#8.薬草取りでの出来事
八重が家を飛び出したその日の出来事。
翌日、父と兄は任務に出発するのだった。
当然のことながら、家事すべては、僕がやらなければならなかった。
つまり、明日の任務の出発準備は僕がやるのだ。
二人分の薬草と採取し、吉田家の薬を作る仕事だ。
敵に襲われけがをしたら大変だ。
知らない土地で熱を出して体調を崩したらどうなるのだろう。
一通り、薬を準備しないといけなかった。
「翔太朗、早く薬を取って、準備してこい。」
うるさく両親に言われたので、僕は里の外の森で、薬草の採取に向かった。
この森には、いくつかの泉がある。その泉周辺には、薬草が生えており、採取には適している。
もちろん、その泉の水も、新鮮であり、薬草からの薬づくりには最適な水だった。
薬草園の泉。
僕が勝手に名付けた。ここは、僕の秘密の場所でもあった。
一族の人もいない、里の人もいない。
僕の秘密の場所。ここでなら一人でゆっくりできる。
薬草の採取は案外早く終わる。
トン吉爺さんから習得し、僕が実際にアレンジした術、薬草の鑑定の術で早く終われる。
敵の心配もなく、試験のプレッシャーもないため、ここではゆっくり術の印が結べる。
早めに薬草を採取すれば一人の時間だ。
一人でのんびり、いろいろな書物を読む。
今日も、このあとトン吉爺さんと修業をする時間があったのだが、まだまだ時間的にも余裕がある。
ずっとこの時間が続けばいいのに・・・・・。
だが、今日は違った。
薬草園の泉に先客がいた。
燃えるような赤毛の女の子。
間違いない、この間の一緒に試験に落ちた、岩月八重だ。
彼女は涙を流して泉のほとりにうずくまっていた。
足を怪我しているらしい。すりむいている。
「大丈夫か。八重ちゃん。」
僕は、声をかけてみる。
「・・・・翔太朗君。」
八重は涙声で答える。
「まってて、今助けるから。」
薬草を彼女の患部に当てる。擦り傷の場合はこれだな。
細長い葉を取り出しあてた。『穂富草』というらしい。本に書いてあった。
本来であればこの『穂富草』から、汁を取り出し、薬草の忍術で、塗り薬を作るのだが、この程度のけがであれば、そのままでも使用できる。
医療や薬草の忍術は周りに敵もいなく、正確性が要求されるため、ゆっくり印を結べるので好きだった。
その、ゆっくり印を結びながら彼女を患部を見る。
骨折はしていない。だが捻挫しているようだった。
持っていた、塗り薬を使用し、やはりゆっくり印を結びながら、捻挫を直す術をかけていく。
『痛み止めの術』だ。
やがて、八重は自力で立てるようになった。
「・・・・ありがとう。翔太朗君。」
八重はお礼を言った。
「やっぱり吉田一族なんだね。医療の術や薬草の術って高度なんだよ。」
八重はそう言った。
やっぱり吉田一族なのかな・・・・・。
「敵の目や、先生の目を気にせず、ゆっくり印を結べるのがいいんだ。いつも先生や両親に印を結ぶのが遅いといわれているし、それで実技は原点になるけどこれなら人目を気にしないでできるし。」
僕は八重に向かってそういった。
「そうなんだ。私ね。今日、家を飛び出してきたの。そしたら転んでしまって。」
八重は僕に昨日から今日の出来事を話してくれた。
「私ね、忍者学校の試験に落ちて、それで・・・・・・。」
うなずきながら聞いていく。涙目になっているのがわかる。
「妹の方が可愛くて、頭がよくていいって。いつもそう。両親は美人の妹ばかりを溺愛している。」
声が細くなりながらも、頑張って僕に話している。
「私・・・・。私・・・・。」
一瞬の沈黙。遠くで、ピーヒョローと、鳥が鳴いている。
そして。風が吹き、森の葉がざわざわと揺れ始めて・・・・・・。
「両親の本当の娘じゃないみたい、引き取らなければよかったって。」
八重が涙ぐむ。
燃えるような彼女の赤毛。しかし、今は今は、その赤毛がいつもより薄い色に見えた。
瞳の青は暗い深みのある青に成長し、涙でにじむ。
すべてを話し終えて、八重はただただ、泣いていた。
「僕は・・・・・、僕は・・・・・。」
「八重がうらやましい。」
何を言っているんだと自分でも思う、でも確かな感情。
八重が驚いたような表情を見る。
「僕の両親も、出来のいい双子の兄だけを溺愛している。しかも叔父さんも、従兄たちもみんなそう、吉田一族全員が双子の兄だけを溺愛して、弟の僕はいらないみたいだ。術の習得の遅さ、忍者学校の成績の悪さが発覚してからいつもそう。一族の人からも僕はいらない人だと思われている。毎日こういう、薬草取りや掃除、洗濯、家事すべてやらされて、奴隷のように扱われている。吉田の屋敷には使用人の人もいるのに、最近はその人たちも僕にすべて押し付けてくる。」
ここまで、一気に言った。
「だから、時々思うんだ。」
僕は息をのんだ。
「僕は、吉田家の本当の子供ではない。吉田家とは血がつながっていなければいいのに。」
さらに息をのんで。
「本当の親や友達はどこにいるのだろうと。」
僕は自然と涙が出た。当然だ。
そして、これが今までたまっていた、感情というものが一気に出た。
「私は・・・・・。私は・・・・・・。」
八重が涙を拭いて、一生懸命僕に語り掛けた。
「今日、両親からの話を聞いて、翔太朗君や里のみんながうらやましくなった。でも違った。翔太朗君の話を聞いて。」
八重の目が、彼女の青い目がもう一度、かがやきを取り戻そうとしている。
「わからない。わからないけれど。翔太朗君は私と同じで、一緒に頑張ろうと思った。私と同じだから、だから、負けたくない。あんな両親なんか、妹なんかに。」
彼女の両手が、ぎゅって、力強く握っているのがわかる。
「一緒に頑張って、一緒に頑張って欲しいの、翔太朗君。」
彼女の力強い言葉に感動した。
僕はゆっくりとうなずく。
「ありがとう。八重ちゃん。一緒に、僕たちは一緒に頑張ろう。」
この感触は生まれて初めてだ。
同じ忍者の里で育った人間は、「同志」だ。仲間だ。
これは強く、強く、両親や先生に言われていた。
しかし、里の人や一族の人から、いじめられた僕にとって、この言葉はわからなかった。
僕は初めて、それがわかった。
「八重ちゃんは同じ里の仲間だ。」
「うん。」
彼女は、涙を振り切って、力強く頷いた。
そのあとは、お互いに涙を流し、お互いに笑いあった。
森の木々も優しい風に代わっていた。
その時。
ドーン!!
優しい森の風の中から、とてつもない風と、とてつもない音がした。
読んでいただきありがとうございました。
まだまだ続きます。頑張って続きを書いてます。
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