任務は緊急性の高いものではなくなってしまったのである。


 里や那ノ国の忍者にはもっと重要な、討伐やほかの要人の捜索、護衛があるのだ。

 みんなそちらを優先するようになっていた。



 このような甘い考えがのちに大変なことになるとは、まだまだ里の住人は知る由もなかった。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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