#79.猿のような身のこなし
ハアハアと息遣いが聞こえるルカ。
そのルカ相手に登場してきたのが、先ほどのカルディオとは正反対の身のこなしをした、ショートヘアーの男子。白いシャツに茶色のベスト、茶色のズボンがよく似合いっている。
「へへへ、僕、ジョン。ジョン=フロイトよろしく。」
いかにもチャラそうな声でルカに握手を求めてきた。
セディア魔道学院も、ボーラン士官学校も残りは6人ずつ。
「ボーラン士官学校二人目は、ジョン=フロイト選手。果たしてどちらが勝ち抜けるのか。」
試合開始の合図。
ルカは先ほどのカルディオの試合の疲れからか、槍のコントロールが鈍くなっている。
あの長期戦の後の連戦はきつい。しかもルカが苦手とする防御の固い人物との相手であるからなおさらだ。
精神的にきついな。僕はそう思った。
ルカの槍をジョンという人物は猿のような身のこなしで、かわしていく。
ジャンプ力、キレ。まさに猿そのものだ。
「へへへ、騎士の姉ちゃん、捕まえてみなよ~」
ジョンは余裕の表情でルカの槍をかわしていく。
ルカは槍を振り回し、『ライジング=ランス』を入れていくが、すべてかわされてしまう。
「ルカ、剣に持ち替えないのですか?」
見守るリリアンが訪ねる。
「いや、あの状況は槍の方がいい。攻撃の範囲が広くなっているだろう。」
カミラさんが冷静に言った。
ああ、確かにそうだ。槍であれば攻撃の範囲が広い。あのキレと身のこなしならば、ルカよりもジョンの方が上だ。
剣をもって接近戦を挑めばルカはすぐにやられてしまう。
「相手の方が、剣の腕は上だ。接近戦だときついな。」
「ああ、槍を持ちながら懸命に、手を動かしている。」
ルーベルト、カミラさんはルカの槍の動きを見守る。
ルーベルトも冷静になって、ジョンの動きを確認する。ルカが負けた場合、次はルーベルトがジョンの相手になるからだ。
「それじゃ、お嬢ちゃん、そろそろ本気で行くかな。」
ジョンはそう言って、ルカの振り回している槍を鋭く観察した。そして。
あろうことか、槍に飛び乗ったのだ、そしてバランスを取りながら、ルカに接近してくる。
「こんなこともできるんだよね~」
ジョンはウィンクをしながら、まるで平均台を渡るかのように槍の上を歩いてくる。
ルカは必死に振り払おうとしているが、さっきまでの体力と、ジョンの体重のせいで、槍が重くなったのだろうか、槍を振り回すことが上手くできていない。
ジョンはルカの前まで来て。
「それじゃ、『ファイアボール』」
手をかざしルカの目の前でファイアボールを放つ。真正面からもろに食らったルカは太刀打ちできず、ここで試合終了となった。
「ナイスファイト!!ルカ。」
僕たちは引き上げてくるルカを迎えた。
「ハアハア、みんなごめんね。もう一人勝ち抜きたかったんだけど。」
「何言ってるの、一人倒せただけでも本当にすごいよ。」
僕はそう言って、ルカを出迎えた。
次の順番はルーベルトだった。
ルーベルトの頭の中にはプランがあった。『メテオ』や『サンダー』の範囲攻撃で攻めていくプランだ。
「範囲攻撃ができる魔法をいくつか持ってよかった。」
ルーベルトはそう思った。
「へへへ、よろしく。確か隣の学級のおてんば娘さんの・・・・・。」
―続きを言ったらどうなるかわかっているんだろうなあー
ルーベルトは腹の中でそう思って、ジョンを睨み返した。
準決勝の一件で、ダコタとは少し歩み寄れた。だが、完全に和解出来たという状況には至っていないのが現状だ。
「ははは、ごめんごめん。冗談冗談。準決勝見てたよ。君の実力をあのラピスに示せて、そのおてんば娘は少し満足げだったよ。僕にもそれを見せてくれると嬉しいな。」
ジョンはそう言って、ルーベルトをクールダウンさせる。
「臨むところだ。」
ルーベルトはそう言って、剣を抜く。
試合が始まる。
ルーベルトはプラン通り、相手の動きを見て、『メテオ』を打ち込んでいく。
一発目はかわす。それなら逃げた先にトラップを仕掛けるまで。
一発目のメテオをルーベルトの予測通り、ジョンは猿のような身のこなしでそれをかわしていく。
そして、かわして、逃げた先をルーベルトは予想していた。
「行け!!『サンダー』」
雷魔法が見事命中した。
「「よっしゃー!」」
僕たちはいっせいにガッツポーズをする。
これを繰り返していけば。
「へえ、やるじゃないか。でも残念。」
ジョンが次に仕掛けた魔法は肉体強化魔法だった。一気にジョンの戦闘力が上昇していく。
「それならこれでどうだ、『ボルガノン』」
地面が割れて、炎が突き出てくる。
この魔法はかわされるかとルーベルトは予測して、逃げた先にもう一つトラップをすでに仕掛けていたが。
「同じ手は通じないよ!!」
ジョンは指を縦に振りウィンクした。
「僕が逃げるどこかに同じようにトラップを仕掛けてきているんだよね。」
完全に見透かされていた。
「こういう魔法は、僕はこうやって攻撃をかわすこともできるんだ。」
ジョンは得意げに、『ボルガノン』の影響で、地面から突き出た、がれきや岩に飛び移りながら、一気にルーベルトのもとへ加速していく。
「こんな攻撃のかわし方見たことない。わずかな小石や、岩の先端も踏み台に利用できるなんて。」
まるで猿。いや、猿を超えた人物だ。
『ボルガノン』から出た岩を利用して、一気にルーベルトに近づき。
「それじゃ、お先に~」
こうしてルーベルトの顔の前にジョンは手をかざし、今度は雷の光線が出た。
ルーベルトはその光線のダメージをもろに食らい、体がしびれていた。
そして、ジョンの剣の一振りで、その場に倒れこみ、試合終了。
「ジョン選手の快進撃が止まりません。一気に二人勝ち抜き。これでセディア魔道学院は残り、4人!!」
「すまない皆。」
ルーベルトを出迎える。
「なんか僕、負けが続いてて、頼りないよね。」
ルーベルトは少し悲しい目をしているが。
「そんなことはない。きっと強くなれと言っているんだよ。」
僕は、そういってルーベルトを慰める。
「ああ、これからも頑張ろう。ラピス戦だって、今回だってかなり良かったぞ。それに午前中のラピス戦からの連戦だ。魔力も十分に回復しなかったんだろう。」
アンソニーはそう言って、ルーベルトに手を差しだす。
男同士、ルーベルトはその手に拳で答える。
「ああ、皆、ありがとう。」
ルーベルトは気持ちを切り替えながら、その場に立ち上がった。
しかし、あの猿のような身のこなしの剣士。どうにかして動きを止められないだろうか。
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