#75.ルーベルトの事情
一夜明けて、準決勝、決勝が行われる大会最終日。
準決勝の相手は、ラピス率いる、ボーラン士官学校第1学級。
相手のとって不足なしだ。
今日も、カミラさんから軽く、手ほどきの朝練をして、闘技場に向かう。朝練がいつもより違うことは、僕とミランダとカミラさんしかいなかったこの場所に、同じ班で、同じ学級のリリアンが加わったこと。
昨日の、一件、リリアンが重要指名手配犯のギエルに襲われてから、このモナリオ侯爵家の屋敷でしばらく預かることになった。
昨日今日で、小さなお泊り会をミランダとリリアンでやったのだろう。
リリアンは昨日の一件のトラウマがないように思える。十分に休めているのではないだろうか。
闘技場へ向かい、控室に入る。
リリアンの昨日の一件は、居合わせていない、ルカ、ルーベルト、アンソニー、そしてピエール先生に話が伝わっていた。
「リリアン、昨日は大丈夫だった?」
ルカが、リリアンに向かって言う。
「まさか、あのギエル=ロドバンドが現れるなんて。」
アンソニーとピエール先生は、神妙な顔と、リリアンが元気そうな顔を見て、ホッとしたような顔で迎えた。
「みんな、心配してくれて、ありがとう。大丈夫だから。」
リリアンは言った。
「そうね。今日は準決勝も、決勝も、その後も楽しみましょう。リリアンはしばらくうちで預かっているし。」
ミランダが、気持ちの切り替えを促しているのだろう。元気がいい。
僕のことをよくわかってくれて、フォローしてくれる。ありがたい。
「おう。そうだな。とにかく今日は盛りだくさんな一日になりそうだぜ!!」
アンソニーが言った。
「そうだね。リリアンが元気なのを見て安心したよ。頑張ろう。」
ルカも気持ちを切り替えたようだった。
「さあ、翔太朗様、まとめをお願いしますね。」
ミランダが僕にまとめを振ってきた。
「昨日は、リリアンの一件があったけれど、こうして無事なことに感謝だ。リリアンが元気なんだ、僕たちも頑張ろう。そして、ミランダの言った通り、今日は楽しもう。初めての準決勝、初めての出場で、そしてみんな、この魔道学院に入学してきて、皆と知り合ったばかりなのに、ここまで来れるのは本当にすごい。楽しんでいこう!!」
僕は、皆に声をかけた。
「それでは、準決勝第一試合、セディア魔道学院1年5組対ボーラン士官学校3年第1学級の試合を始めます。二つのチームの方々は担当教員スタッフ含めまして、全員、試合会場の方へお越しください。」
司会のアナウンスがかかったので、招集に応じて、僕たちは会場となる、バトルフィールドへ向かった。
大会最終日、準決勝と決勝が行われるだけあって、闘技場には満員の観客であふれていた。
メインフィールドに集められた両チーム。やはり間近で見たが、ラピスの魔力がけた違いに多い。
緊張はしているが、楽しまないと、心の中ではリラックスモードだ。だが、ルーベルトだけは、汗をかいているような・・・・・・。
僕たちは一列に向かい合った。そして、司会者がルールを説明する。
「準決勝のルールは、10分間のシングルバトル。今までの予選と同じで、10分を過ぎても決着がつかない場合は判定勝ちになります。代表者は5名選んでいただき、5回戦のうち先に3勝したほうが勝者となります。また、バトルフィールドの外周に、白い線を引かせていただきました。学級の皆さんは試合中は白い線の外でお待ちください。待機場所として、椅子をご用意しております。尚、出場されている選手の方は、試合中白い線から出ても構いませんが、白い線の外から攻撃をすると失格になります。そして、試合中に待機者が白い線の内側に入ってくるとこれも失格になります。必ず守ってください。そして、今回のバトルには、先攻と後攻があります。誰を何回戦に投入するかはそれぞれの判断に任せますが、先攻のチームが投入する選手を先に出してもらい、後攻はその選手を見てから投入する選手を選んでもらいます。実質後攻の方が有利なので、回戦ごとに先攻と後攻が入れ替わります。つまり、各チームの戦略も重要なカギとなります。では、まずは代表者5名を決めてください。」
なるほど、5人選ばないといけない。か。
「どうする。とりあえずみんなの意見を聞いてみようかな。級長の翔太朗君から。」
ピエール先生はみんなに聞いてくる。
「5人か。このチームは7人いるので、昨日の一件でギエルに応戦した、マリアとリリアンは休んでほしいし、余計な戦闘で疲れが残っている可能性もあるから、大事をとってという意味で。それ以外のメンバー5人で挑みませんか。」
僕は、提案してみた。
「いい案だね、翔太朗君。流石は級長だな。」
ピエール先生が言った。どうやらピエール先生も同じような考え方を持っていたらしい。
「そうですわね。それがいいかと思います。決勝も見据えて。」
ミランダも頷いた。
「あの、ありがとうございます。頑張ってください。」
リリアンは申し訳なさそうに言った。それはマリアも同じでその提案に乗った。全員出たいという気持ちはあったが、今回に関しては満場一致でそのように決まった。
確かに重要指名手配犯と対峙した後だ。休んだ方がいい。
「両者決まったようですね。それでは先攻と後攻を決めます。」
司会が先攻と後攻を決めた結果。先攻は僕の学級になった。
「それでは第1回戦、セディア魔道学院1年5組の皆さん、1回戦に参加するメンバーを選んで、バトルフィールドの中央までお越しください。」
誰にするか迷うが。1人、目が炎となって燃えている目が合った。
「僕に行かせてほしい。きっと相手は僕の想定した人物が出てくるはずだから。」
そう言ってきたのはルーベルトだった。確かに今までのルーベルトとは違う何か違う雰囲気が出ている。
気合といい、気迫と言い十分すぎる人物だった。
その気迫に押し倒されたのだろうか。
満場一致で1回戦の選手はルーベルトに決まった。
ルーベルトは堂々とした風格で、バトルフィールドの中央へ向かう。
「この間の試合に負けたからでしょうか。」
リリアンは僕とミランダに内緒話をしてくる。
ルーベルト以外のメンバーは司会に指示された通り、バトルフィールドの外周の白線の外で待機している。
「さあ、どうだかわからないな。」
僕はリリアンに応えた。ミランダも。
「あいつのことは昔から何のことかさっぱり・・・。」
ミランダはため息をつきながら答えていた。
「それではボーラン士官学校、相手はルーベルト選手です。ルーベルト選手と戦うにふさわしい選手を起用して、こちらにお越しください。」
司会に指示され、中央へ来た人物に驚いた。
そこに来たのはラピスだった。
「な、いきなりラピス。」
ピエール先生も驚いていた。
これはかなり驚いた、正直、『鷲眼の術』が使える僕の試合にラピスが出てくるのではと思っていた。
「ああ、少なくともこんな展開でラピスが出てくるとは。翔太朗君が出てきたなら話は別だっただろうに。」
ルカも驚いていた。
「なるほど、ラピスの勢いでこっちの士気を下げるのも目的の一つなのでしょう。」
ミランダが言った。
待機場所にいた、僕たちはとても驚いた。そして、驚いていたのは僕たちだけではなく。
―な、なぜラピスが僕の相手に出てくるんだ。少なくとも予選の個人の試合で勝っているメンバーにラピスが出てくると思ったのに、それに僕が出てきたのならば・・・・・。―
バトルフィールドの中央にいたルーベルトも同じだった。
「私が出てくると思った?ルーベルト。ざーんねん。」
誰かの声がする。ルーベルトには聞き覚えがある声。
声の主は、同じく待機場所にいた、ボーラン士官学校のラピスと同じ班の女性。明らかにこの人も、ザ、貴族という感じの人だ。
「私たちは前から考えていたの、ルーベルトが出てきたときにラピスを当てようって。」
「だ、ダコタ!!」
ルーベルトはその声の主であるダコタの名前を呼ぶ。
「いいわ、ルーベルト、ラピスに勝ったら、あなたの言うことを一生、聞いてあげる。そして、そうだわ、あなたは私のことが苦手のようだし、私との縁談を破棄してあげる。でも負けたら、私はずっとこのままの関係ね。さあ、頑張ってラピスに勝つといいわ。ラピス、思う存分やっちゃって。」
「縁談を破棄・・・・・?」
僕は一瞬言葉に疑問を持ったが。ルーベルトは少しタイムを取り、僕たちのもとへ駆け寄ってきた。
「すまない。こうなったら、全力でラピスに挑ませてもらうよ。横から声をかけてきたのはダコタ。こっちもすまない。僕の事情にみんなを巻き込んでしまって。ダコタ、ダコタ=スプライトは僕のお見合いで知り合った婚約者なんだよ。」
僕たちは全員、目を見合わせる。
「こ、婚約者!!」
「ああ、何年か前に、父上の仕事がうまくいっていないときがあってね。そんなときにダコタのスプライト家の人と知り合うことになって、スプライト家が一時援助をする代わりに・・・・・・・・・・。」
なるほど、そういうことか。
「ああ、何年か前のあの遠征の時に、確かにルーベルトのお父様は怪我をされて、それから調子が出ないと言っていましたね。」
ミランダがそう言った。
「今思うと、あの時から、あなたは変わってしまったと思ったのですが、なるほど、そんなことが。」
ミランダがさらに続ける。そして目を閉じ。
「いいですわ!!行ってらっしゃい!!ルーベルト、あの女にあなたの強さを見せつけてきなさい!!」
ミランダは大きな声を上げてルーベルトに言った。
僕、そして学級のみんなも大きく頷いた。ラピスはともかく、あのダコタという人は僕も苦手だ。
絶対にルーベルトの実力を見せつけて、ラピスに勝つ。
僕たちの応援に力が入った。
「準決勝第一試合の1回戦。ルーベルト選手対、ラピス選手。さあ、ルーベルト選手は突破口を見つけられるか、ラピス選手はここでも貫録を見せつけられるか、そして、先ほども面白いやり取りが見受けられたが、ルーベルトは勝ち取って、チームメイトに実力を示せるか、司会開始です。」
司会の声も先ほどのやり取りを見ていたのだろう。事情は伏せながらの実況ではあったが熱が入っている感じだった。
試合開始の合図がなされる。
絶対にラピスに勝つ。ルーベルトの気迫が伝わってくる。雷魔法で、ラピスの詠唱を阻止しているようだ。
速い。ルーベルトってこんなにスピード能力が高かったか。
僕は思った。とにかくルーベルトはラピスを狙っている。確かにラピスの高い防御魔法でさっきからずっと攻撃は阻止されているが・・・・・。ラピスは防御魔法の対応に手いっぱいのようだ。ほかのことは何もしていない。
「ああ、ルーベルトには気持ちがこもっているな。こんな速さで魔法を唱えられているのがすごい。」
カミラさんが言った。
「絶対に、絶対に、絶対に勝つ。勝って、ダコタをぎゃふんと言わせてやる!!」
ルーベルトは気持ちを一気にぶち込み、どんどんどんどん、魔法詠唱が止まらない。
「一回くらい、通らないだろうか・・・・・・。」
僕はそう思っていたが。その時は訪れる。
一瞬、防御魔法の勢いが止まった。そして、そのまま、ラピスを吹き飛ばし、外周の線の外に出すことができた。
「いいぞ、ルーベルト!!」
僕は、笑顔でルーベルトを応援する。
「さあ、ここからだよ。ルーベルト!!」
ミランダも元気よく応援していく。その勢いをつけていくかのようにルーベルトはラピスを外周の線の外に出しても攻撃をやめなかった。
しかし、攻撃をかわしながら、ラピスは再び線の内側に入り、防御魔法を行っている。
「大丈夫かな。ルーベルト。」
ラピスを一度線の外に出したが、カミラさんは心配そうに見つめている。
確かにそうだった。
「威力の高い魔法をひっきりなしに連発している。どこかで、魔力がきつくなるところがあるよ。」
確かにそうだ。魔力がなくなってきつくなる場面が出てきてもおかしくない。
そして、その時は運悪く訪れてしまった。明らかにルーベルトの魔法の勢いが弱まっていく。
そして、ラピスは一気に防御魔法を解き、攻撃魔法に切り替える、すさまじい、攻撃魔法をルーベルトはかわし続けたが、ついに命中してしまい。
「勝負ありました。やはり強かった、ラピス選手。しかし、あの高度な魔法をひっきりなしに打ち込んでいくルーベルト選手にも敬意を表しましょう。」
会場は拍手に包まれている。
魔力が尽きかけているルーベルトは、限界だったようで、最後自力で待機場所に戻ってきたのがやっとだった。
僕たちはルーベルトをすぐに椅子に座らせ、リリアンの回復魔法で体力を回復させ、魔力回復用のポーションを渡した。
ルーベルトは待っていたかのように、そのポーションを一気飲みする。
「すまなかったね。みんな。魔力が尽きかけてしまった。」
ルーベルトは、ポーションを一気飲みし終えるとそういった。
「ナイスファイトでしたよ。あのラピスにここまで。」
「ああ、そうだとも。僕たちに勢いをもらったようなものだよ。」
僕とミランダは言った。ほかのみんなも頷いている。
「あの、ルーベルトさん。」
ルーベルトを呼ぶ声がする、振りかえるとそこにはラピスがいた。
「ありがとうございました。」
ラピスは、握手を差し出してきた。
「勢いのある攻撃、前半、私は本当に防御魔法をするのがやっとでした。」
ラピスは淡々と語る。
「ダコタと私は普段は仲が良くて親友なのですが、向こう見ずなああいう性格はとても苦手で私も手を焼いています・・・・・・・。今日も、本当はそちらの『鷲眼の術』を持った方と手合わせして見たかったのですが、あの子の意志の強さに負けてしまいまして、この試合、私が出ました。あの、きっと、きっと大丈夫です。ダコタと仲直り、できますよ。きっと。」
最後は恥ずかしそうにラピスは照れていたが、こちら側の待機場所に来てくれ、自分の気持ちを素直に伝えたところは素晴らしかった。
「ああ、そうだといいね。」
ルーベルトはラピスと握手を交わした。その顔は笑っていた。
「それでは、第2回戦の試合を行います。それでは攻守交替して、ボーラン士官学校の方、選手を選んでください。」
司会に言われて登場したのは、そのルーベルトの婚約者、お見合い相手のダコタだった。
「翔太朗様、出番ですわよ。」
ミランダに促される。
「翔太朗君が行こうよ、級長として、ルーベルトの仇を討ってさ。」
ルカも僕が行くように促していた。
「そうだね。ルーベルトの仇、級長として、見過ごせないね。」
僕はそう言ってバトルフィールドの中央に向かった。
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