#86.翔太朗の誕生日
魔道武術大会編はここでおしまいです。
これまでの章より断トツで、長くなってすみません。
屋敷に戻った僕。
出迎えてくれたのは、執事長のアレックスさんと、ワシ之信だった。
「準優勝おめでとうございます。お帰りなさいませ。翔太朗様。」
アレックスさんは頭を下げる。
「翔太朗、ようやったな。トン吉も喜んでおる。」
ワシ之信が嬉しそうに、出迎える。
「さあ、お部屋へどうぞ。ベッドの上に、服が置いていますので、約1時間後、その服に着替えて、お部屋でお待ちください。お食事ができたことを、私がお呼びしに行きますので。今夜はその服で夕食となりますので。」
アレックスさんは荷物を持ってくれた。そして、自分の部屋に向かった。
アレックスさんのいう通り、ベッドの上に服が置いてあった。
服にしては、立派な包みだ。
箱を開けるとさらに、防虫用なのか、着物やスーツを保護するカバーが付いていてハンガーも立派なものがある。
保護カバーを開くと驚いた。
黒い燕尾服が現れた。
このような服自体、アレックスさんが普段来ているので見慣れてはいるが。
この燕尾服はそれよりもはるかに高級な、光沢のある、上質なものだと、素人の僕の目線から見てもわかるものだった。
襟元はシルクで覆われていてより一層黒く光っている。
すごい。これは素直に目を丸くした。
僕はその高級な燕尾服に袖を通した。勿論、シャツと蝶ネクタイ、ベスト、サスペンダーをつけて。
蝶ネクタイは黒いものを渡された。
とにかく、アレックスさんの着ている通りにやっていれば大丈夫だよね。
服を汚したくないな、そんな気持ちでいっぱいだった。
小一時間ほどたって、部屋の扉がノックされる。
アレックスさんがやってきた。
「翔太朗様、夕食のお時間です。服はどうですか。」
アレックスさんが部屋に来た。
そして、僕の服装を確認した。
「うん、サイズもピッタリ、お似合いのようですね。サスペンダーとか大丈夫ですかね。少し確認しますね。」
アレックスさんは僕の着ている燕尾服を確認した。
「うん。よさそうですね。それでは、こちらへ。」
アレックスさんに案内される僕。
もう、この屋敷は慣れており、自分で行けるのだが。
「ここでお待ちください。」
この日だけは大広間へ続く階段の手前で待たされた。
そして。廊下の向こうから誰かが歩いてくる。
ものすごくきれいな人が。純白の細身のドレスを着てこちらにやってきた。
そのドレスを着ていたのはミランダだった。
まるで女優。別人に見える。
薄化粧も少ししているのだろうか。キラキラ輝いている。
僕の前でお辞儀をして、くるりと1回転する。
1回転して驚く。
その白いドレス。背中がほとんど露出しているものだった。
その姿に僕はドキドキ感を覚える。とても綺麗だ。
ミランダが微笑む。
そして、ミランダの後ろから、シロンとユキナがやってくる。
やはり彼女たちも白い細身のドレスを着ている。自分の抜け落ちた古い羽根を少し使ったのだろうか、ミランダのように背中の露出はそこまで激しくないが、胸元には自分の白い羽根を飾っているドレスを着ていた。
「翔太朗様、お誕生日おめでとうございます。」
ミランダは優しく微笑んだ。
「手を、右手を、出していただけますか。」
ミランダは僕に手を出させる。
ミランダは僕の右手首に金でできた、羽の模様がある腕輪をハメてくれる。羽の付け根部分にエメラルドが入っている。
「私からの誕生日プレゼントです、そのエメラルドには魔力が込められていて、腕時計にもなります。」
ミランダは照れながら説明した。本当にきれいな腕輪、ブレスレットだった。
僕は驚いている。いつ、誕生日のことを説明したっけか。確かにこの時期は僕の誕生日であっている。
「ごめんなさい。ご主人様。以前、ご主人様から誕生日のお話を聞いて、みんなに話したんです。」
「11月の感謝祭の時期だって私に、私とユキナに教えてくれましたよね。それで。それで。みんなに教えたんです。そうしたら。」
ミランダの後ろにいた、シロンとユキナが僕に話しかけてきた。そうだ、シロンとユキナにはミランダの誕生日プレゼントを買う際、僕の誕生日を聞かれて教えたっけか。
「はい。そうしたら、魔道武術大会の本戦出場祝いと、感謝祭と、そして、翔太朗様の誕生日を兼ねて、盛大にパーティー、舞踏会を開こうと思った次第です。」
アレックスさんがこちらに向かって話しかけてきた。
「今お召しいただいている、そちらの燕尾服は私とカミラ、屋敷執事からのプレゼントです。今後も、こういった機会などで、確実に必要になってくるでしょうから、お持ちください。
改めてお誕生日おめでとうございます!
そして、本戦出場どころか準優勝。まことに素晴らしいことであります。盛大にパーティーをしましょう。翔太朗様の学級のお仲間、そして、この大会をご観戦にいらしていた、学級の仲間のご家族もこのお屋敷にお迎えしています。」
そして、アレックスさんが話し終えた後、後ろからポンポンと肩をたたかれる。
「翔太朗、よかったじゃないか。風ノ里に居たときは、兄貴しかプレゼントがもらえず、俺とトン吉でどうにか一個押さえたのによう。こんな立派になりやがって、見返してやりたいわ。」
後ろを振り返ると、ワシ之信が人間の姿に変身して、僕と同じような格好で立っていた。
「ほい、これは毎年恒例、俺からのプレゼントだ。」
ワシ之信からもプレゼントをもらった。そこには靴下が何足か入っていた。勿論穴の開いたものではなく、新品の上質なものだった。
「ありがとう、ミラ様、ワシノ信、アレックスさん。」
僕の目には涙があふれていた。
「翔太朗様。まだまだこれからですわ。」
「さあ、広間へ案内しますよ。」
ミランダと、アレックスさんに連れられて大広間へと向かう。
そこにはご馳走が入ったテーブルがたくさん並び、大広間にはセントアリアの国旗と思われる旗と、その旗の下に、台があって、準優勝のトロフィーと盾が飾られていた。
「さあ、学級の皆様のもとへ。翔太朗様、ミランダ様。」
アレックスさんに案内され、学級の仲間が待っている場所に僕とミランダは向かった。
アンソニーは大きな体ではあるがタキシードをしっかり着こなしている。
「ミランダ、お招きサンキューな。」
「ふふふ、楽しみましょうね。アンソニー。」
ミランダは笑顔だ。そうだ、招くのだから笑顔で接しないと。
「翔太朗君、お誕生日おめでとう!!」
アンソニーからはかなり豪華な装飾が施された短剣をプレゼントされた。
アンソニーの後ろにはアンソニーの母親、そして。
「初めまして、アンソニーの父でバローズ商会会長のホルスト=バローズです。お招きありがとうございます。そして、息子をここまで成長させてくれたあなたに感謝します。こちらの短剣はセントアリアの最高峰の鍛冶工房より仕入れた品でございます。見た目も豪華ですが、魔力も有しており、追加で風の魔法のダメージを相手に与えるそうです。貴殿ならば使いこなせるだろうと。今後とも息子をよろしくお願いいたします。」
ホルストさんは、そういって、アンソニーからもらった短剣の説明をしてくれた。何はともあれ、バローズ商会の最高級品だ。本当にすごい。
そして、ホルストさんもアンソニーに似て、大柄な人物だった。
次は、ルーベルトだ。彼もまた、僕と同じような燕尾服を着ている。流石は貴族だ。
「お招きありがとう。ミランダ君。そして、翔太朗君、お誕生日おめでとう!!もうすぐ冬だ、この国の冬は冷える。マフラーとコート、それに帽子に手袋だ。使ってくれたまえよ。」
ルーベルトから、上着の入ったプレゼントを受け取る。
「ありがとう。すごい上質だ。」
「ははは、やはりそうだろう。そうだろう。」
ルーベルトは自慢げに笑っていた。そして。
「ルーベルトの父のティーレマン=フォン=クロイツェルです。第一師団長だ。息子をここまで真人間にしてくれて。貴殿には感謝してもしきれない。」
そういってルーベルトの父は、頭を下げた。かなりのオーラのある、気品あふれた人物だった。
ルーベルトの父はミランダにも頭を下げた。そして、僕に向かって内緒話をした。
「『鷲眼の術』を持つ貴殿は素晴らしい。よければ息子とともに、第一師団の見学に来ないか。返事はいつでもいい。また、何かあったら相談してくれ、本当はこの家は苦手で、行きたくなかったんだが、貴殿の顔を見られるとなれば話は別だ。よろしく頼むよ。」
僕の耳元で、こそこそと内緒話をした。
そうだ、アルベルトさんは第二師団の師団長、そしてこのティーレマンさんは第一師団の師団長だ。お互いライバルを意識したのだろう。
やっぱりそこにアルベルトさんと、パメラさんが来た。
「何やっているのだ、ティーレマン。翔太朗君はモナリオ家の養子だぞ。抜け駆けは許さないからな。」
「何を言うアルベルト、いつでも相談に来いと言っただけではないか、『鷲眼の術』を使える逸材。だがまだ若い、相談できる相手を増やしてあげることは当然のことではないか。」
ティーレマンさんは笑いながら言っている。ライバルだが仲がいいんだろうな。
「ミランダ、翔太朗君。準優勝おめでとう。私たちも鼻が高いわ。」
パメラさんが微笑んだ。
「ああ、武術大会の試合、どれもいい試合だった。」
アルベルトさんも僕たちに微笑む。
「そして、翔太朗君。お誕生日おめでとう。これは僕と、パメラから。」
アルベルトさんからのプレゼントはブーツだった。
「あいつのいう通りこの国の冬は冷える。雪の多い場所に行くときにでも。」
「ありがとうございます。」
アルベルトさんはさらに内緒話をするように顔を僕の耳元に近づけ。
「あいつからもらった帽子とコートとマフラーが気に入らなかったら、いつでも言ってくれよ、こっちで用意するから。」
そういわれたので、僕はこくりと頷いた後、少し笑った。
いいライバルだと思う。
次はルカの番。ルカも細身の青いドレスだった。
やっと女性らしいところを見せてくれた気がする。
「翔太朗君、お誕生日おめでとう!!」
ルカからのプレゼントは、ティーカップとポットのセット。シロンとユキナと一緒に飲めるように、ティーカップが4つあった。
ルカの実家が領主を務める、ウィンター地方はこういった工芸品が盛んなんだそうだ。
そして、ルカの父親らしき人と、大勢の兄たちと面会した。
「男勝りの子ですまんな。」
「ほんと、僕たちを見て育ったからね。今後もよろしく頼むよ。」
そして、最後はマリアとリリアンの番。
二人はご家族の方は来ていなかった。
確かにマリアは孤児で、ドラゴンに育てられ、リリアンは昨日話を聞いた限り、何年か前にご両親が亡くなっているといって、昨日の一件もあり、この家で保護している。
少し寂しいが、二人の表情を見ていると、そんなのは乗り越えた、というような顔をしているから、僕たちも楽しまないと、と思う気持ちになる。
二人とも、マリアは薄緑色、リリアンはピンク色のドレスを着ているが。
それを見たミランダは少しため息をついた。
僕もなんだかわからないがドキドキしていた。
「お招きありがとう、ミランダ。」
「本当にありがとうございます。お屋敷のお部屋の中も素敵ですね。」
「うん。ようこそ・・・・・。」
ミランダは少し嫉妬したようなそんな表情をしている。
「どうしたのです、ミランダ。」
マリアが聞いてくる。
「普段はそういう服を着ていないので、あまり触れませんでしたが、普段着を着ている状態から目立っていて、予想は付いていたのですが・・・・・・・・。」
ミランダは、二人の胸元をチラチラと見る。
彼女の視線の先には、マリアとリリアンの大きくてきれいな胸の谷間だった。
ドレスが胸元から覆うものだったので、胸の谷間は露出した形になる。
なんだろう、なんだかわからないが、露出した胸の谷間を見て、僕はすごくドキドキした。心臓の高鳴りが抑えきれない。
「ああ、これ。結構苦労したんです、私、田舎育ちで、ドレスもっていなくて、リリアンのお古を貸してくれたんですけど・・・・・。」
マリアは淡々とした表情で話すが。
ここからはリリアンも嫉妬した表情に変わり、ため息をついて。
「この子、私のよりおっきいの。だからその、錬金術で修正したの。ため息をつきながら・・・・・。さっき急いで。本当は昨日衣装合わせるつもりだったんだけど、ギエルに襲われてさ。この家に私の前の家から、錬金術の道具を持ってこないとだね。」
マリアはリリアンにお礼を言った。
「ありがとう。リリアン。おかげで素敵なパーティーになりそう。」
うれしそうな表情をするが。リリアンは少しため息だ。
―まさか自分より大きい人が実際に目の前に現れるなんて。―
そう思いながら、これを表に出さず笑っている。
そして、ミランダもこのやり取りを見て、少しうらやましく思っていた。
―これを想定していたから、背中が空いた、セクシーなドレスを新調したのに。想定よりも大きなものを見るなんて。翔太朗様のあの顔も・・・・・・・。―
素直なミランダの心の嘆きだった。
そして、ミランダは無邪気にいろいろなものに興味津々なシロンとユキナの方も見る。
―たぶん、リリアンほどではないにしろ、人間の姿になっている、あのホワイトイーグル二人にも負けてますよね。私も誰かに変身できれば・・・・・。―
今日のミランダは、心の中ではすっかり自信を無くしているようだった。
しかし、こうなることは、ミランダは想定していた。
だから、アレックス達に根回しし、翔太朗に一番に背中の開いたドレス姿を見せたのだった。
だが、それだけではなく、ミランダの作戦はまだまだ続いていた。それに備えるために、ここは気持ちを切り替えた。
リリアンからのプレゼントは、羽ペンといくつかのノートをもらった。そしてインクもある。かなり上質なペンだった。
マリアからのプレゼントは、ハンカチの10枚入りのセットだった。
学級のみんなは昨日、僕と別れた後に用意してくれたものだった。そうか、だから、昨日僕一人で別れたんだ。みんな、僕のために用意してくれてたんだ。
それが判った途端、涙が出ていた。
とても嬉しかった。人生で一番うれしかった誕生日だった。
そして・・・・。
「ご主人様。お誕生日おめでとうございます!!」
「あの、ご主人様。これからもよろしくお願いします。」
おそらく、僕の誕生日をみんなに言ったために、このパーティーの発起人でもある、シロンとユキナが僕のもとにやってきた。
「驚いていただけましたか?」
ユキナが言った。
「とても驚いているよ。ありがとう。ユキナ。」
「ね、ね。ちゃんと覚えていたでしょ。感謝祭のどこかでご主人様の誕生日をお祝いしましょうって。」
シロンがエッヘンという表情で、僕を見てきた。
「覚えててくれてありがとうね。シロン。」
僕は、シロンの頭を撫でた。
「わーい。やったー!サプライズ大成功!!」
二人からのプレゼントは、ジュース屋の無料回数券だった。
「また、王都、散歩しましょうね。約束ですからね。」
シロンは、得意げにお願いしてきた。ユキナも頷いている。
「もちろんだよ。二人とも。」
「「ありがとうございます!!」」
「翔太朗様」
アレックスさんが声をかけた。
「プレゼントお預かりします。部屋に運んでおきます。」
気づけば両手いっぱいにたくさんのプレゼントを持っていた。
プレゼントの山をアレックスさんに預けた。
カミラさんは、この家の執事ということもあり、似合わなそうなメイド服を着て配膳の手伝いをしている。
「おめでとう、翔太朗殿。また後で話そう。」
メイド服姿が似合わなくて恥ずかしいのだろうか。話はそれだけだった。
ピエール先生もやってきて、回復術も使える僕のことを考えてか、薬草学の本をプレゼントとして持ってきてくれた。そして、この国の通史や政治の入門書もあった。
「この国のこと、いろいろ、知ってくれ。そして胸を張って授業頑張ろう。」
そういって、僕の肩をポンポンと叩いた。
僕とミランダが、このパーティーに招いた人、ほぼすべての人に挨拶をし終えた。そして。
ポンポン!!
拍手の合図があった。
拍手をしたのはポールさんだった。
「皆様、本日は、モナリオ家の感謝祭の舞踏会、そしてパーティーにお越しくださり、ありがとうございます。本来であれば、こじんまりと食事会でもしようと思ったのですが、このように盛大に開くことになりました。その経緯に至っては・・・・・。」
ポールさんは台に飾られている、今日、僕たちが獲得した、魔道武術大会準優勝のトロフィーと盾を指さす。
「こちらをご覧いただければわかるかと思いますが。私が理事長を務めるセディア魔道学院の1年5組がこの感謝祭に行われた魔道武術大会で準優勝のタイトルを獲得し、しかもその学級に私の孫が在籍していると。
これは学級のメンバーとそのご家族、そして魔道学院関係者を招いて、盛大に開催しようと思い至った経緯であります。彼らは数か月前に魔道学院に入学したばかりですが、校内予選、本戦と勝ち進み、大健闘の末、決勝では惜しくも敗れましたが、私たちに感動を与えてくれました。
それでは、皆様拍手でお迎えください。1年5組の学級の皆さん、今日の主役は皆さんです。どうぞ、広間の中央にお越しください。」
ポールさんに僕たちは手招きされ、広間の中央へ向かった。
僕たちは、ギャラリーの中心にいて、ポールさんの指示で顔を見せるように並んだ。
僕たちは拍手の中に包まれている。
「では、一人一人、感想を。」
突然の指名に驚いたが、僕たちは一言ずつ挨拶をした。
「こんなにも応援してくれる人がたくさんいるなんて、本当にありがとうございました。」
僕は簡単だが素直に挨拶を述べた。
「そして、今日はこの1年5組の級長、翔太朗君の誕生日がこの感謝祭の期間中ということもあり、誕生日会も兼ねてます。翔太朗君に拍手を。」
僕は深々と頭を下げた。
これには学級のみんなも拍手をした。
「それでは、パーティーを開催します。主役の学級の皆さま舞踏会になりますので、広がっていただきまして。主役の皆様から先に披露していただきますので、どうぞ、ギャラリーの見える場所へ広がってください。ギャラリーの方は少し場所を広く開けて、少し下がっていただけると。そして、どなたか女性の方が多いのでその方のお相手を・・・・・・。」
ポールさんの合図で、皆、何かの準備をしている。
どうしたらいいかわからない僕、舞踏会・・・・・。パーティーというのも初めてだし・・・・・。
どうしたらいいかわからない顔をしていると、僕の目の前にミランダがすぐにやってきた。
これがミランダの準備していた最後の作戦だった。
ミランダは軽く会釈をして、僕に向かって微笑んだ。
「こちらです。翔太朗様。手を出してください。」
僕はミランダに向けて手を出す。そして。
ミランダは僕の手をもって、引っ張っていく。
「大丈夫です。初めてだと思いますので、今日は私がリードします。」
ミランダは優しく微笑んだ。
「マリア君は僕と組もう。今後もこういった行事はあるだろうし。僕が教えてあげるよ。」
ルーベルトがマリアの手を引っ張る。
マリアも僕と同じように、手を組んでいった。
ルカとアンソニーもこの後何があるか知っているようで。
偶然隣同士で並んでいたこともあって、自然に組んでいった。
「なんか恥ずかしいな。改めて。」
「俺もワクワクしてきた。」
そんな会話の流れが聞こえる。
そうなるとリリアンが一人余ってしまうが。
「どなたかこちらの素敵な方のお相手を。」
と、ポールさんが言ったところで。
ルカの一番上の兄が進んで出てきた。
「ありがとうございます。」
リリアンはルカの兄に向かって軽く会釈をする。
「それでは、開催を宣言します。演奏者の方、どうぞよろしくお願いいたします。」
ポールさんが合図を送る。
「さあ、翔太朗様。私の腰に回すように手を当ててください。」
ミランダの言われたとおりにして、片方の手を腰に手を当てた。そして、もう片方の手をミランダは持った。
ぴったりくっつく感じがして、少しドキドキする。しかもミランダは背中を露出した衣装。直接肌に触っている部分もあり、抑えきれない何かが頭の中を駆け巡るが、深呼吸して、ぐっとこらえる。
そして、豪華で綺麗な音楽が流れる。この曲の導入部だな。
導入部分はすぐに終わり、早速、この曲の主題部分に入る。
「行きますよ。翔太朗様。」
この曲はワルツだろうか。3拍子のリズムで刻んでいる。
「1、2、3、2、2、3。くるっと回って。・・・・・。」
ミランダの言われた通り、僕はダンスを踊る。ミランダと一緒に。
ミランダの助けもあってか、最初はぎこちなかったが。
「音楽を聴いて、リズムに合わせて。なかなかうまくなってきましたよ。翔太朗様!!」
同じような感じで、マリアもルーベルトから教わっている。
アンソニー、ルカ、そして、リリアンは舞踏会に来たことがあるのだろうか。
かなり慣れた手つきで、ダンスをする。
ミランダのおかげもあって、かなり上達した。
「ふふふ、様になってきましたよ。翔太朗様。本当は男の人がリードするんですけど、リードやってみます?」
少しドキドキしたが、このような会だ。楽しもうと思って、こくりと頷く。
ミランダは少し力を抜いて。僕に体を預けてきた。
周りに注意しながら、そして音楽を聴きながら、僕はミランダとともに、踊っていく。
音楽がとても合わせやすい。
かなりシンプルだが、本当に一度聴いたら忘れられない、そんなワルツだった。
「うまい、すごいですわ。翔太朗様。」
ミランダは言った。
「この曲がすごいんだよ。一度聴いたら忘れられない、とてもシンプルで、明るくて、それでいて、豪華さを表しているような、素敵なワルツ。だからすぐに曲に合わせられるんだ。」
ミランダは微笑んだ。
「この曲の作曲者曰はく。この曲はたった5分でできたそうです。」
「5分。すごい作曲者がいるんだね。」
こんな素直なワルツを5分で書き終えるなんて。
「はい。正確には今まで生きてきた時間と5分だそうです。人生をそれだけ経験してきたのですね。」
なるほど、こういう芸術家の人にもあってみたいなと僕は思う。
「もともと、この曲は結婚式を想定して作曲されたそうで、そういった結婚式のパーティーで使用される場合が多いのですが・・・・・。」
確かに、結婚式にこの曲は向いている。
「今日は、翔太朗様のお誕生日ということで、特別に演奏してもらいました。大切な、大切な人への感謝と誕生日会ですから。」
僕は驚いた。
「そ、そんな、すごくうれしいよ。ありがとうミラ。」
僕は少し赤くなる。
「ふふ。ミラって呼んでくれてうれしいです。翔太朗様。次にこの曲で私と踊るときは・・・・・・。」
ミランダも赤くなっている。
どうしたのだろ。
「やっぱり、何でもありません。」
ミランダは照れながら答えた。
その後、ギャラリーのみんな、ポールさんやアルベルトさん、パメラさん、そして、ルカのお兄さんたちもみんな、相手の異性を見つけて、ダンスの輪の中に入っていった。
そして、ミランダと踊り終えた僕は、小休止ということで、食べ物や飲み物を少しずつとって食べた。
ミランダと二人で飲み物で乾杯をして、それぞれ好きな料理を取った。
どれも料理はおいしかったし。僕の好きな生魚のカルパッチョも出てきた。
食事を済ませると。
「ご主人様、私と踊ってください。」
シロンを皮切りに。
「私ともお願いします。」
「僕とも一緒にできないかな。」
「あ、ルカずるい。私とも一緒に。」
「私も。」
ユキナ、ルカ、マリア、リリアンと学級にかかわっているメンバー全員が僕のところにやってきた。
全員で少しずつ、交代しながら、作曲者曰はく5分でできたというワルツに合わせて踊った。
デザートには僕の誕生日会ということもあってか。ケーキがいくつか運ばれてきた。
「翔太朗様からどうぞ。」
ということだったので、ケーキをもらった。
どれもおいしく、少しずつもらった。チーズケーキ、フルーツケーキ、チョコレートケーキ。
これまで食べたことのない最高の食事だった。
そうして、夜は更けていった。
魔道武術大会でお互いの労をねぎらいながら、楽しい長い夜だった。
このパーティーは明け方近くまで続いて、やがてお開きとなった。
パーティーが終わり、ベッドに入った僕は、涙を流していた。
これまでの人生で一番味わったことのない、大粒の嬉し涙だった。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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まだまだ次の章も書きます。書く気満々です。これからもよろしくお願いします。




