#64.懐かしい顔
「おめでとう、お前たち。」
冒険者ギルドのギルドマスター、ベンジャミンさんは僕たちの顔を見るや否や、祝福の声を贈る。
「いやあ、1年生の組が魔道武術大会の本戦に出場とは、すごいぜ。」
ベンジャミンさんはさらに続けた。
魔道武術大会の校内予選を終えて、僕たちは再び本戦に向けて、特訓、修業を開始した。
今日はギルドの仕事ということで、ギルド本部を訪ねた。
「そんでもって、是非お前たちにやってもらいたい仕事があるんだよ。」
とベンジャミンさんは、顔つきを変えて僕たちに依頼をしてきた。
「お前らが来てくれて、正直、ありがてえ。」
ベンジャミンさんは、仕事依頼の紙を取り出した。
『行方不明の老人の捜索』とある。
「行方不明者の捜索ですか?」
マリアが、聞いた。
「そうさ、1週間ほど行方の分からない老人の捜索だ。老人の特徴は、黒い和服。袴、草履、白髪交じりの男性だ。ここらへんじゃ目立つ服装だな。」
なるほど、つまり那ノ国、僕が元居た忍者の里の正装のような服を着ている人物を探すわけだ。
「この老人は、先週、フィオナゲートのギルド本部に自分の荷物を王都に届けてほしいという依頼を出してよ。荷物はほら、この通り。」
ベンジャミンさんの指さした方向に巨大な荷車があった。
「肝心の依頼した老人が来やしねえ。もう、1週間以上たっているんだ。流石にフィオナゲートから王都まではそんなにかからないし、報酬も未払いでな。こっちから捜索依頼を出したんだ。」
「なるほど、そういうことか。よし。みんな、老人を探すぞ。まずはフィオナゲートに急行だ。」
ルーベルトが声をかける。
「翔太朗様。フィオナゲートに行きますよ。」
ミランダも声をかけてくるが、僕はボーッと、その荷車を眺めていた。
「どうしたのですか。翔太朗様。」
ミランダがボーッと眺めている僕に向かって声をかける。
「ごめん。あの荷車に積んである荷物。いろいろと見覚えがあって。そこのふろしきとか。」
「なるほど、そうだったのですね。」
僕は素直に感想を述べた。
ポンと、ベンジャミンさんに肩をたたかれる。
「やはりか、翔太朗。だから最初にこの依頼を君たちの学級にしたかったのだ。お前のところの那ノ国の大陸の人物かもしんなくてな。」
ベンジャミンさんの質問に対して、僕は頷いた。那ノ国の大陸。
ミランダ達と出会って、二度と『那ノ国』という言葉を聞きたくなかったが、依頼は、やるしかなさそうだ。
早速、僕たちはフィオナゲートに向かうことにした。
シロンとユキナに乗って向かう。シロンとユキナでさえも定員がぎりぎりだったので、僕も鷲に変身して、空を飛んでいくことにした。
僕の背中には、リリアンと、ミランダが乗っている。
「これも修業ですよご主人様。」
そうだ。鷲に変身して、人を乗せる。そしてバランスよく飛ぶ。これも修業だ。
「翔太朗様、重くてごめんなさい。」
ミランダが言った。
「いえいえ、大丈夫です、ミラ様。」
僕は首を振る。
「大丈夫ですよ。ミラ様。このお二方が体重が軽そうかな、と思って、翔太朗様の背中に乗せた次第です。」
シロンは内緒話のように、ミランダに語り掛ける。
「褒めるのが上手ね。シロン。」
ミランダは顔を真っ赤にして、笑っている。
確かに、シロンとユキナは重そうな男子2人、アンソニーとルーベルトを背中に乗せている。
シロンの背中には、ルーベルトとカミラさん、それにマリアが。ユキナの背中にはアンソニーとルカが乗っていた。
学級のメンバーとカミラさんを乗せて、僕たちは飛び立っていった。
「ご主人様。付いてきてください。」
シロンとユキナは、僕の前を行ってくれた。
そして、フィオナゲートに到着。空を飛んで移動したからだろう。思ったほど早く到着できた。
「おお、さすがに空を飛ぶと早いね。ほんの数時間でフィオナゲートだ。歩けば1日も要するのに。」
フィオナゲートで聞き込みを開始する。まずは冒険者ギルドのフィオナゲート支部に行ってみた。
荷車を預けた老人のことは知っており、どこへ向かったかはわからなかった。
「周辺を探してみましょう。」
ミランダの声に合わせて、僕たちは、探してみることにした。
「ご主人様、街道沿いに飛んでみましたけれど、空から見た感じ、失踪したような跡はありませんでしたね。」
「そうなのか、ありがとう。助かるよ。」
まだ、鷲に変身して空を飛ぶことも少なかったので、僕は2人を背中に乗せることで精いっぱいだった。流石はシロンとユキナだ。空を飛びながらいろいろな所に目が行く。
「街道で遭難することってあるかな。」
アンソニーは疑問を投げかけてみる。
「いや、それはないだろう。王都~フィオナゲートの街道ならば人通りも多いし、誰かが気付くはずだ。」
カミラさんが冷静に意見を言う。
「そうだよな、カミラさんのいう通りだよな。」
確かにそうだ、僕もこっちの大陸に来て間もないが、わかる気がする。王都~フィオナゲートの街道で失踪して、一週間も行方が分からないのは考えにくい。人通りが多いので、人が倒れても、数分で誰かが発見できるはずだ。整備されている街道なのだから、崖や川に落ちることもまずない。
となると、徐々に絞れてきたようだ。
「カミラさん、確かフィオナゲートからもう一つ、クルレの農村経由で王都に行ける街道がありましたね。少し遠回りになるので、あまり利用する人がいないという。」
「おお、ナイスだ、翔太朗殿。確かにこっちの街道に迷ってしまったということがあるな。」
カミラさんが笑顔で、ウィンクする。
「大変だ、大変だ。」
その時、ルーベルトと、リリアンが走ってきた。
「クルレの農村に行く街道の途中の森で、数日前から盗賊が出没しているって。」
「ビンゴだ。」
「はい。」
僕たちは、お互いに目を合わせて、そして頷き、その森に向かった。
クルレの農村に行く街道へ僕たちは向かうと、そこには森があった。
『鷲眼の術』で遠くまで見渡してみる。
いた。盗賊達だ。木の陰に潜んでいる。
「いました。森の木の陰にいます。」
お互いに顔を見つめ合う。
「おとり作戦で行きましょうか。アジトまで場所を暴きたい。」
「そうですね。それがいいでしょう。」
誰かおとりを決めないといけない。
「翔太朗君は『鷲眼の術』でこのまま追って行ってほしいからパスとして。」
ルーベルトが言った。確かにそうだ。遠くまで見渡せる『鷲眼の術』があれば追って行けることができる。
「そうなると、僕と、マリアと、リリアンだろうか。二人なら、いざという時に対応できるし、仮に追跡が遅れても、マリアの魔力なら対応できるだろう。勿論僕も対応する。」
ルーベルトが提案してきた。
「そうだろうな。それがいいかもしれない。」
カミラさんもそれに乗った。みんなもそれに同情する。
「よし、ではそれで行こう。マリア、リリアン。申し訳ないけど、少しの間頑張って。」
僕は、マリアとリリアンに話した。二人は、うんと頷き、ルーベルトと一緒に森の中に入っていった。
森の中に入ったマリア、リリアン、ルーベルトの3人は、うまいこと盗賊に捕まったようだ。
そこでは盗賊が攻撃を仕掛けない限り攻撃せず、武器を捨てたふりを見せて、アジトへ向かっていったようだ。
僕たちは盗賊達を追った。
やがて、盗賊達は、川沿いに出て、そこのぼろ屋に入っていった。おそらく空き家だろう。盗賊達のアジトがここだ。
盗賊達に捕まった、ルーベルト、マリア、リリアンはそのぼろ屋に促され、入っていく。
ぼろ屋の中にいる敵の状況を把握したいが、ゆっくりしている暇はなさそうだった。
なぜならば・・・・・。
僕は、後ろを振り返り、短剣を投げた。
「チッ、気付かれていたか。」
「兄ちゃん、こんなに大勢で行くなんて馬鹿だねえ。」
周辺の見張りの盗賊達がすでに気付いていたのだ。
「翔太朗殿、早く、アジトの方へ。」
「わかった、ありがとう。」
見張りの盗賊達は、カミラさんとルカが対応する。
炎の鉄拳と、ルカの剣術で盗賊達を無双している、カミラさんとルカの姿があった。
さすがは冒険者ランクAのカミラさんだ。
肉体強化~速さ~の魔法で、一気に駆け出し、川沿いのぼろ屋に突入した。
突入する少し前に、別の見張りの盗賊が、おそらく盗賊の親方に知らせるために一気に走り出していた。
「親方、大変だ。あいつらの仲間が。・・・・。」
見張りの盗賊が叫んだとたん、僕の風魔法で吹き飛ばしていた。
ぼろ屋だったためか、扉の向こうの壁が突き抜けて、反対側が見えていた。
「ごめん、見張りの盗賊に気付かれて、急ではあったが、戦闘を開始した。」
僕は、マリアとルーベルト、リリアンに向かって状況を知らせた。
ぼろ屋の中。そこには盗賊の頭、親方と先ほど呼ばれた人物と何人かの盗賊。そして、おとりとしてとらえられていた、マリア、ルーベルト、リリアンの姿があった。
そして、最後に、おそらく行方不明になっていた老人の姿がそこにはあった。
ベンジャミンさんたちの言う通り、黒い和服に袴姿で草履をはいている。
「ご老人の方、大丈夫ですか。冒険者ギルド依頼であなたの救出に参りました。」
僕は、とらえられていた、老人に話しかける。
「ああ。大丈夫だ、ご親切に・・・・・・・・。」
老人は、一瞬沈黙。そして一気に驚いた表情になった。
「って、翔太朗!!翔太朗じゃないか。いや~、まさか本当にまた会えるとは。よかったぞ。」
老人は僕を見ながら、嬉しそうな表情をする。
僕はどうしたらいいかわからない表情だ。
「翔太朗君。この人、知ってる人?」
リリアンが聞いてくる。
「い、いや、会ったことはない。初めて会う人だなぁ・・・・・。」
僕は答える。
「おお、そうじゃったなこの姿で会うのは初めてだったの。それ!!」
老人は変身した。いや、正確には変身を解除したといった方がよさそうだ。なぜならば変身を解除した姿の方が僕は見覚えがあった。
黒く、大きな、そして年寄りなのか羽が少し年寄りの雰囲気を感じさせる。大きな鷲。
トン吉爺さんの、従魔。鷲山ワシ之信の姿がここにあった。
「盗賊ども、残念だったな。そして、よくもこの鷲をとらえてくれたじゃないか、えっ?」
盗賊達は驚いた顔をしている。
「儂も老体でな。一人でお前たちに勝つのは難しいと判断して、ここにわざと居たわけよ。誰かが一緒に来た時、協力して脱出できる作戦を今か、今かと考えていたのだ。だが、我が旧友が助けに来てくれたので、その必要もなさそうじゃな。」
ワシ之信は羽を広げて、鋭く羽ばたかせ、強い風を起こした。
「まずい。」
マリアがとっさに、僕と、ルーベルト、リリアンに結界の魔法をかける。
ワシ之信の羽ばたいた風で、アジトのぼろ屋は木っ端みじんに崩壊した。
僕たちは、マリアの結界があったためか、無傷で済んだ。
「すまんの、お嬢さん。おぬしの結界で助かったわい。儂の傍に居れば守ってあげたのじゃがその必要もなさそうじゃったな。」
ワシ之信はマリアに向かって話しかける。
がれきの下から辛うじて、盗賊の親方と、ぼろ屋に居た盗賊達が脱出してきた。
「お、おのれ~。」
盗賊の子分が言った。
「おのれじゃないだろ馬鹿野郎。」
親方はその盗賊の子分の頭をバシッと叩いた。
「なんで、魔物に変身した爺さんを連れてきたんだよこのアホ面!!」
さらに盗賊のリーダーは続けた。
「翔太朗。まだ、あいつらは元気があるようじゃな。」
ワシ之信は僕に向かっていった。
僕は頷いた。
そして、『鷲眼の術』を発動し、一気に『肉体強化~速さ~』の魔法で、たたみ掛けた。
「おお、『鷲眼の術』が使えるようになったか。それに動きもよくなっている。すごいぞ。」
ワシ之信が褒めてくれ、僕の動きに合わせながら、風魔法を発動し、盗賊にとどめを刺した。
そして、盗賊を捕らえ、フィオナゲートの港町に戻り警備に引き渡した。
「お疲れさまでした。」
「ありがとうございました。」
そういって、警備の人達は盗賊達を連れて、引き上げていった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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