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#71.気持ちの切り替え


 試合が何試合か続き、僕の班の最後はルーベルトの番だった。

 相手は、ルーベルトよりも少し背の低い男子だった。

 

 相手の男子には目に力が入っている。

 そして、緊張しているのだろうか。


 「確か相手の男子の班はほかの試合は負けているのよね。自分が勝たなければという思いが強いのだと思う。」

 リリアンが冷静に分析する。確かにそうだ、相手の男子が所属している班は、この大会2日目、負けが続いている。後がないと思っているのだろう。


 試合開始の合図があった。

 

 相手の男子から先制してくる。勢いがある。ただ、勢いがありすぎているのがルーベルトの目に映っていた。

 「落ち着いて入ろう。」

 一発目の攻撃をルーベルトはかわして、すぐに魔法陣を仕掛ける。

 炎の魔法陣を相手の足元に仕掛けた。

 地面が噴火したかのように炎があふれる。

 「『ボルガノン』だ。少年よ。僕の方ばかりを見て足元まで見ていないよね。」

 ルーベルトは、相手の男子に向かって、余裕の表情を見ている。


 ボルガノンが相手の男子にクリーンヒット。よし、いいぞ。

 相手の男子はしまったという表情だ。


 このまま一気にたたみこんでやるか。ルーベルトはそう思った。


 次の魔法もボルガノンだ。そして、地割れのように相手に向かって飛んでくる。相手は足元を見るようにしたのだろうか、次の技はかわしていった。


 「ほらほら、今度は足元ばかりを見ていると・・・・・・・。」

 ルーベルトが威圧するかのように相手に向かっていった。

 

 ゴロゴロ!!

 上から雷の魔法が振ってきた。ナイス。ルーベルト。


 「よし、いいぞ。ルーベルト。」

 僕も声援を送る。

 「さすが、ルーベルトだ。落ち着いて入っているぜ!!」

 アンソニーも笑っている。


 だが、相手が落ち着き始めてきた。ルーベルトの言葉がまるで自分に語り掛けているような気がして、落ち着き始めてきている。


 相手の反撃が始まる。

 「おっと。危ない。危ない。」

 ルーベルトの足元に、土魔法が現れた。ルーベルトはジャンプしてかわす。


 だが、そのかわしている間に、背後を突かれる。

背後への周り方の、体の動きは実にしなやかだった。


ルーベルトはダメージを受けてしまう。

 かなり威力の高い、水魔法だった。


 そしてその水魔法は、攻撃を行った後、一気に雨を降らしたかのようにあたりに飛び散る。

 その水の雨で、七色の虹の光が現れる。

 

 観客はそれにひきつけられていた。


 そして、そのまま、相手の男子は一気にこちらのリズムに巻き込もうとしたのだった。

 水魔法を水鉄砲のように、打ち込んでいく。

 1発、2発、と、ダメージを受け、3発目に留めの一撃であろう。大きな水鉄砲のような魔法があった。

 「まずい。」

 

 ルーベルトは、間一髪で、それをかわしていく。

 ルーベルトが攻撃をかわしたところで、試合終了。判定勝負になった。前半はルーベルトが優勢だが、後半相手の男子のコンビネーション魔法と体の動き方はかなり良かった。


 「判定が出ました。」

 司会が、結果を読み上げる。

 僕は、心臓がどきどきする。今日いちばん緊張した。


 「勝者、ラビウェイ魔法学校。クリフ選手。やはり最後のコンビネーション魔法が観客を魅了されました。」

 ルーベルトが負けてしまった。

 

 「残念だったね。でもコンビネーションの魔法すごかったです。」

 リリアンが言った。

 「ああ、おそらく観客の大方の票はクリフ君だろう。彼の魔法は戦うというか、見せる魔法だね。」

 ピエール先生もクリフという、相手の選手の魔法を分析した。


 

 試合終了後の挨拶を交わして、ルーベルトは会場を後にする。何か悔しい表情がその顔にはある。


 控室で、僕たちはルーベルトを待っていた。だが、しかし、ルーベルトは一向に現れなかった。

 

 「ルーベルト、遅いですね。」

 僕が、少しみんなの顔を見回しながら、言ったが、

 「このまま、悔しい思いがあるのでしょう。少し長く待ちましょう。こういう時の気持ちを汲み取るのも級長の仕事、そして、私たちですわよ。」

 ミランダは、落ち着いて僕に向かっていった。

 

 「そうだな。ごめん。ミラ様。みんな。」

 僕はみんなに謝るが。


 「いや、別に大丈夫。翔太朗君の言っていることも一理ある。普通なら、どんなに遅くても控室に戻ってきている時間だ。」

 ピエール先生は僕に向かっていった。



 ルーベルトは、悔しい表情を浮かべながら、闘技場のメインフィールドを後にして、出入り口に差し掛かった。その時だった。

 「おや、ルーベルト、かなり無様ね。あなたのチームは確か・・・・・・。あ、あなただけ負けたの~勢い止めちゃった。恥ずかしいわね。」

 どこからか声がする。いやらしそうな貴族の声だ。


 ルーベルトは振り返る。するとそこには、明らかに、高飛車な顔つきの、ロングヘアの女の子が立っていた。

 「ダコタ・・・・。」

 ルーベルトは立ちすくむ。


 「いい心がけね。困難で私を養っていけるのかしら。」

 ダコタという女性は、かなりにやりと笑っている。

 

 「ダコタ。どこにいるの?もうすぐ試合が始まるよ。」

 彼女を呼ぶ声で、ハッと我に返る。ダコタ。そして、ルーベルトも我に返る。


 「はーい。ラピス。」

 ルーベルトを威圧するかのような声のトーンではなく、普通の女の子の明るい声色にダコタは戻し、元気よく手を上げて、そして誰にも見せたことがない笑顔の表情で、ダコタは呼ばれた方向へと走っていく。

 ダコタが走っていった方向に、もう一人、金髪で、こちらは髪の毛が肩まで届くか届かないかの少女がいた。頭には頭巾をかぶり、いかにも清楚系な感じの子だった。

ラピスという少女は、ルーベルトに向かって軽く会釈をする。ルーベルトも会釈をし直す。


 「応援よろしくね。ダコタ。」

 「うん。でもラピスなら一瞬で行けるよね~」

 「油断は禁物よ。」

 そういって、ラピスはバルコート、つまり、メインフィールドに向かっていった。


 ダコタは、もう一度ルーベルトの方に近づく。その表情は何かを見下すような貴族の表情に戻っていた。

 「なによ。あんた。ラピスに会釈なんかして。まあ、いいわ。あなたもラピスくらいの力があれば、見直してあげるわ。よく見てなさいよ。次のラピスの試合。」


 ルーベルトは、舞台袖越しに、ダコタと一緒に、ラピスという少女の試合を観戦することになった。


 勝負は一瞬にして、ラピスの勝ちに終わった。


 ―なんだ、この魔力。そして、この魔法。マリアや翔太朗君よりも。―

 一瞬、ルーベルトは言葉に発してしまうところだったが、ダコタがいる前で、それは禁句だった。


 「どう、私たちの級長。ラピスは。」

 鼻を高くしながら、ダコタは言った。

 「あ、ああ。かなりやるじゃん。」

 ルーベルトは、誤魔化しながら、冷や汗をかきながら、こう返すのが精いっぱいだった。


 ラピスが、ダコタの居る方向へ戻ってきた。

 「ラピスお疲れ~。」

 ダコタは、ラピスにハイタッチする。ラピスもそれに笑顔で返す。


 「応援してくれてありがとう、ダコタ。戻りましょうか。」

 ラピスに連れられて、ダコタは戻っていく。

 そして、ダコタはルーベルトの方を振り返って、アッカンべーをし、ルーベルトを見下しながら控室の方に戻っていった。


 1人立ち尽くすルーベルトの姿がここにあった。


 ―やはりあってしまったか。ダコタに。それにしてもラピス。ダコタの話から聞いていたが、これほどとは。―


 少し考え事をするルーベルトであったが。


 「いけない。僕も控室に戻らないと。」

  と、我に返り。控室に戻っていった。


 

 ルーベルトが控室に戻ると。みんなが心配そうに出迎えた。負けたということの心配ではなく。戻ってくることが遅かったことについて、心配していたのだった。


 「遅かったじゃないの。ルーベルト。みんな心配していたのよ。」

 ミランダが開口一番に言った。

 「すまない。ミランダ。みんな。負けてしまった。」


 「何を言っているの。そうじゃなくて・・・・。戻ってくることが遅かったのに心配していたのよ。」

 ミランダが、さらに言った。


 「すまない。ちょっと、いろいろあってね。さっきの、ラピスっていう子の試合。その子とすれ違って、ものすごい魔力を感じたから、是非、舞台袖で、生で見てみたいと思って、観戦していたんだよ。」

 半分あっているが、半分は間違っているような言い訳だ。


 「そう、なのですね。ならいいですわよ。」

 ミランダが開き直る。


 「負けたことについては、誰も攻めていないさ。ここまでいい成績で来られているのは、展開が向いていたからかな。流石にどの試合も、うちの班は接戦だ。みんな、学校の予選を勝ち抜いただけのことはあるね。ルーベルトも切り替えて次に行こう。」

 ピエール先生が言った。そして、その隣で、カミラさんも頷く。


 「大丈夫だよ。ルーベルト、切り替えていこう。」

 僕も、ルーベルトに向かって元気づけた。


 「そして、ラピスっていう子の試合もすごかったね。一瞬だった。僕も、控室で、映像越しだけど、見ていたよ。」

 話題をうまく変えた。


 「ああ、かなりの腕だな。負けたことは気にするな。こういう大きな大会だ、ラピスくらいの実力者がいたっておかしくない。大丈夫だ。」

 カミラさんも、ルーベルトの肩をポンポンと叩きながら言った。


 「ええ、そうですね。ラピスを倒すことはまた後で考えましょう。きっと、翔太朗君や、ルーベルト君なら大丈夫です。」

 リリアンが、言った。そして、マリアも頷いている。

 しかし、不安ではあった。ラピスという子を倒さない限り、優勝は難しい。だが、マリアもいる、そして、僕にも『鷲眼の術(イーグル=アイ)』がある。みんなでカバーすれば、そう思った。


 しばらく、試合が続いた。そして、ラピスの他にもう一人、すごい魔法を使う人が現れた。

 サファイアと名乗るこちらもラピスと似た感じのイメージの少女。ただ、こちらは紺色に近い髪色でストレートヘアー。明らかに清楚系なイメージではあるが、おとなしそうな感じだった。

 ラピスと同じような魔法を使って、一瞬にして相手を沈めたのだった。


 ラピスと、サファイア。とにかく、倒し方を考えてみよう。そう思った。


 試合の競技がすべて終了した。終了したころには昼過ぎを回っていた。


 「皆様お疲れさまでした。二日目の競技が終了しました。この後、一日目、二日目の合計得点を集計し、各ブロック合計得点が高い上位2チームと、各ブロックの3位以下をブロックを外して、合計得点の高い2チーム。つまり、三つのブロックかける2チームと3位以下の2チーム。合計8チームが決勝トーナメント進出となります。」

 観客が拍手する。

 

 「と、その前に。予選の最終種目を行います。毎年恒例、一発逆転、魔物倒しです。それでは、バトルフィールドを準備します。」


 司会がそう言って、バトルフィールドの準備が始まった。フィールドには、魔物がかなりの数いた。


 「今、フィールドに200体の魔物がいます。それぞれの魔物のランクはランクGで倒せる魔物もいれば、ランクBでなかなか倒せない魔物もいます。各チーム、代表者を2名、出していただき、その2名の方にこの魔物倒しの種目に挑戦していただきます。魔物を倒せば倒すほど、得点が入り、さらに高ランクの魔物であればあるほど、得点がさらに加算されます。魔物を倒した分だけポイントになります。では、バトルフィールドにお越しください。」


 なるほど、最後の一発逆転種目というわけだな。


 「僕が行かせてもらう。」

 そう声をあげたのはルーベルトだった。やる気に満ちている。

 「そうしたら、私も一緒に行っていいですか。」

 その声はマリアだった。


 やる気のある二人の目に押され、ルーベルトとマリアが、満場一致でこの種目に出場することになった。


 「気持ちが切り替わったのですかね。」

 ミランダは僕の方に向かっていった。

 確かにそうだ。ルーベルトは明らかに気持ちを切り替えていた。まさに切り替えの早い人だと思った。


 

 ―絶対に負けられない。ダコタはもちろんだが、ラピスという人にもー

 ルーベルトは、かなりの闘志を燃やして、バトルフィールドに立っていた。


 「ルーベルトさん、落ち着いて入ってくださいね。」

 マリアが見つめながら言った。

 「心配するなマリア。君も威力の高い魔法を期待しているよ。」

 「はい。私もこういう種目は自信があるので、手を上げました。」

 マリアは、笑顔で答えた。


 「ああ。頑張ろう。」


 ほかのチームの人もバトルフィールドに集まった。

 そして、試合開始の合図が始まった。


 「行くぞ。メテオ。」

 ルーベルトが一気に魔法陣を表した。


 隕石が何個も空から降ってきた。そして、何体かの魔物が倒れていった。

  

 「おっと、ルーベルト選手、先ほどの試合から気持ちを切り替えたのでしょうか、なんという威力の高い魔法で飛ばしていきます。」

 司会が一気にヒートアップしながら、実況を続ける。


 「すごい気持ちの伸びだね。流石だよ。」

 アンソニーはルーベルトの気持ちの切り替えの速さに感心している。


  

 ―絶対に、絶対に、ダコタ達に勝つんだ。―

 ルーベルトはメテオを放った後、さらに魔法で攻撃を仕掛けていく。

 それに負けじと、マリアは閃光弾をより一層魔力を高めながら、放っていく。

  

 「すごい。ほかのチームの人達と違って、あの二人、動きが違う。ルーベルトの気持ちに切り替えの速さにマリアもついて行ってる。」

 ルカが目を見開いたかのように言った。


 そして、制限時間終了の合図がなった。すごい、短い時間だったのに。かなりの魔物を僕たちの班は倒すことができた。


 「それでは、結果を集計しますので、皆様、控室でそのままお待ちください。2日目の競技はこれにて終了です。この後、約1時間後に、結果発表を行います。それまでしばらくお待ちください。お疲れさまでした。」


 

 「すごかったね。ルーベルト。」

 僕たちは飛び上がりながら、ルーベルトを称賛した。

 「ああ、気持ちの切り替えは本当にプロだな。流石は師団長の息子だ。」

 カミラさんも拍手で迎えた。


 「結果、結構楽しみだと思う。みんなをこの武術大会に推薦してよかったよ。」

 ピエール先生も結果発表に期待している目だった。





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